まゆたろー物語〜中編〜
「うわぁあああ!好きな顔だ!やばい!おねーちゃんちょっと見て!ほら!好きな顔!やばい!運命だよ運命!うわぁああああーー!!」
まゆたろーが好きになる基準は至ってシンプルだ。
この世に2種類しかいない。
好きな顔か、それ以外かー
昔から、
目が細くて
一重で
笑うと目が無くなって
鼻が高くて
面長で
色白で
ガチャ歯な人が、好きだ。
画面に映っている人は、メンタンピン三色ドラドラ赤くらいそれはそれは美しく見えた。
その人こそが、松本吉弘プロだった。
「うわ〜〜〜〜きみ好きそう〜〜〜〜wwwww」
おねーちゃんがそう笑っていた。
父と麻雀を打つことが目標だったが、
すぐに新しい目標ができた。
「松本プロに会いたい!!!!」
麻雀のルールもよく知らないのに、
2週間後に迫っていた鈴木たろう&松本吉弘トークショーのチケットをすぐに購入していた。
"いつか松本さんと麻雀を打つことが夢です!
松本さんに会うために麻雀勉強します!
だいすきです!"
とか、そんな感じのファンレターを書いて渡した。
「お手紙大事にしますね!」
最初に、ありがとうございますと受け取ったあとしばらくして、
もう一度、わざわざこちらの方に来て、
そう話しかけてくれた。
私だけじゃなくとにかく気遣いがすごい方で、
常に周りを見ていたし、
色んな人に話しかけたり、
ファン同士が仲良くできるように取り持ったりしていた。
お客さんが帰る最後の最後まで"松本吉弘"で、
低姿勢で気遣いを忘れない方だった。
好きな顔以外に、プロ意識が高くて自己プロデュースが出来る人も大好きだった。
自分が想像していた松本プロは、
その遥か彼方を行く人だった。
そして麻雀プロについて調べるうちに気がついた。
"麻雀プロに会うには、麻雀が打てないと会えない"
という現実だ。
早く麻雀を覚えて、松本さんの追っかけをしよう!と決意した。
そこから麻雀の勉強が始まった。
とは言え、挫折の連続だった。
頭が悪すぎてとにかく覚えられなかった。
学習障害のせいで簡単な算数や、
数を数えることが苦手なことが如実に足を引っ張っていた。
しかも、感受性豊かで、
お豆腐より軟弱なくそざこ弱々メンタルの私は、
ただただ、麻雀のことを他人に色々言われることがつらくて、
楽しい気持ちよりも、落ち込むことの方が圧倒的に多かった。
ゲストの予定を眺めながら、
ただ焦る気持ちだけが募っていた。
リアル麻雀を初めて1ヶ月半くらいの時だった。
「そんなこともわからないんですか?」
「こないだ教わってましたよね?」
「そんなことしたら松本さん怒りますよw」
麻雀中にまくしたてるように言われて、
バキッと音が聞こえるほど心が折れた。
麻雀は、もうやめよう。
今まで積もり積もったものが爆発したかのように、
辛すぎて2日間泣き続けた。
大人になってから人生で一番落ち込んだ日だった。
そんな私を気遣って、
松本さんは励ましてくれた。
「そんなことで怒らないし麻雀は楽しむものだから。
もし向いてないと思ったら観る専門でも良い。
無理してほしくないけど、
麻雀は楽しいものだから、
諦めないで続けてくれたら嬉しいな。」
挫折したり傷ついたりして、
麻雀やめたいって思うたびに、
いつもその言葉を思い返している。
松本さんは、私がまだ打てないときからずっと、
落ち込むたびにいつも気遣ってくれて、
何度も何度も、
たくさんの励ましの言葉を投げてくださった。
素直に受け取れない時もあったし、
私の気遣いが足りないことも度々あったのに、
それでもずっと味方だからっと言って、
見守っていてくれた。
いつもそのたくさんの言葉たちと松本さん自身の活躍に支えられていた。
親としては酷い父親だったが、
人間としては、義理堅くどんな些細なことでも必ずお礼やお返しを欠かさない人で、そう育てられた。
「頂いたご恩は忘れずに、
いつか松本さんに恩返しがしたいです。」
そう伝えていたし、
周囲の人たちにもそう話していた。
後編へ続く