三題噺⑦

公認心理師試験がようやく終わった(とはいえ控える臨床心理士試験 泣)ので,無価値で無意味な楽しい創作をば!!

余力が風呂に入る体力分残るまでやる。


練習をしてみる。多分やり方間違ってるよって話もある。つづけることが多分大事なので,やってみる。

※ ライトレというアプリを使ってお題を決めています。

お題:聖杯 落語 カレー

「ズルル…あー美味かった。もう一杯といきたいところなんだが,あっちで一杯食ってきちまってね。口直しだよ,勘弁してくれや」

と落語家は慣れた調子で言った。

落語家は今年の学園祭に呼ばれた特別ゲストだった。ド田舎の公立大学で予算もなく,今をトキめくイケメン俳優やアイドルは呼べない。しかしゲストは呼ばないといけないという謎の学園祭委員の頑張りで,晴れて呼ばれたゲストだ。落語界では大御所らしい。

だったらテキトーに芸人でも呼んでおけばいいのにという諦めじみた声が多く上がったが,来てみればさすが大御所。落語なんて初めて聞いた奴が大半だってのに,なかなか盛り上げている。

2つほどやった後で,落語家は参加型の落語をやってみようと言い出した。

それに手を挙げたのが,今落語家の隣で座っているユーヤだ。

ユーヤは今年から細々と始まったミスターコンに推薦で出場することになったそこそこのイケメンで,ノリのいい,俺の幼馴染だ。

まさか大学まで一緒になるなんて思ってなかった。ユーヤは何をやらせてもできる奴で,俺はずっと横で劣等感を感じていた。しかしユーヤは爽やかで嫌みのない奴だから,憎むに憎めない。大学に入ればユーヤとも別々になって,新しい自分で生きられるのではないかと思っていたが…

ユーヤは落語家に「そしたらこんなのいかがです」とけしかけた。

落語家は最初にレクチャーしたあらすじとしょっぱなから違う事に一瞬ひるんだような顔をしてみせたが,どうやら慣れっこらしい。にんまりとして「ほぉなんだい」と応えた。

「えぇこいつがね,カレーと言いまして。ピリリと辛いんで,腹がいっぱいだって食えるんです。金はとりませんから試しに」

そう言うとユーヤはスッと小さな金色の聖杯を取り出して落語家に渡した。

落語家はおや,という顔をして「はぁ変わったもん出しやがる」と言い,「かれぇかれぇ」と言いながら食う真似をした。

なんで聖杯?と皆が思っただろうが,ユーヤの振る舞いがあまりに滑らかなので皆続きに期待した。

ユーヤは当たり前のように,そば屋の口調のまま「かれぇかれぇと言えば,彼ですよ。彼。今夜は日和もいいし彼も呼ぼう」と言って,俺の名前を大声で呼んでみせた。

初めからユーヤに最前列まで連れられていた俺は,逃げるにも逃げられず,無視するのも怖かったのでしぶしぶステージへ上がった。

落語家はもうやたらニヤニヤして「ほうこいつも食わしてくれんのかい」なんて言う。

ユーヤもニヤニヤしながら「私はそば屋ですがね。そばはそばでもコイツのそばにいる方がずっと長いってね。そり彼のもうブチブチ切れちまうそばなんかよりうんと長い。だからねぇこいつがそばに乗せるナルトみてぇに頬染めて,ある女の子を見てんのを俺はよぉく知ってるんです」

と言い出した。いったい何のつもりだ。

ユーヤは「マイコちゃーん!!」と客席に向かって叫んだ。マイコちゃんは,俺が最近気になっていた,いや,もう片思いしていた子だった。

マイコちゃんは俺がいたところから5mもない場所にいた。

驚いた顔をしてこちらを見ている。ユーヤはステージから降りてマイコちゃんをステージの上に上がらせた。

「そばはそばでもあなたの傍にってね。彼のカレーなる告白にこうご期待」というとユーヤはそのまま俺にマイクをわたし,耳元で「全部整えてっから」と言った。

俺はもうどうにでもなれと思い「マイコちゃん!好きです!付き合ってください!」と叫んだ。少し間があって,マイコちゃんはうなずいた。

上がる歓声,鳴り響く拍手。このさびれた大学が未だかつてなく若い空気に満ちていた。

ユーヤが「整いました!」と締めると完成は笑い声に変わり,ユーヤはさっきの聖杯を俺に渡すと「今年のミス・ミスターはこの2人ですね」などと言った。

落語家は「一杯食わされたな」と言い,ひと笑いさらって帰っていった。

その後,ほとんど惰性的に行われたミス・ミスターコンでユーヤはお得意のトークで人気をかっさらい,見事ミスターに輝いた。そして勝手に聖杯を俺に渡したことを詫びて,いつの間に用意したのか花束をミスになった子に渡し「俺と付き合ってくれませんか」なんて言ってまた大歓声を浴びていた。

俺はマイコちゃんと並んでそれを見ながら「食えねぇやつだな」なんて思った。



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