12. 帰りの飛行機で
「サエ、気をつけてね!次はカナと一緒に来てね。Aloha!」
空港まで見送りに来てくれたエリカとジェニーと長いハグをして、搭乗口へ向かった。足取りがおぼつかない、頼りない後ろ姿を二人は見えなくなるまで見守ってくれた。
ハワイが大好きで、学生時代から暇を見つけては遊びに来ていたけど、こんな不安な気持ちで離れるハワイは初めてだった。
★
座席はあいにく後ろの方で、プロペラ音がうるさいかった。なんだか耳鳴りのようで落ち着かない。
何度送ったかわからない私のメールに、今朝初めて返事がきた。これから日本へ帰ると告げる私に、
「分かりました。こちらは可奈と大宮の実家にいます。可奈は元気だから、心配しないでね。」
とだけ。聞きたいことは山ほどあったし、あまりの突飛な行動に怒りたくもあったけど、エリカの説得もあり、まずは短い返信をした。
「元気なようで安心しました。可奈にはいつ会えるかな?とても会いたいです。」
それに対する返事はないままだ。
会う約束も確約できないまま、日本へ向かう。どうしても不安が拭いきれなかった。
ふと、初めて別れ話をしたときに裕太が言った言葉を思い出した。
「俺と別れるんだったら、可奈には一生会わせないからな。裁判でも何でもして、親権は俺がもらう。俺が育てるから。」
まさか裕太がそんなことを考えていたとは微塵も思わなかったので私は言葉を失った。脅しのようで恐怖すら覚えたが、離婚したいと告げる私を引き止めるために言っただけなのかも、と、あまり気にしないようにしていた。
あのセリフが本気だったとしたら?
嫌な想像が頭をかすめるが、考え過ぎなだけかもしれない。気を落ち着かせようと機内のモニターに目をやった。可奈の大好きなディズニー映画、ニモが、笑いながら海の世界を飛びまわっている。目を閉じて、可奈の笑う顔を思い浮かべた。
(大丈夫、これはただの、いつもの喧嘩の延長だ。そんなに深刻に捉えるる必要はない。。)
もしも本当に裁判になったとしても、法律が私を守ってくれる筈だ。こんな風に、一方的に子どもを親から引き離すことが、日本の法律で認められる筈がない。
私はそう考え、無理矢理、目をつぶって眠りに入った。
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