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初めての入院

初めての入院。

今回の入院は2度目だった。
つまり、初めてではなかった。
初めての入院は1億と2千年前のことだった。
梅雨明けして初めてのお休みの日、当時良く訪れていた茨城県の波崎海岸に、ひとりで出かけた。
早朝に着いて、波打ち際にサマーベッドを置いて、波音を聴きながら半日のんびり過ごしていた。
お昼近くになり、足に異様な痛みを感じる。
顔や手には塗った日焼け止めを、迂闊にも足には塗り忘れたために日焼けが酷くなったみたいだった。
急いで撤収して帰宅する。

こんなことは初めてだったし、元々地黒で日焼けには強いから、痛くなることがなかった。
なので安易に考えて何もせずに寝てしまった。
冷やすとかローションを塗るとか思いもしなかったのだ。

翌朝目覚めたら足は腫れて痛みが増していた。
仕事で着る制服のパンツを履いたら、日焼けした足が擦れて、とてもじゃないけど動けない。
一計を案じてタイツを履いてから制服のパンツを履いた。
真夏なのに重ね履きで暑苦しいにも程があるけど、擦れた痛みよりはマシだった。
なんとか仕事を終えて帰宅しようとしたら、足首が腫れて痛い。
当時はマニュアルのクルマで通勤していたので、クラッチを踏むのが大変だった。
オートマしか知らない今のドライバーは分からないだろうけど、クラッチは重たいのが普通なので、シフトチェンジする度に左足首に激痛が走る。
幸い夜中なので道は空いている。
スピードを調整してなるべく信号で止まらないようにしながら、なんとか自宅に帰り着いた。
駐車場からアパートの玄関までの、ほんの数10メートルは果てしなく長い道のりに感じた。
這うようにして何とかお部屋まで辿り着く。
そしてそのまま倒れるように眠り込む。

目が覚めたら完全に身動き出来なくなっていた。
足の痛みは半端なかった。
医者に診てもらうしかないと、最初はタクシーを呼ぶつもりでいたが、タクシーを呼んでも乗ることさえ叶わないと思い、初めて救急車を自分で呼ぶ。
隣町の救急病院に搬送されて診察を受ける。
医者は笑っていた。
日焼けって言うのは火傷なんだよ。
冷やして薬塗って治るのを待つしかない。
そう言って両足は包帯でグルグル巻きにされてミイラみたいになった。
一人暮らしだと言うと、帰っても大変だろうからと入院を勧められた。
タクシーで一旦帰宅して簡単に荷物をまとめて病院に戻り、そのまま入院した。

入ったのは大部屋。
両足を包帯で巻かれた姿を見て、同室の患者さんたちは気の毒に思ってくれたが、日焼けのし過ぎと知ったら爆笑された。

しかし、そんなことよりこの部屋には大きな問題がある。
なんとこの部屋のエアコンが壊れていて冷房が効かないのだ。
代わりに扇風機が置いてあるが、気休めに過ぎない。
今ほどの暑さではないと言っても、梅雨明け後の真夏である。
熱中症にならないのが不思議なくらいだけど、それでも扇風機で何とかなる程度の気温だったのだろう。
やはり昨今の猛暑が異常なのだ。

入院していたのは僅か4日だった。
しかし、その間に両親や友人達がお見舞いに来てくれたり、准看護師さんが髪を洗ってくれたりして、いろいろなことがあった。
忘れられないのが入院中に土用の丑の日があったので、その日の夕食に鰻が出たことだ。
ほんの半切れくらいの蒲焼きだったけど、病院食に鰻が出るとは思わなかったから、とても嬉しかった。
入院生活のハイライトと言っても良いくらいだ。

この入院についてはとんでもないオチがある。
入院する時に保証金として3万円を預けた。
退院の際には食事の自己負担分として1日600円、4日で2400円が差し引かれて、保証金が返された。
そして、退院後には何回か通院した。
しかし、退院する時にも通院した時にも一切支払いがなかったことに、通院が終わった後に気づいた。
後日まとめて請求されるのかなと思って請求書を待つが、いつまでも来ることはなかった。
今と違って当時は薬が院内処方だから、薬代も含めて入院費、治療費、一切が無料で済んだことになる。
何かの手違いか単純なミスなのだろうが、迂闊に聞いて藪蛇になり、多額の費用を払うのもなんなので、結局こちらから聞くことは止めた。
赤ひげ先生みたいな仁術でやっている病院なのかも知れない。
あるいは無料と引き換えに、未承認の治療を試されたのかも知れない。
もしかしたら、仮面ライダーみたいに人造人間にされたのかも知れない。
永遠の謎である。

なので、たった2400円で入院と通院が済んだのである。
自宅に帰っていたら、食費だけでもこの金額では済まないはずだから、入院して大正解だった。
例え、謎で怪しい治療を試されたとしても。

1億と2千年も前の過去のことなので、時効だろう。
請求権はとっくに消滅してると思うので書いた。
その節は大変お世話になりなりました。
〇〇病院には感謝しかありません。

そんな初めての入院生活。
そう言えば初めての入院も2度目の今回も7月だ。
7月は呪われた季節だ。
みなさんも気をつけなはれや。
もう8月になってしまったけどね。
完。

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