2020/02/18 名前をつけたい
自分のものを愛称で呼ぶのが好きだ。
例えば、この文章を書いているパソコンは「くろすけ」。
見出し画像の赤マフラーの彼は「キタジマ」。
我が家にいるいちばん大きなSuicaのペンギンは「駅長」。体長1m。
(ちなみに、画像のキタジマの背景の白いのが駅長のお腹です。)
自分の住まいや部屋に名前をつけている人は羨ましいし、身近なものに名前をつけている人には親近感を覚える。乱歩大人のスクラップブック『貼雑年譜』も内容を端的に表しながら格好いいし、江戸時代に編まれた古筆手鑑『見努世友(みぬよのとも)』は、兼好『徒然草』第十三段を受けたなんともロマンチックな書名をまとう。
『徒然草』第十三段
ひとり灯のもとに文をひろげて、見ぬ世の人を友とするぞ、こよなう慰むわざなる。
文は文選のあはれなる巻々、白氏文集、老子のことば、南華の篇。此の国の博士どもの書ける書も、いにしへのは、あはれなること多かり。
【現代語訳】
ただ一人、灯火のもとに書物をひろげて、見も知らぬ昔の人を友とすることこそ、何にもまして、心慰むわざである。
書物は、『文選』の感銘深い巻々、『白氏文集』、『老子』や『荘子』の言葉など。我が国の博士たちの書いたものも、昔のには感銘の深いことが多いものだ。
――永積安明校注・訳「徒然草」(新編日本古典文学全集 44、小学館)p91-92
先日来ポール・ヴァレリーの言葉の狭間をさまよっているのだけれど、痛感するのは、わたしは書かねば忘れるということだ。そもそもヴァレリーの言葉だって、手帳に書きさえしておけば探すことも容易だったろうし、自分が出会った表現を正確に確認できたはずだ。この反省から、日々の記録や貼雑を怠けずに残していこうと心新たにしたところだ。(数年前にも作っていたことはあるが、凝りすぎて長続きしなかった。惜しい。)
別に名前を付けずとも、粛々と記録すべきものを記録すればよい。だがしかし、記録帖に気に入った名前がついていれば愛着が湧くというものだ。そんなわけで名前をつけたい。何がいいかしら。
好きな書名で多いのは、丸谷才一氏のエッセイや評論集。他には国語学者・山田俊雄氏による『詞林逍遙』(角川書店)や『詞苑間歩』(三省堂)、『ことばの履歴』『ことば散策』(岩波新書)。
言葉の蒐集録にふさわしい名前はどういうものだろう。漢字3字で「~録」「~帖」だと格好いいかな。今思いついたのは「青葉録」「恵風帖」とか。でも平仮名の名前もいいかもしれない。
あるいはドイツ語あたりのよさそうなものはあるかしら。
今は決めかねるので、記録帖を作りながら考えることにしよう。