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2020大阪大学(文学部) 国語 第一問 解答速報

出典は稲賀繁美『絵画の限界ー近代東アジア美術史の桎梏と命運ー』。前書きに「次の文章は、近代東アジアにおける美術を、文化的な「境界侵犯」という観点から論じたもので、中国系の現代アート作家、シュー・ビンによる、漢字に似た創作文字を用いた作品をとりあげています」とある。

問一 なぜ「解読できない偽文字であることを見抜けない人々こそが、好適な顧客なのだ」といえるのか、説明しなさい。

〈GV解答例〉
漢字の擬態であるシュー・ビンの創作文字が人々の意識に作用する度合いにおいて、それが偽物であることを見抜ける漢字文明圏の成員よりも、純粋に文字自体に向かう外部者の方が著しくなるから。(90)

〈参考 S台解答例〉
偽文字によって公衆を欺くことに自覚的であるシュー・ビンにとって、彼の創意工夫による偽文字の判読不可能性を知識としては知っていても、作品がいかに自分を欺いているかを判読する能力のない西側世界の観客は、作品の享受者として適切であると考えられるから。(122)

〈参考 K塾解答例〉
公認された漢字と偽文字との境界の攪乱を狙って漢字を創作するシュー・ビンにとって、正規の文字か判別ができない西洋の人々は、そうした境界とそれに基づく優位性を無効にされた鑑賞者であり、狙いの実現に好都合だから。(103)

〈参考 Yゼミ解答例〉
シュー・ビンの創作文字を見る西側世界の観客には、それが公認された既成の漢字なのか、創意による偽漢字なのか判別できない。そのような観衆こそ、権威によって築かれた「正統」という境界を無化しようとする彼の目的を体現しているから。(111)

問二「抜け目なく、味方に取り込んでしまっている、という周到さ」とはどういうことか、説明しなさい。

〈GV解答例〉
シュー・ビンは自らの文字が漢字の偽物だと判別不能な漢字文明圏の外部者を専ら観客としながら、その偽物性を見抜く内部者を批評者として対置することで、作品の厚みを担保しているということ。(90)

〈参考 S台解答例〉
シュー・ビンの偽文字が成功した要因は、偽文字であることを見抜けない西側世界の観客を対象としていることに加え、偽文字であることを十分に理解可能な漢字文明圏の成員をも、自身の作品の理解者にしているというぬかりなさにあるということ。(113)

〈参考 K塾解答例〉
新作漢字が偽物であると公言するのは、その真贋を問うことで公認文字の秩序の枠組みを補強してしまうのを回避し、偽物であるがゆえにこそ、その枠組みを突き崩す可能性をもつことを提示しようとする巧妙な戦略だということ。(104)

〈参考 Yゼミ解答例〉
シュー・ビンは自分の創作文字が偽物であることを公言しているが、そのことを理解している中国の公衆は、それによって自らが漢字文明圏の成員であることを自覚させられ、シュー・ビンとの共犯意識をもつにいたる状況に置かれるということ。(111)

問三「そうした経緯を見事に擬態して演じた」とはどういうことか、何が何を「演じて」いるのかを示しながら説明しなさい。

〈GV解答例〉
漢字の構成原理に則り創作されたシュー・ビンの偽文字が、徐々に権威を帯び、ついに漢字に代替する記号として伝播循環する漢字文明圏の周縁における新字体創作の過程を的確に演じるということ。(90)

〈参考 S台解答例〉
シュー・ビンが自分の創作文字を改定、改良し、増幅させていった過程が、社会的な認知を得ない偽文字が少しずつ権威を帯び、最終的には代替物として伝播循環しうるようになるという新字体創作の歴史的過程を、完全に模倣して「演じて」いるということ。(117)

〈参考 K塾解答例〉
シュー・ビンが、正統な漢字と同様に読解も習得も可能な構造をもつ偽文字を磨き上げる過程は、社会的に公認されない行為が少しずつ権威を帯び、やがて社会的な認知に至る過程を、意図して完全に再現するものだということ。(103)

〈参考 Yゼミ解答例〉
文化的な「境界侵犯」を意図した現代アートは、あえて偽物を演じることで、社会的に認知されていなかった文字が社会に流通し、広く用いられる中で次第に権威を帯び、ついには正統なコードになっていくプロセスを明らかにしてみせたということ。(113)

問四 本文で述べられるアジアの新字体創作の文化的特徴について、(d)「屈折した劣性複合」という観点から説明しなさい。なお「劣性複合(inferiority complex)」とは、「優越感と複合した劣等感」といった意味で使われている。

〈GV解答例〉
中華文明圏の周縁部において漢字の構成原理を利用し独自の文字を創作することは、中華文明に対抗して優越した地位を得る契機であったが、一方で中華の正統性への拭いがたい劣等感を含んでいた。(90)

〈参考 S台解答例〉
アジアの新字体創作は、中原の漢字文化圏への対抗を意図して始まったことから、そこには中華への文化的劣等感を見て取ることができるが、創作された文字が正統性を獲得することや、自民族の矜持を表すという点において優越感を読み取ることもできるという複雑さを持つ。(125)

〈参考 K塾解答例〉
アジアにおける新しい文字体系の創造は、中央の漢字文明圏への従属意識を抱えつつも、その中で独自の文化を創り出そうとする、劣位に置かれた周縁文化圏ならではの矜持を中央文明への抵抗として表現する営みだということ。(103)

〈参考 Yゼミ解答例〉
漢字文明圏の周縁文化圏においては、中央の権威に従属しているという劣等感がある。その中で、正統とされた漢字文化に対する抵抗として漢字を変形した新字体が発明されたが、それは周辺に位置する人々にとって矜持を託すものであった。(109)

#大阪大学 #国語 #稲賀繁美 #絵画の限界

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