三題噺⑫
練習をしてみる。多分やり方間違ってるよって話もある。つづけることが多分大事なので,やってみる。
※ ライトレというアプリを使ってお題を決めています。
お題:ルール 不完全 もふもふ
僕の家には3つのルールがあった。
1つ目は日曜日の夜は必ず家族みんなでそろってご飯を食べること。
2つ目は必ず1日に3回挨拶をすること。
3つ目は夜寝る時には必ずぬいぐるみを抱いて眠ること。
ルールとは言うものの,日曜日に塾がある時はそろって食べなくても怒られなかったし,挨拶は「いただきます」も,朝起きて誰に言うでもない独り言も挨拶に含めてよかった。
3つ目は眠りにつくまでぬいぐるみを抱いていればよく,寝相の悪い僕は大抵,朝にはベッドの外に転がしていた。
しかしそんな簡単なルールも,反抗期になると守るのが嫌になってくるもので,中学に入りバスケを始め,男臭いノリに染まり始めたある日,僕は3つ目のルールを破りたくなった。
それまでずっと,小学生の頃からふわふわのパンダのぬいぐるみのP太郎を枕元に置いていた。しかしふとこんなに可愛らしいものを持っているのが急に嫌になったのだ。
思い立ったからと言ってすぐ捨てるのも忍びないので,その晩はP太郎を机の上に置いて寝た。
部活で疲れていたのもあって,1分もたたないうちに寝たが,真夜中にぱっちりと目が覚めた。時計を見れば2時。僕は直感的にやらかしたと思った。
部屋の半開きのカーテンから差し込む外の街灯の光に,真っ黒な人型の影が浮かび上がっている。不思議なことに手足の輪郭も,勿論顔も分からない。ただ夕方地面に伸びる影のような人型が僕のベット脇の足元に立っている。
「ふわふわがないな」「ふわふわがない」
黒い影はぼそぼそとそう喋っている。どうしよう,机のP太郎を取って抱けば見逃してもらえるのか。しかし,起きていることがばれれば何をされるか。
人型はゆっくりと足元から頭の方に移動する。その過程で僕の体を撫でまわすようにさすっていく。その感触はふわふわとしているような,人間の肌のような感じがしたが,ひどく冷たかった。
人型は僕の体を触るにつれ,やや不完全な人型からどんどん明確な人間の形を取り始める。
僕は死ぬのか。そう覚悟したときだ。
人型の撫でまわす手のような影が,僕の頭に触れた。人型の動きが止まる。
止まったかとおもったら,それは僕の頭を3度ほど撫でまわす,
「ふわふわだ」と呟いて,すっと消えた。
丁度その時僕は,バスケ部には珍しい坊主頭にしていたのだった。
翌朝,僕は食卓で顔を合わせた父親に正直に昨晩の事を話した。
父親は笑って「命拾いしたな」と言ったが,あの人型の正体について教えてくれる気配はなかった。
もしかすると,父親がつるっぱげの理由なのかもしれないと思うと,恐ろしくて聞けないのであった。