40. 保育園探し
「紗英ちゃんは急いだほうがいい。時間が開きすぎてるし、お子さんが小さいうちは記憶が上書きされやすいよ。悪いイメージを旦那さんに上書きされる前に、笑顔を見せに行った方がいいよ。」
当事者の早紀さんにそうアドバイスをもらった私は、いてもたってもいられなくなり、次の日には可奈の幼稚園を探し始めた。
離れていても親子であることは変わらない、と可奈との関係を楽観的に捉えていた私にとってはリアルな意見で、胸に刺さったのだ。
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会わせてもらえない子どもに会いに行くというのは、実の親なのにおかしな話なんだけど、実際リスキーだ。
場合によっては、別居親が子供に会いに来ることを想定した同居親が、先まわりをして先生方に別居親のことを悪く話しておいて(手を打って)いたりして、見つかったら警察を呼ばれてしまうケースが多々あるという。
あるいは、子どもがパパ・ママが会いにきたと無邪気に話して、同居親を怒らせてしまい、更に会うことが難しくなるケースもあるという。
そういった事態を恐れて、今まで幼稚園には行かなかったけど、可奈の「お人形遊び」の話を聞いて会いたい気持ちと心配が限界に達してしまった。
それに早紀さんのアドバイスが背中を押したのだった。
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可奈が保育園に通っている事は書面から分かっていたので、まずは裕太の実家付近の保育園をネットで検索した。それでも6件ほど出てきたので、1日2件、3回に分けていくことにした。園には入らず、登校時や授業中に園庭を覗いて探すので、時間はかかるかもしれない。
今回も母が仕事を休んで一緒に来ると言った。
後に聞いたら、母は「あんた1人で行かせたら、電車にでも飛び込みそうで心配だったから。」と言った。
確かにこのとき、私は何かが1ミリでもずれてしまったら『あちら側』に持っていかれそうな、スレスレの状態にいた。
もちろん母にそんな話はしなかったけど、私の姿を見ればすぐに分かったんだろう。
☆
保育園には、駅からバスに乗って行った。日差しが暖かくのどかだったけど、私の心は荒れていた。見つからないようにと黒い帽子を被って行った。
バス停から少し歩いたところに園はあった。
周りを見ると園庭を囲むように背の低い木が植えてあったので、そこに隠れて可奈を探した。
すると、ちょうど園児達が園庭に出てきて遊び始めた。先生もいる。
あらゆる角度から覗き込んだけど、可奈の姿を見つけることはできなかった。
何件かまわったけど、次の園でも、その次の園でも可奈はいなかった。
もしかしたら可奈のクラスは外遊びがない日だったのかもしれない。
こんなやり方で可奈を見つけられたら奇跡に近いと思った。そもそも、1回や2回で見つけられるものではないのかもしれない。
園の入り口にいる警備員の様な男性が、いぶかしげにこちらを見た。
何となく、悪い事をしているような気がしてその場を離れた。母がガッカリと肩を落としていた。
次の日再度トライしたけど、やはり可奈の姿を見つけることはできなかった。
なんで実の母親なのに、こそこそと子どもを探すなんて事をしているんだろう?そもそも、可奈は私の顔を覚えているのだろうか。気づいてくれなかったら絶望しかない。
結局、探しに行ったことで余計惨めになり、状況がリアルかつ客観的に見えるようになってしまった。
惨めさと情けなさと、それでも会えない虚しさに押しつぶされてしまった私は、それ以上探しに行くことは出来なくなってしまった。
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