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少女漫画に学ぶBL衰退の未来
少女漫画が歩んできたそのままの歴史を、このままだとBLも辿るのではないかと、そういう心配を書くnoteです。
注意
この先、「この作品はBL誌に載せられる、載せられない」というような話が何度か出てきますが、それらは作品の性質に言及した例え話であり、その作品の作者・編集部の意図や意向とは関係がありません。
少女漫画誌の発行部数の変化
りぼんやなかよしの最大発行部数は93年、94年頃がピークで200万部超え、一方のちゃおは02年に他誌を逆転する形で100万部を記録したようだ。
しかし、現在ではその勢いは見る影もない。
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最新のデータだと24年はりぼん、ちゃおが約10万部、なかよしに至っては3万部弱とピーク時と比べ大幅に減少している結果に。
個別のタイトルとしても、ここ最近で国民的ヒットになった少女漫画タイトルの印象はない。
知名度が高い『俺物語!!』や『ちはやふる』の実写映画化が2015、16年で約10年前。
ここ最近の映像化で少し話題になったイメージがあるのは21年の『ハニーレモンソーダ』、今年だと『矢野くんの普通の日々』あたりだと思うが、どちらも前述した『俺物語!!』や、歴代の有名作などに比べるとかなり知名度は落ちると思う。
少女漫画と少年漫画の対等でないジャンル分け
少年漫画には、アクション、スポーツ、冒険、ロマンス、グルメ、SF、歴史、その他にも様々なメインジャンルがある。
一方、少女漫画のメインジャンルはほとんどロマンス1択。上にあげた、少年漫画でメインジャンルになるアクション、スポーツなどは、少女漫画ではロマンスのサブジャンルとしてしか扱われない場合が多い。
ここが少年漫画と少女漫画の決定的な違いだと思う。
女性主人公の可愛い絵柄でロマンスメインの漫画を読みたければ少女漫画、それ以外が読みたければ少年漫画という選択になってしまう。
だから少年漫画を読む女性はたくさんいるし、少女漫画を読む男性は少ない。そもそも包括しているメインジャンルの数が大幅に違うのだから。
少年漫画誌でいくらでも面白い多種多様なジャンルの連載がある中で、そもそも読者が少ない少女漫画誌でいくらロマンス以外の作品を発表しても、結局人気が出るのはロマンスなんだろう。
少女漫画は少女漫画と呼ばれるロマンスジャンルの中の1種であり、実際は少年漫画と大きな言葉を使って対等に並べられるような大きなジャンルではなくなってしまった。
現実として、少女漫画を正しくジャンル分けして呼ぶのであれば、ほとんどは女子向けロマンスなのだ。
かつてはそれこそ『リボンの騎士』に始まり、『ガラスの仮面』『美少女戦士セーラームーン』『カードキャプターさくら』や『ポーの一族』『BANANA FISH』など、現代劇からアクション、SF、ハードボイルドまで多種多様な作品が少女漫画から生まれていたはずだ。
ところが『地球へ…』『XXXHOLiC』『3月のライオン』など、著名少女漫画家が描いた、少女漫画誌に掲載されていてもおかしくない作品が少年漫画誌、青年漫画誌で連載されるようになった。
『推しの子』『わたしの幸せな結婚』など、時代が違えば少女漫画誌で連載(コミカライズ)されていそうな作品も、少年漫画誌や青年漫画誌の掲載で登場している。
これは私の推測だが、そもそも少年向けに様々な作品がある中で、それで補えないものを少女漫画として女子向けに出したのではないだろうか。
さらにお金という面でも大きな違いがある。
あちこちで原稿料の話見る度に、新人少女漫画家の原稿料相場って世に知られてないのかしらねと思う。
— 一ノ瀬ハルコ@3巻7/25発売 (@haruko_ichinose) February 22, 2024
私が友人とあちこちリサーチした限り、大手でも6000円スタートはざらにあり、8000円になると「珍しい!高い!」って感覚です。ちなみに、9000円は聞いたことがありません。全て連載の場合です。
BLの原稿料低い問題ここ10年変わってないんだなぁ🥲
— 澤村鞠子 (@sawamuramariko) October 5, 2024
BL大手ですら新人は1P5000円以下の提示とか全然あったから…しかも印税も少ない(私はなかった時もある)
色んなジャンル描いた結果、男性向けが1番高くて(作画コストも高い)間があいて他やTL、最後に少女とBL…みたいなイメージ💧
上がるといいなぁ…
おそらく日本一売上のある少年ジャンプとその他もっとニッチな需要になってくる青年誌などでは違いがあるだろうが、それでも5、6000円スタートというのは珍しいのではないだろうか。
少女漫画誌で男女問わずファンがいて大きくヒットした作家には、少女漫画誌よりももっと原稿料が高い少年誌や青年誌から声がかかるだろうし、読者が多く原稿料が高い雑誌に移行するのも当たり前だ。
少女漫画がヒットしないのは少女漫画が面白くないからだ、と作家だけのせいにするのはあまりにも周りが見えていない意見だと思う。
少女漫画と同じ性質を持つBL
BLは少女漫画の派生と呼ばれることもあるが、実際似ているところはあると思う。
そもそもBLの始祖とされる『トーマの心臓』や『風と木の詩』は少女漫画誌に掲載されていて、そのうちに同人文化も盛り上がり、BL専門誌やレーベルが立ち上がってきて今がある。
そしてBLも少女漫画と同じように、メインジャンルはほぼロマンス1択という性質を持つ。
ロマンスを主軸に、SFや中世ファンタジー、グルメ、ホラー、スポーツ、バース設定などサブジャンルとしてはかなり幅があるものの、それらはあくまで恋愛物語を彩る要素にしか過ぎない。
BLもロマンスジャンルの中の1種という括りでは少女漫画とさほど大きな幅の違いはないように思える。
原稿料の話も同様に、少女漫画とBLは似たような相場だと推測できる。
盛り上がりを見せるBL市場
ここ数年、あきらかに商業BL市場は盛り上がっている。
BL漫画・小説の作品数は増え続け、ちるちるでの登録作品は24年に発売されたものだけでも3826件にものぼる。
りぼん・なかよし全盛期頃の94年は268件、ちゃお全盛期の02年は1192件。
※ちるちるの漫画・小説の登録件数。
同人、雑誌、18禁作品は除外。
更に20年のタイドラマ『2gether』流行以降、日本でも実写BLドラマは年々増え続け、ウェブ掲載のショートドラマも含めると、今年はドラマだけで20作以上も作られている。
ニッチなジャンルではあるのものの、これだけの作品が生まれ、更に映像化されたりコラボカフェや展示会などのイベントが組まれたりする現状は、商業BLがお金になると判断されたし実際にそこそこ儲かっているからに他ならない。
そして少女漫画を好む小学生女子とまではいかないが、おそらく中学生女子くらいになると、少女漫画を好んでいたタイプの子の一部はBLに吸収されてる可能性もあると思う。
自分がまさにそうで、小学生の頃はちゃお、少コミ読者だったが、12歳くらいでBLと出会い、中学生になると完全にBL本へ移行してしまった。
いまや少年漫画は老若男女みんなが好きなものだが、少女漫画はどこか卒業するもののイメージが漠然とある気がする。プリキュアや戦隊と同じように。
しかしBLはむしろ少女漫画や少年漫画を通った上で、出会うべく人が辿り着く場合が多く、興味がなくなってフェードアウトする人はもちろんいるが、年齢と共に多くの人が卒業するというイメージはない。
一過性ではなく一生もののイメージも、この盛り上がりの一因かもしれない。
包括を許さない女性文化
ラブの感情が無いから身体の関係があったとしてもBLではなくブロマンスだと言いたい気持ちはわかるけど身体の関係もやめてほしいただただ気持ちだけの"""ダチ""""""男の絆""'が欲しいブロマンス好きとしてはキスそれ以上をやってる関係をブロマンスと呼ばれると本当に困りますというおおおお気持ちが
— いもーす (@imo_su_p) December 15, 2024
このnoteを書いているリアルタイムで話題になっている投稿。
BLとブロマンスの定義を各々の事情からコメントしているが、これこそまさに女性主体ジャンルにおける細かなジャンル分けや除外の背景だと思う。
恋愛感情があればBLなのか、恋愛と性愛を両方描けばBLなのか、ブロマンスに一切恋愛は組み込まれないのか、性愛が1ミリでも入っていたら許されないのか、性愛の意味すらないキスシーンが1回含まれるだけでブロマンスと呼んではいけないのか、ブロマンスと呼ぶのは同性愛の透明化で差別なのか、原作では恋愛だけど自国の規制上ブロマンスとしてドラマを構築し宣伝したが、実際キャラクターの内情には恋愛があると推測される『陳情令』は果たしてブロマンスなのか。
この一切の肉体的接触を描くべきではないという定義でいけば、多くの人がブロマンスと呼んでいる『BANANA FISH』はBLに括るべき、となってしまう。(そもそもBFはブロマンスかBLか論争は元からあるけど)
上記の投稿はブロマンスが好きな人の視点だが、BLが好きな人の視点から見るとまた話は違う。
キャラクターたちに一切の恋愛感情がなく、ただし二人の関係性を描く上で肉体関係の描写が必要と判断された作品を「これはもうブロマンスじゃないのでBLジャンルに入れてください」と言われても、「ボーイズがラブしてないのに、性愛とラブは異なるのに、たった数コマそういう描写があっただけなのに、それを一緒くたにしてBLですか!?主軸は友情物語なのに!?どこにもラブ書いてないのに!?私が求めてるBLと全然違うんですけど!?」となる。場合もある。
こうして、ブロマンスにもBLにも「うちじゃないです」と拒否されるが、ブロマンスやBLが好きな人がメイン読者である謎のジャンルの作品、が誕生してしまうわけだ。
もし同人、アマチュア作品ならこうなる。
「二人は恋愛関係でなく完全友愛のバディですが、作品の都合上肉体関係の描写があります。わたしはブロマンス(もしくはBL)と思って描いています。苦手な方はご注意ください」「なんでも許せる人向け」
そしてこれを書いていないと毒マロ凸される。「肉体関係があるならブロマンスじゃなくてBLですよね?ブロマンスを求めて読んだのに肉体関係があってびっくりしました。ブロマンスではなくBLとタグ付けすべきではないでしょうか。」
女性主体の文化は、かなりこの定義やマナーにうるさいイメージがある。
男男関係ではBL(恋愛・性愛)とブロマンス(友情)は別物という認識がかなり広がってると思うんですけど、女女関係は両方ひっくるめて「百合」と表現されることが多いので実は対称にはなってないのだ ややこしいのだ pic.twitter.com/Tu1whG42Go
— 橘こっとん (@KocyoCottonsub) December 16, 2024
私はGL・百合系作品に明るくないので詳しい言及はできないが、百合という言葉が女性二人のあらゆる関係性を包括するのに対し、男性二人のあらゆる関係性を包括する呼び方がないのも、この包括を許さない文化の一つだと思う。
”ブロマンス”ですら同性愛の透明化に繋がるのではないかと言われる時代、この”百合”というワードも同じように透明化ではないかと言及しているコメントもあるが、それはそれとして”女性二人のとにかくでかい感情などがメインの作品”を大きなジャンルとして括る言葉があるのは個人的には羨ましく思う。
全然訳分からないこと言うんですけど、当方ブロマンスが大好きなんですが、キスもそれ以上も全然するけど恋人とか言われるとなんか違くね?みたいな距離感のおバグり方してるのがわりと好きで、そうなってくると一気にニッチ需要になってしまい 悲しい
— カンデラ (@candela_CoC) December 14, 2024
こちらの投稿も、私は言っている意味がすごくよくわかる。
しかし、既存のBLやブロマンスという言葉ではしっくり来ない上に、性愛がメインではないのに性愛が描かれているからという雑な理由だけで性愛や恋愛をメインに扱うBLに組み込もうとするコメントが多く、まさに包括する言葉がない故に「ブロマンスにもBLにも「うちじゃないです」と拒否されるが、ブロマンスやBLが好きな人がメイン読者である謎のジャンルの作品」の例。
このブロマンス、BLの定義の話は女性文化の自浄作用や他人を気遣う配慮のマナー、ルールを守り真面目であることの悪い面が出てるなと思う。
個人個人で見ると好みの幅はあるが、引きで見るとメインの客層としてはほぼ同じであろうことは予想がつくので、境界線上にある「ブロマンスやBLが好きな人がメイン読者であるBLともブロマンスとも言い難い作品」も大きく組み込めるワードがあると良いなとは思うが、もう無理でしょう。
らしくないBL作品の受け皿
そして、上記のようにブロマンスガチ勢にもBLガチ勢にも拒否されるグラデーション上にいる作品の受け皿となるのが、主に青年誌だ。
更に最近は、はっきりBL小説やBL漫画と括られる作品が一般誌や一般レーベルから出るパターンは珍しくなくなってきている。
BL作家として活躍していた凪良ゆうさん、一穂ミチさんはいまや一般文芸で活躍し、かつて書いていたBLが一般文芸として販売されるケースもある。
榎田尤利さんや木原音瀬さんの作品も、過去BLレーベルで発表した作品が一般文庫から販売されている。
もし『箱の中』が一般文芸で出版されなかったら、この動画のピストジャムさんをはじめ多くの一般ファンが『箱の中』に出会うことはなかっただろう。中身はまったく同じ作品なのに。
『消えた初恋』は少女誌、『光が死んだ夏』『カラオケ行こ!』は青年誌、『青のフラッグ』は少年誌と、これらは有名作品だが、もっともっとたくさんのBL系作品が一般誌で連載されるようになった。
25年に実写映画化が発表された『10DANCE』はBL誌から青年誌へ移籍という珍しい例もあるが、一般誌に移行してもなおジャンルは変わらずBLとして連載が続いている。
『かしこい子ども』も、上巻は女性主人公のヒューマンドラマ、下巻はスピンオフ的な形で男性主人公のBLと、上下巻で読むことに意味があるのでBL誌では載せられないだろうが、しっかりBL要素を含む漫画だ。
LINEマンガ掲載の『先輩はおとこのこ』も、男の子に恋する男の子がメインキャラクターの一人として描かれているが、これも女の子がヒロイン的立ち位置であること、結末を考えると、そもそもBLとして書いてないだろうし、ひとつの案としてもBL誌で掲載する選択は取らないだろう。
『煙たい話』は当初BLとしてタグ付けされていたが、作者の意向で恋愛関係ではないのでBLジャンルではない、公式として発表する際にはそういったラベリングは外すとされた経緯もある。
『宝石商リチャード氏の謎鑑定』は(おそらく小学生~向けの)ライト文芸としてオレンジ文庫で発売されているが、リチャードと正義の関係性はこれもまたBLレーベルから出ていても「こういう作品もありだよね」と思う。(作者の意向はわからないが、作中で二人の関係性を位置づけるような名称は一応出てくる)
中田正義くんも「友情と恋の境目はどこにあるのだろう?」と悩んでいたもんな。まっとうに考えようとすると、難しい話だよな。だって現実にだってそんなに厳密にわかれているわけじゃないからな。>ロマンスとブロマンスの違い
— 辻村七子 「宝石商リチャード氏の謎鑑定」/12月からSFマガジン連載 (@tjmr75) December 16, 2024
他にも漫画、小説に関わらず、明らかにターゲットやファン層はBL好きの層だけど、BLとして括るには要素が弱い、BLジャンルの定義からはみ出た作品が青年誌・一般文芸に持っていかれている例はたくさんある。
元々サブカル系やジャンルレスな作品を得意としていたバンチがBLをはじめ既存の括りでは収まらない作品を発表する為の新レーベルを立ち上げたのもつい最近の話。
カルマがテーマなので明るいタイプのお話は組み込まれないが、それでもシリアス系の作品で既存のBLの枠から外れたような作品の受け皿となっていくであろうことは期待できる。
ニッチすぎるBL小説のジャンル指定
昨日お友達と話していて、今のBL小説業界は、異世界転生かオメガバースを書けないとやっていけないと言われて、震え上がってしまいました…
— 和泉桂 (@izumi_k) September 24, 2024
もちろんこれまでにも、学園ものじゃないと(プロットが通りにくい)時代、リーマンものじゃないと時代などなどがありました。
— 和泉桂 (@izumi_k) September 25, 2024
ただ、BL小説は大変自由な時代もあったから、その揺り戻しが(自分には)キツく感じられる……という話です。 https://t.co/3HxiQVEMaS
BL小説というのはBL漫画よりも更に読者が少なくニッチなジャンルであり、一貫して「今流行りのもの以外のプロットは通りにくい」傾向があるのだと思う。
このファンタジーばかりが出版される状況は、19年頃から徐々にファンタジー作品(バース系含)が増え始め、21年にネット連載から書籍化された『背中を預けるには』のヒットで地位を確立したように見える。
ちょうど同時期に日本でも『魔道祖師』『陳情令』のブームに火がついたという背景もあるが、中華系となろう系は同じファンタジージャンルでも影響を与え合っていたかというと疑問に思うところ。
かれこれ5年くらいはこのBL小説ファンタジーブームが続いていて、いよいよそれらが書けない作家の方は同人・自主出版に切り替えたり、一般文芸へ行ったり、最悪筆を折って本業に専念してしまったり、ということが起きているのではないかと思う。
生まれるはずだった名作の喪失、サブジャンルの固定による読者のさらなる厳選(私はファンタジーが苦手なのでもうランキングも見ないし過去作しか読んでいません)、短期的に見れば売上の伸びるジャンルに絞って効率よく売上が伸びているかもしれないが、長期的に見るとやはりこれも衰退に繋がっているのではないかと思ってしまう。
このお話、木原さんはムラとカンさんのお話ではなくムラの人生のお話、と言っていたけど、実際内容的にはBL作家としてBLレーベルで様々な本を出してきた木原さんがこの本をBLレーベルで出しても違和感はないし、ファンには受け入れられたと思う。
しかし、私は読んだ際に「この文体でこの内容なら、(木原さんの意思とは別にして)もしBLレーベルにプロット出したとしても通らないだろうな」とも思った。
願わくば、『惑星』のような「愛のようなものはあった」話も先に上げた『先輩はおとこのこ』のような話も、BLやそれに類するジャンルとして受け入れられるような間口の広さがあって欲しいが、もう無理だろうな。
”BL”と分ける必要がありますか?
この作品はBLですか?という質問に対して、「彼らはただ恋人同士になるだけです。タイでは法律も変わって異性でも同性でも同じように結婚出来るようになったのにまだわざわざ分けるような質問をする必要がありますか?」と問い返すTor Thanapob。 https://t.co/sMW8Cp0yD1
— wow! 🆗コ (@wakeko_T) December 9, 2024
タイと日本の文化の違い、同性婚が正式に可能になったこと、外向けにYシリーズという言葉が指す意味合いなど、この短い翻訳の言葉だけですべてを理解出来るわけではないことに注意が必要だが、タイBLでは上記のような考え方が主流になりつつあると私は外側から感じている。
BLドラマに参加した俳優たちが同性婚の法制化に賛成意見を上げるのはもちろん、差別反対、パレードへの参加、様々な面から現実の同性愛者を巡る問題に向き合っている。
更にドラマの内容も、放送時に同性婚の法制化が決定した場合と決定しなかった場合、両方のパターンに合わせてエンディングが撮影されたドラマもあるようだ。
BLとクィア作品の境界線をなくしていく、より当事者目線を意識した話を作る、ファンタジーという都合の良い言葉で誤魔化さない、ゆくゆくは男女だろうが男男だろうが女女だろうがすべてをロマンス作品として一つのジャンルにする、何となくそういう流れが出来ている。
それは当事者からすると良いことだろうし、世間的にも差別の意識を取り払う当たり前のことだとは思うが、BLファンとしては、”BL”それ自体を盛り上げたいわけではなく、ただの踏み台だったんだなと思う気持ちは正直ある。
BLと銘打ってBLが好きなお客さんを掴んできたのに、当事者の方を向いていないBLは差別的で、BLそのものが古い考えで、だから自分たちがBLの意識を変える、私達が築き上げてきたBLの歴史はまるっと無視して、儲けるだけ儲けた後は時代の流れに身を任せて手のひら返しされた感覚。
お金になるからとBLに手を出しておいて、いざ風向きが変わった時に守られるのはそれまでBLという文化そのものやBLドラマを支えてきたBLファンではなく、当事者たちだ。
差別を許さず当事者が生きやすい世の中を作ることと、差別表現であることを理解しながらも表現する権利があることは、発表の場さえ間違えなければ両立するはずだ。
BLの枠を超えたって何?
そもそもBLというジャンルは下に見られる事が多い。
最近ではその表現に突っ込みが入ることも多いが、「もはやBLではない」「BLという枠を超えた」とBLファン自らも作品を高評価する言葉として使われる場合も多かった。
この言葉は、BLというジャンルは男の子同士がいちゃいちゃしていればそれでいいだけの重みのないジャンルだという卑下や見下しからくる言葉だと思っている。
言葉の表現に注意しようと意識が広まりつつあった中で、それを後押ししたのが映画『エゴイスト』のパンフレットに掲載された「注意が必要な表現」という項目だったと思う。
上記記事内にあるガイドラインを元にパンフレットが作成されているので、気になる方は読んで欲しい。
■あえて「打ち消す」表現
「BLを超えた普遍的な愛」「これはLGBT映画ではなく」といった表現など、あえて「BL」や「LGBT」というカテゴリを打ち消したいと思う自分自身の中に偏見がないか見直しましょう。こうしたカテゴリに対する偏見がないか、劣位においてしまっていないか見直しましょう。
すごいわかる
— いず (@izu_kokera) December 16, 2024
ブロマンス大好きオタク的には友情を恋愛の下位互換みたいにされるのも嫌なんですよね。性欲とか抜きに相手への深い理解と愛と思いやりだけで成り立ってる関係の尊さよ https://t.co/iKQB5hab2Z
友情を恋愛の下位互換とするな、という意見はよくわかるが、逆にブロマンスファンからも「ブロマンスの関係性は恋だの性だのよりも尊いもの」とBLが下に見られる表現をされてしまうことも多々見受けられるし、実際上記投稿も投稿者にはその意図がなかったかもしれないが、何となくBLを下に見ているような言葉選びな気がしてしまう。
私はBLの大半をポルノだと思っているが、それでも見下される謂れはない。
恋愛も性愛も友愛も家族愛も自己愛もその他人間以外の物や土地や生き物や概念、様々なものに対する愛も、すべての愛に上も下もない。愛は愛だ。
BLの中にはR-18の完全ポルノの作品もあれば、これまで書いてきたようにBLととれなくもない微妙な作品まで様々ある。
BLが差別を受けない未来のために、BLファンこそBLの枠に囚われず、もっと色んな作品をBLとして受け入れ、堂々とBLだと言い張ることが大事なのかもしれない。
BL衰退の未来
このまま行くと、BLの境界線上にいる面白い作品はすべて青年誌扱いとなり、更には本来BL誌で連載されても良いような作品まで青年誌で連載され、BLは少女漫画と同じように衰退の一途を辿るばかりなのではないか。
実際に現状はもうそうなってきている。
一般誌で連載されている作品はメディアミックスされBLファン以外からも注目されるが、BLレーベルの作品はメディアミックスされてもBLオタクだけの内向きにしかヒットしない。
BL原作で有名キャストを使いそれなりにヒットしたのは贔屓目に見て『美しい彼』、今後それが期待されるのは『10DANCE』(移籍後は一般誌だけど)くらいのもので、『チェリまほ』や『窮鼠はチーズの夢を見る』や『カラオケ行こ!』や実写・アニメが同時に控えている『ババンババンバンバンパイア』(ブラッディ・ラブコメ)などはいずれもBL誌掲載の原作ではない。
これは多種多様な作品がある青年誌で勝ち抜いて連載をゲットしメディアミックスの話が来るほど面白い作品だから、という面もあるが、その”面白い作品”がBLの固定観念から外れすぎてBL誌ではなく青年誌に持っていかれてしまっている現状と、内容がまったく同じ作品でもレーベルが違えば注目されていないであろう事実(上であげた『箱の中』の例)にも着目したいという話。
青年誌で「うちではBLも制限なく描けます。それにBL誌では断られるような女性がメインキャラの作品や、BLではないけどBLが好きな層がファンになりそうな作品も受け入れますよ。1Pあたりの原稿料はBL誌より上です」と提示されたら、そういう作品が描きたい作家は青年誌で連載を始めるのは当たり前だ。
BLはまだ男の子同士が恋愛していれば一般レーベルだろうがなんだろうが”BL”と呼ばれるので、少女漫画よりも予後が良さそうではあるが、これも今後「男と男の恋愛だからと言ってBLとは限らない」となる可能性も大いにあるし、実際クィア作品とBL作品は今の日本では区別されている。
『先輩はおとこのこ』はBLにラベリングされるような作品ではない気がするけど、ボーイズがラブしている話ではあるのだから、本来『先輩はおとこのこ』のような話がBL誌で連載されていても別にまったくのお門違いというわけではない。
これはBL、これはBLじゃない!と狭い定義でBLレーベル、BL誌での連載作品を決めていった結果、一般へ波及する実力のある作家やBL要素は薄いけど良作のBL作品、はっきりBLではないけどBLファンに好まれる作品などがどんどん青年誌に持っていかれ、BLレーベルやBL誌がエロ専門誌となって衰退する未来は、あり得なくはないと思う。
作品個別で見れば別にラベリングにこだわる必要はないのだけど、BLジャンルという一つの文化として見れば、定義を狭めて固定化することには長期的に見たメリットはない。
BLで連載枠をかけてつらい争いがあったりしないのは短いのが普通だからで、そのおかげで新人さんもかなり自由にチャレンジできるし人気になったら続きが描ける仕組みもとても順当だと思ってる
— 朔ヒロ (@sakuhiro57) April 23, 2024
んだけど、これからは他の恋愛漫画と同じように長いのもあるのが普通になったらいいなーとも思うのです
今のBLは1巻か長くとも上下巻完結が基本で(人気になって続編決定はあるが)長編前提の連載が難しく、内容の掘り下げがどうしても薄くなりがちな面も不安要素としてある。
約10年前、14年発売のコミックスが本当に凄くて、『テンカウント』『ブルースカイコンプレックス』『ひだまりが聴こえる』『ギヴン』『STAY GOLD』『恋するインテリジェンス』『抱かれたい男1位に脅されています。』『海辺のエトランゼ』……などの1巻が発売された年。未だに連載が続く、メディアミックスされる、話題になる作品ばかり。
逆に言うと、この年以降はもう長編前提の作品がかなり減ってきて、現在では1~2巻完結が当たり前で、売れなければ続編を書くことはできない。
しかし雑誌掲載からウェブ連載へと移行される中で、長期連載も取りやすい環境が出来てきているのではないかと個人的には期待している。
まずBLというジャンルが廃れて良作が青年部門へ移行すること、それ自体に何かデメリットがあるのかと言われればそれまでだが、BLというジャンルの経済を回し、書きたい人も読みたい人も広く受け入れ、同じ趣味の人達で満足できる空間を維持したい、私の願いはただそれだけだ。
おまけ
最近こちらのアカウントの投稿をさぼっているが、サブアカウントの方はそこそこ動かしている。
本来であればこっちで書くべきこともログインが面倒でサブアカウントで書いてしまっているので、そこそこ伸びてたり読んで欲しかったりする記事を何個か貼り付けます。