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「SNSは満遍なく使いこなす時代」ヤバT こやまたくやが語る、広く作品を届ける技

今や音楽フェスに欠かせない存在となり多数のタイアップ楽曲でもお馴染みの大人気バンド、ヤバイTシャツ屋さん。

こやまたくやさんはギター・ボーカル、作詞作曲だけでなくSNS運用も担当し、バンドのプロモーションまで手がけている。さらに、「寿司くん」名義で多数のMVやアニメーション作品を手がけてきた映像クリエイターでもある。

幅広く活躍する彼は、作品制作、ライブ、プロモーションにおいてどんなことを意識しているのか。また彼の思考の軸は何なのだろうか。
 <文:伊藤美咲 / 取材・編集:小沢あや(ピース株式会社)

 <こやまたくやさんプロフィール>
1992年京都府生まれ。大阪芸術大学芸術学部映像学科卒業。大学在学中にロックバンド「ヤバイTシャツ屋さん(通称ヤバT)」を結成し、2016年にメジャーデビュー。6月19日に「ハッピーウェディング前ソング (2年以内に別れないver.)」を配信リリース。


どんな状況でもブレない、ヤバTらしい楽曲作り

 2020年以降、新型コロナウイルスの影響でバンドマンたちはライブの中止を余儀なくされた。緊急事態宣言が解除されてから徐々にライブ文化は復活してきたものの、入場者数を減らしたり声出しを禁止したりとさまざまな制限が設けられた。

特にヤバイTシャツ屋さんのように年中ツアーを行っているライブバンドにとっては、これ以上なく辛い状況だったはずだ。コロナ禍と言われた3年間、こやまさんはどのようにバンド活動をしていたのか。

「コロナ禍はライブが思うようにできなかったことで、今までいたお客さんが離れていった感覚はありました。特に、ヤバイTシャツ屋さんはライブで盛り上がることを第一に考えているバンドやから、声が出せない環境だと本来のパフォーマンスが見せられなかったんですよね。

今はやっと声が出せる環境が戻ってきて、『本来のライブって、これやったよな』『ヤバTのライブって、こんなに楽しかったんや』とポジティブな反応をたくさんいただけて。安心しましたし、自信にも繋がりましたね」

思うようにライブ活動ができなかった時期は歯痒さもあったが、その分楽曲制作に集中するアーティストも多かった。ヤバイTシャツ屋さんも楽曲をコンスタントにリリースし、リスナーに最大限の楽しみを届けてきた。

「コロナ禍ではライブの在り方を試行錯誤してたからこそ、音作りはブレてはいけないなと思っていました。『Give me the Tank-top』や『NO MONEY DANCE』はコロナ禍やから生まれた歌詞やけど、曲調はライブありきで考えてましたね」

 

 

「コロナが落ち着いたときにライブで圧倒的に楽しめるような曲にしようと思っていたので、動きたくなる曲調にして、コールアンドレスポンスもめちゃくちゃ入れています」

ライブとは違った楽しみがある音源

ライブバンドと言えど、もちろん音源の制作にも妥協はない。音源には、ライブとは一味違った音楽の楽しみが散りばめられている。

「ライブではギター、ベース、ドラムの3つの音+同期音源しか鳴っていませんが、音源ではギターを

常に2本鳴らしています。だから、サウンドに厚みがあるんですよね。ライブでは演奏しないギターフレーズも色々入っているので、音源ならではの楽しみがあると思います」

また、コロナ禍では自宅で音楽を楽しむ人が増え、再生環境も多様化した。こやまさんは、どのように楽曲が聴かれることを想定しているのか。 

「今はスマホのスピーカーや付属のイヤホンで音楽を聴く人がほとんどですよね。もちろんスピーカーやイヤホンにこだわってもらえた方が音楽を楽しめるとは思いますが、再生環境に差があるのは仕方ないかなと。『絶対に良い音響で聴いて』とは言わへんから、気軽に聴いて楽しんでくれたら良いなと思いますね」

自分の好きなものを知るために、いろんなものを見る

こやまさんが手がける作品が広く浸透するのは、世間の需要と自身のやりたいことを、絶妙なバランスで両立しているからだ。彼は昔から「よくTwitterでエゴサーチをする」と公言しているが、日頃からどのように情報をキャッチアップし、作品に落とし込んでいるのか。

「SNSはボーッと眺めてしまいがちですが、『何か役に立つものないかな』と思いながら見るだけでもかなり違ってくると思います。ただ、『これが流行っているから取り入れよう』と考えるのではなく、自分が面白いと思うことを作品にしているんですよね。

ヤバTが出てきた頃は、『おちゃらけた歌詞の四つ打ち音楽が流行ってるからやってるんでしょ』と思われることも多かったんです。でも結成して10年経った今も、僕たちは同じ音楽を続けているので、自分たちが好きだからやってるだけなんやな、と周囲にも伝わったと思います。

本当に流行りに寄せていたら、今は全然違う音楽をやっているはずなんですよね。自分が好きな音楽と時代が合ったから、2015〜16年のタイミングでヤバイTシャツ屋さんの名前が広がったんだなと最近気づきました」

こやまさんの自分らしさを発揮する場面は、ヤバTの楽曲だけではない。多くの人から笑いと共感を得る彼の作家性は、動画制作を手がける「寿司くん」名義の作品にも反映されている。

「昔『寿司くんっぽい映像だと思ったら、本当に寿司くんの作品だった』とコメントをいただいたことがあるんです。『映像で作家性が出せているんだ』と感じてすごく嬉しかったですね。

映像作品はきれいに作ろうと思えば、いくらでもそれっぽく作れてしまうんですよ。でも、それだと作家性が失われてしまって、誰が作っても同じような作品になってしまいがち。その中で自分らしさを出せていたのは、光栄だなと思います。

僕は、作り手のあざとさが見えてしまうものが苦手なんですよね。『今流行ってるコンテンツを真似してるな』と感じると、一歩引いてしまうというか。タイアップで映像や楽曲を作品に寄せなければいけない場面でも、その中で自分の色をどうにかして出そうとしている姿勢が見えると、熱い気持ちになりますよね」

世間の需要や流行りをしっかりと把握しつつも、自分の面白いと思うものをしっかりと軸に持っているこやまさん。彼のような作家性を生み出すには何をすべきなのか。こやまさんは次のように語る。

「どのアーティストでもゼロから作品を生み出していく中で、今まで観たり聴いたりしたものの影響は少なからず受けていると思うんです。

作品を噛み砕いたり解釈したりしたことがミックスされて自分の好きなものや感性が出来上がっていくので、いろんなものを見たり聴いたりしようと思っています。だからこそ、自分の好きなものを知るためにも、まずはコンテンツに限らず、自分の目でいろんなものを見ることは大事だと思いますね」

テレビ出演を10年間我慢したからこそ伸びた、バンドの寿命

こやまさんは良い楽曲やライブを作るだけでなく、「いかに作品を世の中に届けるか」という流通の部分まで思考を巡らせている。これがヤバTや寿司くんの作品の認知度をグッと上げた秘訣に繋がっているのだ。

「『どうしたら自分が作ったものが見てもらいやすくなるか』は、かなり考えています。何か新しいプロジェクトを始めるときは、年単位で計画を立てますね。

寿司くんやヤバTを始めたときはSNSといえばTwitterが中心でしたが、今はTikTokやInstagram、最近Threadsも始まったし、ほかにもいろんなプラットフォームがあります。これからの時代は何かひとつに特化した人より、満遍なく使いこなせる人が勝つのかなと思います」

これまでインターネットを駆使して作品を広く届けてきたこやまさんが、次に進出したのは地上波テレビ番組だった。ヤバイTシャツ屋さんとしてはずっとテレビ番組での演奏をNGとしていたが、2023年の3月に満を持して「解禁」した。 

「バンド活動が長くなって、インターネットやライブ現場でできることはいろいろとやってきたので、コロナ禍でライブに来る人が減っていた状況で、今こそテレビの力を借りたいなと。元々テレビに出たくなかったわけではなく我慢していただけなので、今たくさん呼んでもらえるのはすごく嬉しいです。

とはいえ、テレビやメディアにたくさん出れば良いと考えているわけではないです。大袈裟かもしれないですけど、もしヤバTがメジャーデビューした2016年ごろにテレビに出まくっていたら、きっとそこで消費されて今いなかったと思うんですよね。

ヤバTの場合は結成からの10年間テレビ出演を我慢してからテレビ出演したことで、バンドの寿命を伸ばせたのではないかと思っています」

自己肯定感の高さがブレない軸に繋がっている

ヤバイTシャツ屋さんの魅力といえば、多くの人の共感を得ながらもクスッと笑えるような表現をしているところだろう。ヤバTらしさを確立するために、意識していることは何なのか。 

「ファンから見て『やってそうだな』『やりそうだな』と思われるようなことは、あえてやらないかもしれないですね。お笑い芸人さんとの対バンはしたことないですし、仲が良い岡崎体育とも1回しかツーマンしたことないんですよ。『こういう曲ヤバTにありそう』って言われそうな曲も1回も作ったことないですし。常にみんなの想像の斜め上を狙っていきたいんですよね。

だからこそ、岡崎体育やキュウソネコカミ、打首獄門同好会、四星球あたりのちょっと変わったことをするアーティストとはアイデアの取り合いになります(笑)。昔、ロッキン(ROCK IN JAPAN FESTIVAL)で僕たちの裏がRADWIMPSのときがあったんですよ。

そのときに『RADの裏はきつい』という曲を作って披露しようと思っていたら、僕たちより1週間先に出演した岡崎体育が『B'zの裏はキツい』という曲を歌っていて。うわ、先にやられてもうてるやん! と、僕らは披露することなく終わりました(笑)」

映像でも楽曲でも、作品は世間に出してから初めて評価されるものだ。自分では良いと思っていても世間からの反応がイマイチだったり、逆になんとなく出したものがバズったりすることも珍しくない。作品作りをしていると軸が「世間でウケるもの」になることもありそうだが、こやまさんは自分の感性を信じ、制作を続けている。

「最近気づいたんですけど、僕は本当に自己肯定感が高いんですよ。例え怒られたとしても『まあ、これは俺の良いところやしな〜』と、ポジティブに考えてしまうんですよね。流行っているモノよりも、自分の考えていることの方が面白いと思ってしまうんです。その気持ちがあるから、軸がブレないのかな」

ヤバイTシャツ屋さんがバンドとして爆発的に伸びたのは、楽曲のテイストやプロモーションの仕方が当時の時代とマッチしたという側面も少なからずあるだろう。トレンドや世間の状況が大きく変わった2023年、もしこやまさんが今からバンドを始めるとしたら、一体どのようにプロモーションをしていくのだろうか。

「今はTikTokがきっかけで音楽が流行ることが多いですよね。Twitterは学生の頃からずっと使っていて好きだったから上手く使いこなせましたけど、正直TikTokはそんなに得意ではないので……。

今から新しくバンドを始めるにしたら、SNSでの戦略よりもまず、ライブで会場を盛り上げて、地道にお客さんを増やしていくかもしれないです。現に今のヤバイTシャツ屋さんも、ライブに来てくれたお客さんの口コミで広めることに注力していていて。実際にライブをやるたびに新しいお客さんが増えているのを感じますし、サブスクの再生回数も伸びていますね」

音の細部まで聴くことでバンドの成長を感じられる

何よりもリスナーに音楽を楽しんでもらうことを重視している、こやまさん。そんなこやまさん曰く、ピヤホンシリーズを使用した音楽鑑賞のメリットは「バンドの成長を感じられる」ことだと言う。

「音楽の楽しみ方は色々ありますよね。音質の悪いスピーカーから流れてくる音が、気持ちよかったりエモく感じたりすることもありますし。その中で、ピヤホンを使って良い音で聴くというのもひとつの楽しみ方ですよね。

ピヤホンだと音の細部まで聴き取れるので、『意外とギターの音めっちゃ良いやん』とか『1stフルアルバムより5thフルアルバムの方がドラム上手くなってるな』とかわかると思うんですよ。音源を聴きながら、バンドの成長も感じ取ってもらえるとより楽しいと思います」 


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ピエール中野 凛として時雨
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