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【ブラック企業入社編-3話】恐怖の運動会

このブログは、とんでもない田舎に生を受けた人見知りの少年が、やがてコミュ力お化けになり年収3,000万超えを果たす迄の軌跡である。
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遂に迎えた初出勤日。
青年はリュックサックを背負っていた。

初出勤後、そのまま宿泊研修があるという。

早朝、集合場所に集まった同期達は社会人になったんだと胸を踊らせていた。
給与支払い口座の申し込みを済ませた後、一同はバスへ乗り込んだ。

バスはしばらく走り、やがて山道に差し掛かり、大きな建物の前で停車した。

合宿所である。

部屋の鍵が渡され、時間になったら大ホールへ来いとの通達。
フレッシュマン達は修学旅行を思い出し、この時はまだ賑わっていた。

時間になり、大ホールへと向かうフレッシュマン一同。

扉を開けると、ステージの上には強面のおじさんが3名程立っていた。
何故か竹刀を携えながら。

何か嫌な予感がビシビシと体を打つ。
すると、竹刀持ちAが叫んだ。

「関西メンバー入場!!」

どよめく関東勢。
フレッシュマンは関東と関西で個別に採用されており、この研修で初めて両者が出会ったのだった。

縦二列に並んだ関東・関西メンバー。

竹刀持ちAが叫ぶ。

「関東!関西!お互いに向き合え!」

よく分からないまま向き合う両者。

青年と正対した関西メンバーは、背の小さい可愛らしい女性だった。

(こんな小動物みたいな子が同期なんだなぁ)

青年がフムフムしていると、竹刀持ちAがまた叫んだ。

「向かい合った人間を3分間罵倒して泣かせろ!泣くまでやれ!先手関東!初め!」

訳が分からなかった。
戸惑うフレッシュマンたち。

「やれ!」

再び竹刀持ちAが叫ぶ。

これはやるしかないのだ。
そうだった、我々は営業部に入社したのだ。
これは営業マンになる為の試練なのだ。

青年はスゥ〜っと息を吸い、小柄な女性に向かって叫んだ。
余りにも酷い内容なのでここでは割愛するが、女性は10秒と持たずに泣いた。

「お前オーケー!!」

OKが出た青年は、列を抜けた。
引きの絵で見るそれは地獄の様な光景だった。

一方的に罵る関東勢。
ひたすら耐える関西勢。

3分が経ち、泣かせることが出来なかったメンバーは名前を確認されていた。

「はい次!逆!関西!やれ!」

攻守交代である。
先ほど泣かせた女性が、必死に青年を罵倒する。
しかし、流石に女性に罵倒されたくらいでは泣かない。
女性の目を見つめたまま真顔で立っていると、女性の方が泣いてしまった。

その後も、”全員が感動するまで夢を叫べ”だの数々の指示をこなしていった。

研修が終わり、ヘトヘトになりながら部屋に戻ったフレッシュマンたち。
「オレ、、この会社でやっていけないかも、、、」
既に弱気になっていたフレッシュマンも数人発生していた。
そして夕食の時間。
食堂ではなく再度大ホールへ来いとの指示。

最早大ホールという単語がトラウマ化していたフレッシュマンたち。
扉が開いた瞬間、我が目を疑った。

なんと、大ホールびっしりに敷き詰められた豪華な料理、タワーの様に積み上げられた酒、心地の良い軽快なBGM。

自分は気付かぬ内に他界して天国に来てしまったのかとさえ思った。

あれほどの強面だった竹刀持ちAがマイクを握る。

「お前ら!社長からの好意や!食え!飲め!騒げ!」

あれほど漫画の様なセリフを発したのは初めてだったかもしれない。

「うわぁぁぁぁぁぁい!!!」

青年は両手を広げて酒へ飛び込んだ。
フレッシュマンたちは日中の地獄を忘れ、酒を浴び、腹を満たし、語らった。

こっそり酒を部屋に持ち帰り、将来の夢を語り合ったりした。
翌朝、昨晩の宴がトラップだったと気付かされる。

社会人とはいえまだ皆22歳。
酒が弱い者、慣れない一日に疲れていた者、要するに寝坊をした者が何人かいた。

(あいつら何やってんだ、怒られるぞ、、、)

青年の心配は、甘いものだった。

「ほな点呼取るでー」

点呼が始まる。

「おい誰か、まだ来てない奴ら叩き起こしてこい」

竹刀持ちAの指示により、同期を起こしに向かった青年。
気持ち良さそうに寝ていた同僚を叩き起こし、スーツに着替えさせ、ホールへと戻った。

「はい、寝坊したやつ俺の前に並べ」

(これは竹刀が飛ぶかもしれない)

そう思った矢先。

「お前らクビ、さようなら、帰って」

響いたのは怒声では無く、冷徹な一言だった。

何かの冗談かと思ったが、本当だった。
泣く者、状況が飲み込めないまま去っていく者、、、

(なにかヘマをしたらクビになる、、、!!!)

フレッシュマン達の緊張は一気にピークに達していた。

それから、”2時間少しも動かず立ち続けろ”だの”日が沈むまで外走ってこい”だのをこなし、再びあの宴の時間がやってきた。

フレッシュマン達は昨晩とは打って変わり、少しも楽しめなかった。
皆が皆酒を手に取らず、お茶を片手に静かに食事を取っていた。
難なくやり過ごそうとしていたフレッシュマン達に、試練が訪れた。

「やっほーーーーーー!!!!」

聞き覚えのある声に思わず振り返ると、満面の笑みで社長がやってきた。
(これはヤバい、、、!!!)
青年の予感は的中した。

「なんか皆顔が暗いぞ!?こういう時は楽しまないと!!」

社長の一声により、食事は一気に酒席へと変貌した。

「キミいいねぇ〜!お酒強いねぇ〜!」

青年は酒が強かった為、皆を守るべく率先して飲みまくった。
が、一人で皆を守り切れる訳もなく、次々に酒を流し込まれていく同期たち。

翌朝、皆で皆を起こし合い、脱落者はいなかったものの皆満身創痍だった。
(青年はピンピンしていた)

また地獄の様な一日が始まるのか。。。

皆が目線を落とし床と睨めっこをしていると、ぐるぐる巻きのダンボールで補強された長テーブルが運ばれてきた。

「お前ら、テーブル囲んで円になれ」

竹刀持ちAの指示でテーブルを取り囲むフレッシュマンたち。
そこに、一本の竹刀が投げ込まれた。

「弱い自分を今ここで全部吐き出せ」
「俺がオーケー出すまで竹刀でテーブルを叩け」
「やりたいやつからでえぇぞ」

戸惑うフレッシュマンたち。

すると、何となくリーダー格になっていたイケメンが前に出た。
竹刀を握り、「行きます!」と叫ぶと、

「オレは絶対やってやる!!!」
「オレは絶対超えてみせる!!」

狂気を感じる程に叫び、ひたすら机をしばき始めた。

何分経ったか分からなかったが、イケメンの手のひらは破け、出血していた。

「もうえぇぞ、次」

次々にテーブルをしばき上げる同期たち。
中には泣きながらテーブルを叩き続け、許されないまま30分以上経った者もいた。

青年はその様子をただただ見つめていた。
そして気付くと、青年は最後の一人となっていた。

「最後、お前や」

覚悟を決めた青年は竹刀を持ち、テーブルの前へ向かった。
そして覚悟を決め、竹刀を振りかざした瞬間。

「あ、お前はえぇわ、終わり、やらんでえぇ」

「え?」

キョトンとする青年。
一発もしばかず、輪へと戻った。
(後から聞いた話に寄ると、竹刀を握った瞬間から顔が怖かったらしい。)
(配属後に”一番恐かったで賞”をもらった)

そうして全員が何とかしばき終え異様な空気に包まれる中、社長がやってきた。
今までとは違い、笑顔は消え、声のトーンも低い、何より表情に圧があった。

「お疲れ様です!!!」

ヤ○ザか何かの様な出迎えをする竹刀持ち。

社長はステージに上がり、マイクを握った。

「みんなお疲れ様、ところで、、、」

「お前もやった方が良いんじゃないの?」

社長が指す”お前”とは、竹刀持ちAのことだった。
ざわつくフレッシュマンたち。

「は!畏まりました!」

竹刀持ちAはステージから降りるとジャケットを脱ぎ、竹刀を構えた。
そして鬼気迫る表情で声を張り上げた。

「オレは!絶対!こいつらを幸せにするんだ!」
「絶対!一人前の営業マンに育てるんだ!」

竹刀が折れる程の勢いでしばき続ける竹刀持ちA。
つい先程まで嫌な上司と敵認定していた竹刀持ちが、何とフレッシュマンたちを思う気持ちをぶつけ始めたのだ。

その様子を見て泣きじゃくるフレッシュマンたち。

(あぁ、これはあれだ、洗脳ってやつだ)

青年だけは冷めた目でその様子を眺めていた。

そんなこんなで恐怖の運動会とも言えるカリキュラムは全て終了した。
皆それぞれ帰路に着き、数日振りの我が家で一息つくのだった。

次回、「配属先のデスクに置かれていた物」
(続く)

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