幸せの群衆
無邪気に歌う声が聞こえたかと思うと、いつの間にかたくさんの人に囲まれていた。
「幸せなら手をたたこう」
そう言ってパンパンと手を鳴らしながら、わたしの周りで大きな声で歌っている。
「幸せなら手をたたこう」
まるでその音がとても愉快であるように、彼等は笑っていた。歌いきれずに笑い転げているものまでいた。それを見て馬鹿にしたように笑っているものも。とにかく、一様にみなが笑っていた。
あっけにとられていると、集団の中の一人がわたしに近づいてきた。
相変わらず笑って歌いながら、促すように目線を合わせてくる。
「幸せなら手をたたこう」
またそう言ったかと思ったら、集団はピタリととまった。皆、両の手のひらを表に返し、合図を待っているようだった。
長い沈黙が流れていた。彼等は、ただじっとわたしを見ている。
しかし、わたしは叩けなかった。幸せではなかったからだ。
「できません。わたし、嘘はつきたくない。」
はっきりと伝える。すると、固まっていた集団は、両手をだらんと下ろして、虚ろな表情を浮かべているだけとなった。それはまるでゾンビのようであった。
わたしは彼等を置いて歩きだした。
しばらくして、また遠くで歌う声が聞こえた。死んだようだった彼等は生気を取り戻したかと思うと、パレードの如く、その声に向かって行進していくのだった。
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