愛しのルドン、時々ゴッホ。
こんばんは。今日はゴッホ展に行ってきました。と言ってもお目当てはオディロン・ルドンのキュクロプス。
まず、東京都美術館に行く前に鶯谷へ。都内最高峰の古本屋ドリスへ。月光を初購入の予定でしたが、なんとなく誌面が少女っぽい感じでピンとこなかったので、澁澤龍彦の『都心ノ病院ニテ幻覚ヲ見タルコト』を購入。何気に未読。
そのあとは焼鳥屋のささのやで2杯。ここはラブホのシーツを2階にダイレクトで投げ落とすと言うなんとも風流な光景が立ち飲みしながら見れる絶好のおしまいスポットなんです。
そんなこんなで日が暮れたので、東京都美術館へ。冬の上野の夕暮れ時は水墨画的な光線と木々のシルエットで素晴らしい。また、入場制限もあって、夜の美術館に入っていくという行為が刺激的で嬉しかった。
さて、今回の展示はオランダのゴッホ作品の鬼蒐集家、ヘレーネ・クレラー・ミュラーの蒐集品を展示するという内容。美術館ではなく、個人のコレクションの展示というのが刺激的でした。そして、ルドンのキュクロプス。初めてナマで観ましたが、思ったよりも色彩は暗め。ルドンの油絵はかなり淡い色彩という印象がありましたが、全然そんなことありませんでした。すごく良かったのは巨人の黒目の部分。ルドンの他の作本と同様、眼が眼であることを主張するような三白眼ですが、よく見ると瞳はガッツリ、ニンフを捉えている。キュクロプスの苦悩や煩悶が立ち現れたまさにその瞬間の世界のフリーズ。これを我々の眼前に据えるという偉業を成し遂げた名画だ。これはやはり岐阜へ行かねばと思うのです。岐阜県にはルドン作品を多く所蔵する岐阜県美術館もあるし、
こんなシュルレアな公園もあるのだから!!
さて、ゴッホについても書いておきましょう。みんな大好き、ゴッホ。グッズコーナーも大盛況でした。私はゴッホは格別好きではないので、ざっと流し観。でも、今回の展示で思ったのはゴッホを鑑賞する時は年表をメモしながら観ると楽しいということでした。正直なところ、ゴッホがジャポニズム、点描などの技法を身に着けるまでは大した作品はないと思ってます。魅力のない風景画を描く人だなという感じでした。ただ、面白かったのは、いわゆるゴッホ的な作品に至るまでの過程と自身の作風を身につけたあとからは圧倒的に良いですね。私がメモっていた年表とともに今回の展示で気に入った作品を紹介しましょう。
1886年。パリへ出たゴッホは自分の画風が時代遅れのものだと気づきます。そこから1888年に至るまでの2年間、技法の洗練に努めます。この間に有名な「レモンの籠と瓶」が生まれます。そして、1888年の2月20日、南仏のアルルに新たに居を構えます。この年の6月17〜28日ごろに代表作のひとつ、「種をまく人」を仕上げます。
同年10月3日、今回の展示で好きだった「緑のブドウ園」を一気呵成に仕上げます。
ハイテンションなゴッホ。それもそのはず、彼はアルルで当時の同志、ゴーギャンと待ち合わせていたのでした。10月23日、待望のゴーギャンとの合流を果たします。しかし、我々と同じように幸せな日々というものは長く続きません。12月にはゴーギャンとの不和、そして、12月23日に精神の衰弱もあり、耳削ぎをしてしまいます。
年も明け、1989年5月、ゴッホはアルルを離れ、同月8日に自身で隔離病棟、サン=レミ病院へと赴きます。ここで残されたのは「サン=レミの療養院の庭」。異様な迫力に満ちたこの絵は、今回の展示でもかなりの人だかりができていました。
もっとゆっくりすればいいのに、16日に同病院を退院。20日にはフランスのオーヴェル=シュル=オワーズへ。7月には今回の展示のマイフェイバリット、「麦束のある月の出の風景」を制作します。
1年後、彼の晩年となる1890年。この年はゴッホはもうガタガタ。体調の良い日はスケッチや習作などを作っていました。今回の展示では5月の作品、「悲しむ老人」がありました。
同月、12〜15日頃、最晩年の代表作、「夜のプロヴァンスの田舎道」を完成。いびつに歪んだ点描と糸杉と三日月、これらを現実と幻想を織り交ぜて奏られる交響曲的本作は今回の展示のクライマックスとしてふさわしいものでした。
この記事の見出しにもあるように、7月27日にゴッホは拳銃を自らに発砲、29日に弟に見守られて息を引き取ります。
こうした時系列がなんとなくわかっていると画風の変化が楽しめますね。また、ゴッホは自死を予感(自己の不在=現実感覚の喪失)するように、どんどん幻想を取り入れた作風に変化していったのも人間らしくて面白かったです。
こうしてゴッホの晩年を振り返ってみると、かなり悲惨なんですけど相変わらず人気は高いですね。ひょっとするとゴッホ好きな人は、彼を狂気の代弁者、あるいは犠牲者として尊んでいる、もしくは悼んでいるのかもしれないなとも思ったりしました。
てなわけで、今日はこのへんで。バイバイ、スティーヴ・ヴァイ。