【18日目】Qアノンの正体

 こんばんは。前哨戦としてのクズ野菜炒めです。
 さて、今回は映画ではないんですが、Qアノンの正体を見ました。ドキュメント映像作品って感じでしたね。

ストーリー
ドキュメンタリー映像作家のカレン・ホーバックが、陰謀論者たちの集団・Qアノン運動の内情を探る旅に出る。インターネットの闇の世界へと足を踏み入れ、著名なQ信奉者や政治評論家、ネット荒らしなどに接触しながら、Qの正体に迫っていく。

 さて、まずQアノンについては下記を参照くださいな。

 簡単に言えば、

アメリカの極右の陰謀論である。この陰謀論では、世界規模の児童売春組織を運営している悪魔崇拝者・小児性愛者・人肉嗜食者の秘密結社が存在し、ドナルド・トランプはその秘密結社と戦っている英雄である

 こういう思想の人間の集まりです。このQなる人物は米国の掲示板サイト、8チャンに投稿し、詩的な内容と機密情報の暴露を武器に人気を集めていきました。ここらへんでまず、面白かったのはこの8チャンができるまで。

 8チャンはフレドリック・ブレンナン(以下、フレドリック)という骨形成不全症を持った男が立ち上げます。動機としては“「みんな違ってみんないい」という教育を、ネット上の掲示板は嘘だと看破し、教えてくれた”ためという。その後、この8チャンは資金/運用の面での困難により、ジム・ワトキンス(以下、ジム)に売却。雇われオーナーとして働くことになります。ジムは息子のロン・ワトキンス(以下、ロン)を当サイトのプログラマーを担当させます。このドキュメントはこの3人を巡るスリルあふれる頭脳戦の様相を呈してきます。

 さて、それはさておき、8チャンが成立するまでを見ていきましょう。まず、ひろゆきがあめぞうをパクったでお馴染み2ちゃんがありました。2ちゃんは現在5ちゃんになっていますが、そこに絡んでいるのがジムだったりします。で、この2ちゃんをパクったのが米国の4チャン。そこでふたつの事件が起こります。ひとつはアノニマス。

 もうひとつはゲーマーゲート論争。

 前者は政治的なハッカー集団へ、後者はフェミニズム問題へと発展していきます。で、4チャンではこうした発言を認めない方針に。ちなみにひろゆきはこの4チャンを買ってたりもします。で、こうした事件を機にフレドリックが立ち上げた8チャンが人気になっていきます。究極の言論の自由がある8チャンですが、銃乱射事件の事前の書き込みによって非難の的になり、現在では8クンなる名前になっている。掲示板ひとつとってもこうした歴史があり、現実を密接にリンクしている点は非常に面白かった。

 また、印象深いセリフも多々登場しました。例えば謎の人物、Qの書き込みを分析して、視聴者にYouTubeで発信するQTuberが壁にかけている十字架とトランプの前でのセリフ。

 「俺は神を信じてるから十字架を壁にかけてる。トランプも見守ってくれてる」

 Qアノンの思想の危険性について聞かれた時のジムの返答。

 「危険な考えがあるというその考え方が危険だよ」

 同じく8チャンの過激な言論の自由について聞かれた際のジムの返答。

 「意志を投げつけられれば怪我をするが、言葉では誰も傷つかない」

 などなど。6時間も映像を見れば名言はゴロゴロ出てきます。

 この作品では、Qアノンの正体や掲示板の歴史についてはもちろん、オルタナ右翼の実相、AIのアルゴリズムの是非、インターネットミームの来歴、ドナルド・トランプ陣営、白人至上主義、言論の自由など多種多様なテーマが複合的に絡み合い、現実に対して様々な視座で眺めることができ、間違いなく傑作なんですが、この映画で描かれなかった日本のQアノンについて、私なりの見解を述べて終わりにしましょう。

 まず、Qアノンのメンバーは国内外問わず義憤に駆られています。ここの心理は想像にたやすいです。「自分達の手の届かないような上級国民は悪いことをやっている。彼らの策略によって不当に妨害され、我々が本来、享受できるはずの幸福を享受することができない。だから上級国民の悪事を世に啓蒙しなければならない」というものですね。こうしたネット上の信頼ならない書き込みに入れ込めるのは、グレートアメリカの復活という大義名分のためです。作中でも取り上げられていましたが、こうした主張は当然、周囲の人間に受け入れられるものではなく、Qアノンのメンバーは次第に孤立し、余計ムキになって情報の正確性を追うものです。
 孤立と情報定着の強化と言えば、洗脳の常套手段としてお馴染みですよね。さて、作中のこうしたナレーションを引用しましょう。

 「孤立し、おびえる人々はネットに答えを求めた。検索を続けるうちにアルゴリズムによって極端な内容に導かれた」

 周囲との軋轢に加え、コロナ禍での外出禁止も相まってセルフ洗脳状態となる。先日、アカギを観たんですけど、負けが込むと降りられなくなるのは人間の弱さとして誰しもが持っていますが、一度のめり込んでしまうと、もう、抜け出せない。

 Qが求心力を持っているのはその予言能力にあります。予言的中率100%なんです。それはなぜか。まずQの謎めいた投稿。これを解読するために様々な人(アノン)がこうリードできるんじゃないかという憶測を立てます。それをベーカーという役割の人が有力だと思われる説をピックアップします。(ピックアップされたアノンはお礼にエロ画像を貼るそうです。ノリが古いし、普通逆ですよね笑)で、現実の事象と照らし合わせて答えを探していくわけです。
 ここまでに予言が100%的中するトリックがいくつもあります。まず、Qの投稿はそれを信じるものしか読まない。つまり、あらかじめ第三者の不在によって客観的事実の排除が行われる。そして憶測の段階。当たれば正答、ハズれたらミスリードということですね。これにはバリエーションがあって、Qがニセモノだった、あるいは受け手の読み解き方が間違っていたなどがあります。ノストラダムスの予言で未だに飯を食っている人はこの方法を使っていますよね。それはさておき、こうして、Qは100%当たる予言を投稿し、人気を集めていきました。ここで、なんとなくこのセリフを引用しておきましょう。

 「でもネット民のIQが標準以下だとは知らなかったよ」

 さて、ここからが日本のQアノンについての雑感です。まず、これらの映像をざっくりでいいので観てほしい。

 胸糞悪いですね。彼らには義憤があります。洗脳があります。その心理の中には独自の右翼的思想もありますね。自己に失望し、貧困に喘ぐ人間がたどり着くのは、自分より強大なものなので、Qそして日本という国家に縋るのは当然のことでしょう。そして、高慢さ。これは「バカにはわからない記号がわかる俺は世界の真理に到達しうる人間なんだ」という心理から発せられています。
 つまり、
①自己の人生を正当化できる理由がない
②義憤による自己実現
③選民意識
 によって彼らは成り立っているのでしょう。③がある分だけ、「無敵の人」に劣りますが、先日禁錮刑が確定した米連邦議会襲撃事件を考えると、やはり別のリスクであると言わざるを得ない。一連の事件に興味を持った私のような人間よりも、Qアノンにこそ本作を観てほしいと思いました。

 いつもは1000字程度でまとめるようにしているのですが、6時間の作品だったので、ちょうどきっかり3倍の文量になってしまいました。でも、この作品のストーリーとは関係のないネタバレなしで、その面白さの一端を紹介できたのであれば本望です。さて、次は何を観よう。

いいなと思ったら応援しよう!