「ミヤコから遠く離れて、みる」2

1. 夕飯明けの日はすっかり沈んで経った頃。長廊では芦屋が休んでいる。
   和室ではどこかの土産屋でストラップを購入し惚けている宗方。

宗方 生八つ橋ぃ~
芦屋 あー……
宗方 無駄に透けて、中身まで見えるとか。なんでこんなクオリティが高いわけさ
芦屋 生八つ橋、そんな好きだっけ?
宗方 今日が初めて

   宗方は一人でテンションが上がっている。

宗方 このメーカー絶対頭おかしいって。ウサギ饅頭のストラップはわかるよ? 普通にかわいい。なんなら紅白で二種類もあって、仲良しさんが持てば程よいペアストラップ、これはもううってつけだ。遠目に見てもいわゆるウサギのストラップとしても成立する、すごいと思う。作ったのも頷ける。勝算があるからね。でも、これはなかなかどうして……生八つ橋て。どこ? どこなのよ? どこに可能性を感じたわけさ。いやぁ、これが俗に言う一目惚れというやつか……この商品の企画を通したオトナは只者じゃないね。なんて敏腕……オレじゃなきゃ見逃しちゃうね。まったくもう、けしからん。その一言に尽きる。そうは思わない?

   芦屋は宗方を一瞥する。

芦屋 (視線を外して深く息を吐く)
宗方 これ、すごくない?
芦屋 いや?
宗方 またまた、そんなこと言って
芦屋 餡子は嫌いだよ
宗方 あとから欲しいって言っても譲らないからね。今欲しいでも譲らないよ?
竹村 疲れているねぇ
宗方 ……え、あれ?

   どこからともなく竹村の声だけが聞こえてくる。

竹村 こんな故郷から離れた遠方の地、オトナはいない。おない年とはいえ男と女が同じ部屋。気を遣うなというには、いささかの無理があるよね。わかる、わかるよ
芦屋 どーも
宗方 え、え、え
竹村 無理はいかんよ、君も学生の一人なわけだし
宗方 竹村さん? 竹村さん?

   どこからともなく竹村の声だけが聞こえてくる。

宗方 土遁ですか、またシノビのジツですね。でも、甘いですよ、畳返し……あれ? あれ?
竹村 あっついなぁ

   部屋の隅の荷物の山から竹村が姿を現す。

宗方 なにしてんですか……!?
竹村 あ、これ(コウジに)赤マムシ・すっぽん、それとアマゾンの黒ムカデ王
宗方 なんかすごい……いや、そうじゃなくて
竹村 仕事でね、埋もれる必要があったんだよ
宗方 意味がわかりませんよ?
竹村 わからない? わかららないって言った!? 君はおれをなんだと おれはなに?
宗方 ダブってるお人?
竹村 たしかにそうだけど、そうじゃない。この集まりでの俺の仕事の話はなにかってことだよ
宗方 思い出・記録担当……つまりFFでいうセーブポイントのクリスタル?
竹村 でしょ? クリスタルではないけど 
宗方 すいません、あの先輩ですけど……え、なんで?
竹村 今日は久々にそれよ

   フィルムケースの一つを宗方に渡す。

宗方 おぉ……500円玉貯金
竹村 なんでだ。いやいや、フィルムケース
宗方 え、でも丁度いいサイズですよね
竹村 フィルムケース
宗方 若干大きいですけど、入れるには
竹村 フィルムケース
宗方 でも
竹村 フィルムケース。カメラの。Do you understand ?
宗方 Pardon ?
竹村 ボケなのか、シリアスなのか
宗方 精進します
竹村 どっちに?

   廊下では風呂上り女子が歩いている。

小春 意外と広いよねぇ
沢井 そうね
小春 こじんまりとした店構えに似合わぬ大きさだよね
沢井 まぁ
小春 なんで、入らないの?
沢井 タイミングが……ね?
小春 あー、それは……ご愁傷様、かな?
沢井 違うと思う
小春 大丈夫?
沢井 今のところは、うん…………ねぇ、スマホすごい鳴ってない?
小春 うん、なんだろう

   小春のスマホには通知が大量に来ている。

沢井 なんか、すごいね
小春 なにこの盛り上がり。誰? ちょっと腹が立ってきたなぁ
沢井 楽しいんじゃない?
小春 うん……うん? チカちゃんのはなんで鳴ってないの。グループのやつだよ?
沢井 あ、私そもそも入ってないし? ヒトの顔色見てたのしそうな雰囲気で返さなきゃいけないって……ちょっと疲れるし?
小春 通知を切って、てきとうに流しといていいんじゃない?
沢井 既読スルーすると、そういうキャラじゃないっしょー?って来るわけ
小春 ブロック、ブロック
沢井 そうやって顔を立てるのも疲れし、見ない方がいいかなって
小春 瓜畑さんたち、お菓子食べながらウノしてるって。あれ、男女別フロアだよね
沢井 そうね……しないっつうの(スマホを一瞥し、すぐオフにする)
小春 仕事しろ、アホヒゲ
沢井 うちは、なんもなさそうだよね
小春 枯れてるっていうかね……
沢井 うちのとこアクが強くない?
小春 あははー……あ、ごめん。ちょっと
沢井 湯冷めしないようにねー?

   小春はロビーの方へ。沢井は部屋の戸を開ける。
   ガムを食べる男子三人がいた。

沢井 ……(戸惑いを隠せない)
宗方 お菓子パーティーだよ、ほら……せっかくだし、ね
沢井 もっと他の選択はなかったわけ?
宗方 みなよ、これ。3つに1つですごい酸っぱい
沢井 えっと……当たったのだれ?
芦屋 (水を飲みつつ、なお噛んでいる)
竹村 (膨らませて失敗している)俺、膨らますの下手なんだよね
宗方 たぶん、これは向いていない奴なんですよ
沢井 (視線を戻す)
宗方 (視線で「いる?」と訴える)
沢井 (反応しない)
宗方 (無表情で噛み続けている)

   ガムの咀嚼音だけが響く。

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