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62. 片親疎外と夫の家族

毎週のように会えるようになって暫く経った頃、突然、可奈の片親疎外が始まった。(片親疎外とは、子どもが同居親に気に入られるように、別居親に辛く当たる行動のこと。)

私の家に行くのを泣きながら嫌がったり、幼稚園の見学に行ったら「あっかんべー」をされたりした。

「ママとは一緒にいたくないけど、ママの家に行きたい」と言い、家に来たら何事もなかったように遊び始めた事もあった。赤木先生に相談すると、「片親疎外だからスルーして、大きな心で受け止めてください。」との返事をいただいたが、正直きつかった。覚悟はしていたけど、実際やられると思ったよりもこたえた。

だけど不思議だったのは、裕太が「子どもは一緒にいる親の顔色をうかがうから。」と言って、泣きながら嫌がる可奈を何度も家に連れて来たことだ。逆に、好きという言葉も気にするなと言われた。

そういった面では裕太に感謝している。子どもが嫌がることを理由に面会を打ち切る同居親は多いから。
心理学を少し勉強していた裕太にとって、もしかしたら赤木先生の意見書は効果があったのかもしれない。

通院中の可奈の主治医にも、「それは試し行動ですね。」と言われた。

私に意地悪をして、どんな反応するのか、つまり愛情を試していると言うのだ。何をしても受け止めてくれるかどうか。また離れていってしまわないかと。

私は最大限に辛い気持ちはよそにおいて、いつもニコニコして大きな心で受け止める努力をした。

「ママ嫌い!」と言われても、「ハイハイ、ママは大好きですよ~。」と答え、抱きしめた。可奈はそれを嫌がり、逃げる。それはいつしか『追っかけっこゲーム』へと変わっていった。

その時期たまたま「男はつらいよ・寅次郎物語39話」のあらすじが目に入り、レンタルした。

母親と生き別れた子どもがひょんなことから寅さんと一緒に、母親探しの旅に出るというストーリーだった。

ラスト、地方の温泉旅館に住み込みで働く母を見つけると、寅さんは「良かったな。」と言ってひとりで波止場に向かい、次の旅へ出ようとする。
子どもは寅さんと一緒にいたいと言って追いかけて来るのだけど、寅さんはそんな子どもを「バカ野郎、お前は母ちゃんと一緒にいなきゃダメだ。」と言って追い返すのだ。

これはまさしく子どもの心理をついていると私は思う。長くいればいるほど、誰だって『生みの親より育ての親』になってしまうのではないだろうか。
この時期、可奈は私よりも主に育児を担っていたおばあちゃんの方が好きだと言い、私の家に来るとおばあちゃんと一緒にいたいのに、と言って泣いた。

だけど裕太とおばあちゃんは、そんな可奈を私の家まで送り届けてくれた。

思い出したくないような辛いことがたくさんあったけど、彼らのこういった対応には本当に感謝している。

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