宝屋物語 5
果たされなかった店長との約束
私は、採用された時に店長から、POP作成専用のパソコンの導入を、約束されていた。
私は、まだかまだかと、待っていた。
新しいパソコンが入れば、仕事上の立場も環境も、好転すると
思っていた。
何度も、店長からは「 もう少し、待っていてね。」と言われていた。
私は、店長の言葉を信じて、待つしかなかった。
しかし、その日が来ることは、とうとう無かった。
宝屋の経営は、それどころでは無かったのだ。
宝屋再建の為に社長になった、銀行からの出向者
私が宝屋に入社した頃は、創業者は経営から手を引き、取引銀行
からの出向者が、社長を務めていた。
月初めの朝礼は、食堂に集められ、社長からのビデオメッセージを
見ることになっていた。パートも社員と一緒に参加した。
社長は、品が良く、優しそうな人だった。
残念ながら、メッセージの内容は覚えていないが、ちゃんとした
組織なんだと思えた。
ちゃんとした組織の会社で、自分は働いていると思っていた。
しかし、その思いは裏切られた。
優しそうな社長が、例え やり手でも、すでに手遅れだったとしか
思えない。宝屋は、すでにドロドロと腐っていたのだ。
腐った組織 と 粉飾決算
機能していなかった組織。
職場のイジメ。
止められなかった、経営難の最中の新店舗出店。
いち早く食堂に集められ、再建の為とリストラされた妊婦たち。
それでも、避けられなかった『 経営破綻 』。
自社株で積立していた、宝屋共働き夫婦の落胆。
給料未払い問題に、立ち向かった労働組合員。
発覚した、驚きの『 粉飾決算 』。
トドメは、創業者の退職金請求の裁判。
宝屋の経営破綻が、報じられて間もなく、社長の訃報が届いた。
胃がん だったそうだ。
お気の毒に‥‥。私は心の中で、社長の御冥福を御祈りした。