46. 書面に込めたメッセージ
審判に提出する書面にどうしても入れて欲しい言葉があって、浜田弁護士に頼み込んで数行だけ、シンプルにする事を条件に許可をもらった。
浜田先生の書面はいつも「長くても裁判所の人たちは読まないから」と5枚ほどにまとめられていた。
それまで、色々提案しても残念ながら却下される事が多かったけど、(離婚調停から円満調停に切り替える、など)審判に移行するにあたって、どうしても裕太に伝えたい言葉があったのだ。
「たとえ夫婦としての関係が終わっても、私達が可奈の親であると言う事実は一生変わりません。そして私は愛する可奈の為に、父親と協力して可奈を共同で養育したいです。それが可奈が健やかに育つための最善策だと思いうからです。」
そんな一文を、「申立人の意向」という見出しで織り込んでもらった。
裕太の良心に、どうか届きますように。私は祈りを込めて文章を綴ったた。
☆
家裁から帰宅して、ずっと考えていた。
あの文は、裕太に響いただろうか。どうか届きますように。
私達はハワイにいて、西洋文化の中で共同養育する夫婦をたくさん見た。そんな裕太に、共同養育に対する理解はきっとあるはずだと確信していた。どうか思い出して、と。
ふと、弁護士を介すのではなく、直接相手とやりとりをすると良いという、当事者の早紀さんの言葉を思い出した。
彼女は、珍しいケースだけど離婚裁判をしながら相手の家族で旅行に行ったりしている当事者だ。弁護士は嫌がるけど、裁判中に直にコンタクトをとったり自由に会うことは、しようと思えばできるのだ。
ええい、ままよ!
私はまずは何気ない文章を、と思い、裕太にメールを送った。弁護士に委任してから初めての、実に9ヶ月ぶりのメールだった。
思いがけず、すぐに返事が来た。「明日会える?」とのメッセージ。
驚いたけど、少し考え、「いいよ。どこにする?」と返事をして、お互いの中間地点で落ち合うことになった。
☆
翌日、私は「もしもの時のために」レコーダーをカバンに忍ばせて出掛けた。
万が一見つかったら大変なことになるけど、何を言われるかわからないし、証拠は残しておいた方が安全だ。なるべく見つからないように、と巾着袋に入れて隠した。
何を言われるのか全く想像がつかなかった。もしかしたら、怒鳴られ、刺されるんじゃないか・・という嫌な想像が頭をかすめる。
とにかく、何か返事をしなくてはいけないような事を言われても、感情的にならずに、イエスかノーではなく「考えておきます。」と答えよう。そう自分に言い聞かせながら、家を出た。
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