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自分がファンとして聴きたいと思う最強ソングを作りたい。数多の楽曲提供をしてきたANCHORの制作プロセス
作編曲家やサウンドクリエイターユニットZiNGのメンバーとして活動する、ANCHORさん。大森靖子やZOCの編曲を担当したり、役者育成ゲーム『A3!』へ楽曲提供したりと、さまざまな作品のサウンドに携わってきた。
10代の頃から音楽活動を続けてきた彼は、どのような思考で楽曲を制作してきたのだろうか。楽曲制作のプロセスやメジャーデビューを経て起こった変化、活動を続けるためのモチベーションなどを伺った。
<文:伊藤美咲 / 編集:小沢あや(ピース株式会社)>
<ANCHORさんプロフィール>
1992年生まれ、静岡県出身。10代の頃から楽曲制作を始め、2016年よりANCHORとして活動開始。2017年にサウンドクリエイターユニットZiNGを結成。2022年に「キズナ feat. りりあ。」でメジャーデビュー。
学生時代から音楽に没頭し、そのまま音楽家の道へ
ANCHORさんが音楽へ興味を抱いたのは、学生時代に見ていたニコニコ動画がきっかけだった。初音ミクが歌う姿や活動者たちの演奏動画を見ることで、音楽への関心が高まったという。
「中学3年生の頃、ニコニコ動画を見ているうちに、DTMを使えば楽曲制作がひとりでも可能なことを知ったんです。でもすぐに楽曲制作を始めたわけではなく、『そうなんだ〜、できるんだ〜』くらいにしか思っていなくて。
その後、高校生になりギターを始めたんですが、音楽の授業で褒められたんですよね。それが成功体験となって『バンドを組みたい』と真剣に考えるようになって。でも、高校がバンド禁止だったので、仕方なくひとりで楽曲を作るようになったんです」
楽曲制作を始めたことで、どんどん音楽に夢中になったANCHORさん。彼の創作活動のモチベーションは何だったのか。
「前日までできなかったことが、急にできるようになるのが楽しかったんですよね。それまで『CDで聴いたりテレビで流れたりするもの』と認識していた音楽を、自分の手で作れたことが嬉しくて、どんどんのめり込むようになりました。
『もっとCDの音源に近づけるにはどうしたら良いんだろう?』と考えたり『これってバイオリンが入ってるのかな?』と聴いたりしながら、音楽に没頭していきました。誰に教わるわけでもなく、自分で調べて実行していくのが楽しかったんですよね。小学生の頃から、根っからのオタク気質なので」
その後、学生時代に応募したコンテストでの入賞をきっかけに、ANCHORさんの音楽家としてのキャリアが本格的にスタートした。個人制作も続けつつ、制作会社でのプロデューサー業やサイバーエージェントでのゲーム音楽制作も経験した。
目の前の相手の言葉からイメージを膨らませて歌詞を書く
ANCHORさんは「楽曲は作品とアーティストを繋げるもの」だと語ってくれた。そのために「アーティストがどんな音楽を届けたいか」を考えると同時に、「ファンがどんな音楽を聴きたいか」をイメージする。
「楽曲制作をするときは、提供するアーティストや作品のことを深掘りしてファンになるところから始めます。自分がファンとして聴きたいと思う最強ソングを作りたいと思っているので、聴いた人がニヤッとしてしまうような要素を入れるようにしてます。
例えば、『地縛少年花子くん』の主題歌として書き下ろした『No.7』は学園の七不思議をテーマにしているので、歌詞に『一喜一憂』や『瓜二つ』といった7までの数字を入れているんですよ」
アーティストや作品への理解を深めるためには、どんな部分に着目しているのだろうか。
「本人の口癖や言い回しに注目しますね。言葉には、その人の人生の本質が詰まっていると思うんです。『この人はなぜ一人称が俺なんだろう?』と考えたり『この表現は独特だな』とメモしたりしながらイメージを膨らませています。セリフをそのまま歌詞に入れることもありますね」
ANCHORさんが「言葉」に注目するのは、これまで聴いていたアーティストたちの影響もあった。
「僕の母親が、いつも車の中で松任谷由美さんや井上陽水さんの曲を流してたんですよね。お二人は歌詞に口語を混ぜたり背景描写が連想しやすい言葉選びをしたりしているので、正しい言葉遣いよりも想いを伝えることを意識しているんだろうなと感じていて。それに加えて覚えやすいメロディがあるので、素晴らしい楽曲になっているのだろうなと思っています」
メロディを増やして密度を上げる楽曲制作
次に、ANCHORさんの音作りについて深掘りしていく。多くのリスナーの心を掴むメロディは一体どのようにして生まれているのだろうか。
「作曲するときには、まずピアノとドラムとメロディだけで作ります。僕は編曲が得意分野なので、編曲をする前の時点で良い曲だと思えたら、その上にどんな音が乗っても美しいんですよ」
音楽のサブスクサービス普及により手軽に音楽が聴けるようになった今、リスナーの再生環境に合わせてスマホでサウンドチェックをする音楽家は多い。ANCHORさんもそのうちの一人だ。
「昔、『世界で1番使われているイヤホンはiPhoneに付属しているものだ』と書かれている記事を読んだんです。そのとき『これに合わせて音を作れば多くの人に喜んでもらえる』と思い、リスナーと同じ再生環境で音をチェックするようになりました。今はモニターヘッドホンを使いながら作曲した後に、iPhoneやAirPodsやピヤホンシリーズでも聴くようにしています」
リスナーの再生環境を意識しながら音の調整をする際、ANCHORさんが特に意識しているのは歌詞の聴こえ方だ。
「スマホで聴いても歌詞がしっかり伝わることは意識しています。僕はふと聴こえた歌詞にグッときて聴き入ることがあるので、何を歌っているかわからない状況を避けたいんですよね。歌詞がわかれば曲の検索もしやすいですし」
リスナーに寄り添いながら楽曲を制作しているANCHORさんだが、全てを流行りに合わせているわけではない。楽曲制作における揺るがない部分やこだわりも、もちろんある。
「今の時代『ギターソロは飛ばされる』と言われていますが、やっぱりアーティストとして楽器のソロは外したくない部分なんですよね。だから僕はどんな楽曲でも楽器のソロパートを入れるようにしています。
時代に合わせて曲を短くしている傾向はありますが、その分密度を上げたいと思っていて。
1曲の中でたくさん楽しめるように、変な構成の曲が増えましたね。僕の曲はセクションがFくらいまでありますし、1Aと2Aのメロディも変えています。『またあれ食べたいな』と思われる、硬め濃いめ多めの家系ラーメンみたいな曲でありたいと思っています」
メジャーデビューを経て、歌詞に人間味が出るように
ANCHORさんのキャリアを語る上では、メジャーデビューも外せない。そもそも作編曲をメインとするアーティストがメジャーデビューをすること自体が珍しいが、彼は顔出しを解禁したという変化もあった。
「それまで隠していた顔を出したことで、活動の幅が広がりましたね。顔や表情を隠してしまうと無機質な印象になってしまいがちだったんですが、顔を出すことでひとりの人間として周りの人やリスナーと接することができるようになった気がします」
また、顔出しをしたことで制作する楽曲にも変化が起こったそう。
「メジャーデビュー後は音楽を通じて自分のことを見ていただける意識が強まったので、楽曲にも人間味が出るようになりましたね。それまでは前向きな歌詞が多かったんですけど、今は影の部分を出すような表現も増えました。
『青春の後日談』という楽曲で『ねえ 教えてくれよ 人生のプロデューサー様』と歌ってるんですけど、タイトルが後ろ向きですし、プロデューサーは僕なんですよね(笑)。自分を皮肉するような言葉やネガティブな気持ちも表現できるようになりました」
継続のモチベーションは自分の好きな曲を作ること
10年以上ずっと音楽活動を続けてきたANCHORさん。前述したとおり、最初は音楽が作れることや理解が深まることに楽しさを感じていたようだが、現在の彼は何が原動力になっているのだろうか。
「音楽活動を継続する上で大切なのは、自分が考えた最強の音楽を作り続けることだと思います。僕は自分が聴きたい楽曲を作れているので、車の運転中も散歩中もずっと自分の曲を聴いています。そのくらい自分の音楽が好きなんですよね。
あとはベタな話ですが、リスナーからの反応もモチベーションになっています。例えば『A3!』のクレジットが公開されたときに『楽曲担当がANCHORなら良い曲確定じゃん!』とか『この曲良いと思ったらANCHORさんだ』といった声が聞こえてきて。
否定に比べて賛成の声って自然発生しにくいんですよ。外に出て「ちょうど良い気温だな」と思ってもわざわざ口に出して言わないのと同じ感覚です。なので、その壁を超えて賛成の声を届けてもらえることがとても嬉しいですね」
音楽の道を目指す人や若手のクリエイターに向けて、活動を継続するためのアドバイスももらった。
「よく『失敗しても悄気(めげ)ない』と言われますが、僕は悄気ることも大事だと思います。悔しい気持ちを無理にバネにする必要はなくて、嫌な気持ちさえも音楽にしたらいいんですよ。ずっと良い子でいようとするとしんどくなってしまいますし、音楽家なら自分の感情を隠さずに表現できることが大切だと思います。
僕も10年前に作った曲を聴くと技術が未熟で恥ずかしくなりますが、そのときにしか作れなかった特別な表現があるんですよね。なので、そのときの感情を大切にしながら自分が好きと思える曲を作ることが継続の秘訣かなと思います」
音楽をもっと楽しむには、好きな楽器に注目を
ピエール中野らとともにZiNGとしても活動しているANCHORさんは、ピヤホンの使用感を初期からチェックしている。絶えず進化し続けるピヤホンは、今やANCHORさんも日常的に愛用しているアイテムだ。
「僕とピヤホンの歴史は長いですよ。2019年に大森靖子さんの『JUSTadICE』という楽曲のMVにピエールさんと出演したときに、彼がすごく嬉しそうな顔をしながら『新しくイヤホンを作ってるから使ってみてよ』と言ってきて。そのときのプロトタイプのピヤホンから試させてもらっていますが、今のモデルは当時よりどんどん音が良くなっていますよね。
ピエールさんは、リスナーが聴きたい音を分かっているんだと思います。なので、今こうしてピヤホンが市民権を得てどんどん口コミが広がっているのかなと。ピエールさんがリスナーとアーティストに寄り添っていることが音を通じて伝わってきます」
音楽の作り手としても聴き手としてもたくさんの楽曲を聴いてきたANCHORさん。最後に、音楽をもっと楽しむためのメソッドを教えてくれた。
「自分の好きな楽器に注目して聴いてみると面白いですよ。『いいな』と思う音楽の共通点を深掘りしてみると、『ピアノがおしゃれ』『ベースラインが良い』など、好きな楽器が見えてくると思います。ピヤホンはいろんな音がよく聴こえるので、自分の好きな楽器に注目してみるとより楽曲を深く楽しめると思います」
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