⑩「どん底ホームレス社長が見た闇と光」
第4章 悪徳業者と対決
C社長が行方不明
やっとチームが出来上がり、C社長とこれからの解決策に向けての打ち合わせです。過去5年間の帳簿類等を確認しながら、再生させるための手順も確認しました。しかし、何かがおかしい。帳簿類の数字が合いません。帳簿通りなら業績はもっと順調なはずなのです。「C社長、何か隠していませんか? 正直に言っていただけないと、こちらとしても協力しかねます」。するとC社長は、気まずそうに、引き出しから別の帳簿を出してきたのです。
私たちは、その帳簿に目を通したのですが、一瞬凍り付きそうになりました。それは裏帳簿だったのです。数字を見ると、よくこれで会社を回して来られたなぁというような酷い数字でした。最初の仕事がこれかぁと愕然としましたが、仕事を引き受けた以上、途中で投げ出すわけにはいきません。一度、帳簿を持ち帰ってチームで分析することにしました。それから1週間程した夜、1本の電話が。「こんな夜遅くに誰なのだろう?」と電話に出てみると、C社長の奥様でした。
その電話に嫌な予感がしました。
「どうされました?」
「主人が行方不明なのです。キッチンにあった包丁と倉庫にあったロープが無くなっています」
「すぐに警察に電話をしてください。私は、朝一番でそちらに向かいます」
気掛かりでなかなか寝ることもできません。明け方に、また奥様から電話がありました。「警察から連絡がありました。主人が琵琶湖で見つかりました。元気だそうです」と奥様の安堵の声に、私もホッとしました。
私は始発の電車で大阪府枚方市のご自宅に行きました。しばらくしてC社長が警察から帰ってきました。事情を聞くと、お金を借りていた悪徳業者から脅迫されていて、命と引き換えにお金を作れと言われたそうです。それは、保険金目当てだったのです。こんな脅しがこれからも続くのかと思うと、苦しくてどうしようもなかったそうです。死ねば借金も返せて楽になると思い、琵琶湖に向かったそうです。ところが午前4時頃、入水自殺しようと思っているところにお坊さんが通りかかったそうです。朝の4時にお坊さんと出会って説教されて自殺を思いとどまったそうですが、そんな早朝に湖畔をお坊さんが歩いているのは不思議です。きっとC社長は守られていたのでしょうか。いまとなっては謎なのですが。
C社長が自殺まで考えていたことをどうしてで気付いてあげられなかったのかと私は唇をかみ締めました。その悪徳業者は後日、警察に逮捕されたのですが、私はC社長に言いました。「社長には家族も家もあるじゃないですか。私なんてお金どころか家族も家もすべて失いましたよ。それでも、一生懸命に生きています。これからは、社長は家族を守るような生き方をしてください」と。
闇金業者からの嫌がらせ
また、このような案件もありました。大阪のD社長。会社の経営が破綻しそうになり、ついつい闇金業者に手を出してしまったのです。警察にも相談しましたが、何もしてくれないし、弁護士にも相談したそうですが、怖がってどの弁護士からも断られたそうです。D社長は悩み苦しんだ挙句、私に相談してこられたのです。
闇金業者は、優しく人当たりのいい男性だったそうです。自分が苦しんでいる時にお金を貸してくれるという優しさに手を出してしまったのです。これは絶対に相手にしてはいけない業者なのです。手形を先に闇金業者に送ると闇金業者から入金されます。法定外の利息と元金が期日に口座から引き落とされますが、次回は枠を広げてそれ以上の金額を貸してくれます。その甘い罠に引っ掛かってしまったのです。D社長は、もう自分ひとりではどうすることもできません。
私は、D社長の将来を案じ、ある提案をしました。その闇金業者は東京が拠点の業者です。「東京からわざわざ取り立てに来ませんから、借り入れ上限枠いっぱいを借り入れてください」と私は伝えました。「そんなことをしたら返済できません」とD社長。「返済する必要はありません。その代わり一度だけ不渡りを出してください。一度だけなら大丈夫ですから」
D社長は、闇金業者に連絡し300万円を借り入れることにしました。手形が落ちる日までに銀行口座の残高をほとんど出金してもらい、残高0円に近い状態にしておきました。「期日に手形が落ちなかったら闇金業者から連絡がありますが、すべて岸田という人に任せてあるので、岸田に電話をするようにと言ってください」とD社長に伝えたのです。
案の定、不渡りで闇金業者からD社長を経て私のところに電話がきました。
電話に出るなり闇金業者は怒鳴り始めたのです。
「何してくれてんだよ」と闇金業者。
「D社長は返済するつもりで友人からお金をかき集めたのだけど足らなかったそうです」と私は丁寧に対応しました。
「返済するつもりはあんのか?」
「ありますよ。ただ東京まで行くお金が無いので大阪に取りに来ていただけたら返済します」
「てめえ、俺をなめてんじゃねえぞ!!」
「正直に言っているだけです。大阪駅の近くに曽根崎警察があるので、その前で現金を渡します」。
「おまえは詐欺師か!!」
「詐欺よりも悪いことをやっているのはおまえやろ!! 警察の前では受け渡しできんようなまずいことをしとるからやろ!!」と怒鳴りつけて電話を切ってやりました。
その後1週間、闇金業者からのワン切り電話が止まりませんでしたが、私は電話を取ってわざと押し問答を繰り返し、東京からの電話料金がどんどんかさむようにしました。そんな私のやり方に闇金業者はあきらめたようです。それでD社長は300万円を手にして、会社の再建への第一歩を歩み出したのです。
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