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2020大阪大学(文学部) 国語 第二問 解答速報

出典は島木健作の小説『バナナの皮』(1935年発表)。前書きに「五月末のある日、上野駅から汽車に乗ろうとしていた「私」は、護送されている囚人を見かけます。客席に乗りこむと、「私」と向かい合った席にその囚人が役人(看守)と共にやってきます」とある。

問一「心の喜び」とあるが、「私」は若者がどのような「喜び」を感じていると考えているのか、わかりやすく説明しなさい。

〈GV解答例〉
移動により暗く閉ざされた牢獄での生活から一時的に解放されたことで、朝のまぶしい光とさわやかな風を感じ、刻一刻かわる窓外の風景に見とれ、思わず体が動き出すような心から湧き上がる喜び。(90)

〈参考 S台解答例〉
囚人として護送されている汽車の中から眼にした、五月の朝の光と風にあふれた瞬外の光景に心を奪われ、囚われの身であることを、ほんのひととき忘れ、明るく朗らかな快さを味わっている、あどけない若者の無心の「喜び」。(103)

〈参考 K熟解答例〉
青年は、罪人として幽閉され不自由を味わってきたので、新鮮な外気に触れ移り変わる車窓の景色を目の当たりにするという日常的な経験にさえ、心身が躍動しようとするのを抑えきれなほどの解放感を味わっている。(98)

〈参考 Yゼミ解答例〉
罪を犯して拘束されていた若者は、護送のために乗った汽車の中で、変化に富んだ窓外の風景と初夏の風のさわやかさを感じ、囚われの身であることを忘れて、鬱屈していた気持ちが晴れるような束の間の解放感を感じていると考えている。(108)

問二「読もうとひろげた新聞を持つ手のふるえのどうにもとどまらぬ感情の荒立ちをおぼえた」とあるが、なぜこのように「私」は感じたのか、その理由をくわしく説明しなさい。

〈GV解答例〉
田舎紳士が周囲に聞こえる声で囚人への悪意を口にしたことで、一時の僥倖で朗らかだった囚人の表情が一瞬に萎えしぼみ暗く変わったのを見てとり、囚人への同情から男への強い怒りが湧いたから。(90)

〈参考 S台解答例〉
囚人の罪も知らないままに極悪な罪状をあげつらう無慈悲な男の聞こえもが詩の言葉に、囚人が動揺し、窓外の景色にひととき忘れていた自らの罪や境遇を直視し苦悶する様子を見て、男への強い憎悪から生じる切ない衝動を覚えたから。(107)

〈参考 K塾解答例〉
「田舎紳士」風の男が「どろぼう、火つけ、人ごろし……」という言葉を口にした瞬間に、青年のかけがえのない朗らかな表情は奪われてしまい、青年に共感を寄せていた「私」は男に強い怒りを覚え平静さを失ったから。(100)

〈参考 Yゼミ解答例〉
「私」は窓外の風物に見とれるあどけなさや純粋さを若者に感じて好感を抱いていたが、冷酷な言葉を放って若者を囚人という現実に引き戻し、彼を暗く陰鬱な表情にしてしまった田舎紳士に怒りを覚え、自分が傷つけられたような屈辱を感じたから。(113)

問三「幾十の射るような視線に裸にされ」とあるが、このような表現にはどのような効果があると考えられるのか、説明しなさい。

〈GV解答例〉
囚人に車内の視線が一斉に向く様子を感覚に訴える比喩で示すことにより、男の発言を契機に乗客全体に共有された憎悪に晒され、逃げ場のない恐怖に苛まれる囚人の心理をリアルに想起させる効果。(90)

〈参考 S台解答例〉
車内の多くの人々が、通路を通る厳しい視線を一せいに注いだことで、囚人の中に既にあった心の痛みにさらに衝撃が加わった内面まであらわにされている様子を、「射るような」という直喩や「裸にされた」という隠喩による具体的なイメージで視覚化して表現する効果。(123)

〈参考 K塾解答例〉
移動する青年を見つめる人々の鋭い眼差しを、「視線」が青年を「裸に」すると比喩的に表現することで、乗客の集合的な視線が、青年の犯した罪を暴き責め立てようとするかのような、脅迫的なものであることを示す効果。(101)

〈参考 Yゼミ解答例〉
多くの乗客の視線が「射る」ことで若者が「裸にされ」たという二重の比喩は、衆人の好奇の目にさらされ犯罪者として糾弾されている若者の心の痛みと恥辱を表現しており、読者が若者の心理状態を感覚的に理解できるという効果を生み出している。(113)

問四「厳粛なものに打たれて車内にはコトリとの音もしなかった」とあるが、「私」は多くの乗客たちの心理をどのように考えているのか、「厳粛なもの」という表現に留意して説明しなさい。

〈GV解答例〉
男が捨てたバナナの皮で転んだ囚人を冷酷に笑い続けた中から聞こえてきた囚人のすすり泣きとその後に高まった嗚咽に、えも言われぬ人間の深い悲哀を感じとり、かえって罪悪感を覚えるに至った。(90)

〈参考 S台解答例〉
冷酷で残忍な男が意図的に捨てたバナナの皮で転んだ囚人を見た乗客たちは、特段の憎悪もないまま男に同調し、囚人を嘲笑したが、心身ともに深く傷ついた囚人の抑えきれない嗚咽に接して自分たちの振る舞いを厳しく直視し、真剣に受け止め、後ろめたく思っている。(122)

〈参考 K塾解答例〉
乗客は、悪戯の見事な成功を笑い合っていたが、青年が血を流してすすり泣く声を聴き、自分たちが見ているのが一人の人間であることに気づき、軽はずみの人を傷つける残忍さが自分たちに宿っていたことに思い至っている。(102)

〈参考 Yゼミ解答例〉
通路で転倒した若者を見て笑っていた乗客たちは、彼の嗚咽を聞き、彼が流す涙と血を目にして、同じ一人の人間として悲しみや苦しみを感じとり、心ない好奇の目と冷酷な嘲笑によって彼の心を深く傷つけたという自責の念に打たれていると考えている。(115)

#大阪大学 #国語 #島木健作 #バナナの皮

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