宝屋物語 4
先輩の暴走に疲れ、上司にも不信感を抱く
先輩の奇行は、エスカレートしていった。
それでも一部の人が、先輩の肩を持った。
困ったことに、採用担当も務めた上司が、先輩をヒイキした。
すると今度は、その上司の良くない評判が、聞こえてきた。
サービスカウンターの担当者と話をした時、その上司について
不満を述べていた。
その上司に対して、ワァワァと騒ぎ立てる人が、メンバーの中にいて、
決して正しくはないのに、その人の言い分が通ってしまうらしい。
そして、おとなしいと思われている自分達に、しわ寄せがきていると
言うのだ。どうやら上司は、うるさい人・面倒くさい人に弱いらしい。
筋も通らず、公平ではないと、誰もが思っていた。
私も、同じ気持ちだった。
先輩も、その上司に対して、何かとワァワァ言って、自分の主張を
正当化していたのだ。
私は、同じ上司に対して、口もききたくない程に、不信感を抱いた。
時間は、容赦なく過ぎていき、私は疲弊していった。
先輩に反論することも、まだまだあったが、理解できない相手との議論は、無駄なことに思えた。
「 あなたは、どうしてココに来たの?募集もしてなかったのに。
あなたなんて、早く辞めればいいのに。」
先輩は私に対して、何度も何度も、そんな事を言うようになった。
すると、同じ部屋にある外商部の男性2人が、本気で私のことを
心配してくれるようになった。
「 イヤなことがあっても、生きていたら良いこともあるからね。」
「 生きててこそだよ。」
そう声をかけて貰って、有り難かった。でも、私は少し驚いた。
私には、大げさにも思えたから。
でも後日、外商部の2人が、どうしてそんな事を言ったのか、
私は知ることになる。
将来を期待されたエリートの自殺
季節は移り、あっという間に夏がきた。
8月になると、周りの社員たちがザワザワしてきた。
「 もうすぐ、初盆だね‥‥。」
「 どうする?お参りに行く?」
何の話をしているのか、はじめは わからなかった。
「 この前、お参りに行った人がいたけど、家の中には
入れてもらえなかったらしいよ。」
そんな話が聞こえてきて、驚いた。
えっ?誰か亡くなったの? 私は、耳を澄ませた。
すると今度は、行った人が遺族から言われた言葉が、聞こえてきた。
「 宝屋のせいで死んだ。宝屋の人に、参って欲しくない。」
「 宝屋の人は、帰ってくれ。」
そう言われたらしい。
地方にある宝屋で働くのは、地元の人が ほとんどだった。
正社員でも、地元の高校か大学を卒業した人。
そんな中、都心の有名大学を卒業したという新入社員がいて、
実家がある地元へのUターンだったらしい。
会社は、彼を幹部候補として、期待していた。
彼も、それに応えようと頑張っていたという。
なのに、彼を指導する立場にあった社員が、彼を いじめていた。
今で言う、ハラスメントだと思う。まさしく、パワハラ。
いじめる側の人間は、高卒だった。学歴のコンプレックスが
有ったとしか思えない。
学歴も人間性も、自分より下の人間に、めちゃくちゃな指導を
受けなければならなかった彼は、どんなに悔しかっただろう。
社内で、誰も指導者に注意する人は、いなかったのか。
彼の絶望を想像した。
そして、彼は死を選んだ。
会社は、自殺の理由を、理解していたのだろうか。
彼が死んでも、いじめていた指導者は、何も責任を問われなかった。
その後も、何食わぬ顔で働き続けた。
周りの人は、イジメの事実を知っていたのに。