8.再びHiroへ。
空腹は全く感じなかったので、その日、口に入れたのはカパアウのスーパーでもらったパイナップルだけだった。そもそも「食事を取る」という行為を忘れていた。時計はもう14時をまわっている。こんなに動いているんだから、何か食べないと倒れてしまうだろう。
ドライブスルーに寄って、適当にハンバーガーをオーダーした。無造作に口に放り込んでみたけど、なんの味もしなかった。カフェ巡りを趣味として、そのブログを副業とするほど「食」が好きな私にとって、こんなことは初めてだった。無理やりコーラで流し込み、急いで、自宅のあるHiroに向かった。
★
飛ばした甲斐あって、、というのも変だけど、サンセットと同時にHiroに着いた。眩いばかりに光り、水平線に沈んでいく夕陽を横目に、裕太が借りていた部屋に向かった。
窓から部屋をのぞき込むが、備え付けの家具だけが残され、ベランダに置いたままだったビニールプールも、日本から持ってきたお気に入りのホットサンドメーカーも、何もなかった。まさしく「もぬけの殻」だった。
「嘘でしょ・・。」
私は絶句した。慌ててコンドミニアムのオーナーに電話をすると、信じられない答えが返ってきた。
「ユウタなら3日前に解約したよ。突然だからびっくりしたよ。
・・あれからこっちには来てないけど、サエ、何かあった?」
あまりの事態に声が出なかったが、悟られないようにと急いで平静を装った。
(大丈夫、これは大ごとなんかじゃない。きっと明日になったら連絡がつくはずだから。)
「ううん、大丈夫。また連絡するわ」
そう言って電話を切った。
まさかコンドミニアムまで解約してたなんて。
隣の部屋に住む、ジェニファーの部屋に走る。ドアを叩いた。
「Aloha,サエ。どうしたの?」
ざっくりとこれまでのいきさつを話すと、ジェニファーは、信じられない、といった顔で口をおさえた。
「Oh my.… あのね、サエ、落ち着いて聞いてね。裕太はね、3日前に貸していた椅子を返しに来たのよ。それでね、その時に聞いてきたの。」
「なんて?」
「カウアイ島に行きたいんだけど、誰か知り合いがいたら紹介してくれないかって。。。」
「カウアイ島」という言葉を聞いて私はまた青ざめた。ハワイの別の島にいる可能性もあるのかと。
瞬間、カウアイ島まで飛ぼうかと思ったが、冷静に考えたら、さすがにこの言葉だけを頼りにカウアイ島まで行くことは出来ないと思った。カウアイ島は広い。何の頼りもなく行ったところで、すれ違ってしまうかもしれないのだ。そもそも、本当にカウアイ島にいるかどうかだってわからない。
どこに行けばいいのか。
どうすれば可奈に会えるの?
いや、もしかしたら何かの事故に巻き込まれている可能性だってある。
不安と心配と疲労が入り交じり、私はその場で倒れてしまった。
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