ピン留めの惑星｜プロローグ

『ピン留めの惑星』

なぜだか昔から、ピン留めというのはすべてどこかへいってしまう。

一体、どこへいってしまうのだろう？
私たちのたいせつな一部だったはずのものたちは。

もしかしたら。失くしたピン留めたちが累々と流れ辿り着き、集まり積もっている場所がどこかにきっと、あるのかもしれない。
どこかの島、どこかの国、どこかの星に。

『ピン留めの惑星』がどこかに。

学生時代、恋多き惚れっぽい男の子が、友人に恋の相談をしていた時に放った言葉が忘れられない。

「だってお前、ここがどこだと思ってんだよ、恋する惑星だろ？」

ハッとした。それは当時流行っていた金城武出演の映画のタイトルだったけれど、そうなのだ。

私たちの住むここ地球は、恋する惑星なのだった。

＊

とすれば。

失くしたものは、ほんとうには失くしてはいなくって。
ピン留めの惑星や、ヘアゴムの惑星、リップクリームの惑星なんかでそれぞれに、だいじにされていた思い出だけを付着させたまま、機嫌よく浮遊しつづけていて。

失くした恋も、どこかの星でしあわせだったあのときのまま、漂っていてくれているかもしれない。

……そう、思えなくもないから。だから何も心配する必要なんてないんだと思える気が、少しする。
これからの恋も、つづく日々も。

そしてここは、恋する惑星。
私たちはまた恋をして、新しいピン留めや、ヘアゴムや、リップを買う。

＊

そんな“たいせつなもの”たちが辿り着くどこかの星に想いをはせながら、
そのかつての持ち主だった、恋する私たちの物語を―――。

〈文・大島智衣　画・つきはなこ〉

＊　＊　＊

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