夏の始め方

私は四季の中で夏が一番好きだ。

1晩で昼夜逆転させられるくらい根っからの夜型人間。だから夜が過ごしやすい夏が一番好きなのである。

5月あたりの日差しに凶暴性を感じだす頃から,私は「もうすぐ夏が来る!」と何歳になってもワクワクしてしまう。

しかし6月の雨続きや,7月のばたつきを乗り越えているうち,いつも気が付けば8月の半ばになっている。

いつも誰よりも夏を楽しみにしているのに,夏を始めるのが誰よりも遅い。

でも6月や7月をイージーに過ごすことも難しい。今まで忙しくなかったことなんてない。

だから夏だけはいつもの根暗な自分を捨てて,流れゆく日々をサーフィンするみたいに過ごす事に3年前から決めている。

私の友人は計画性がない人が多い。正確に言うと,計画を決めてそれ通りに動くことに窮屈さを感じる人が多い。だから遊びの誘いは突然な事が多い。

そういうのには迷わず参加する!(ただし無理しないでいい友人に限る)

2年前の夏は,そういう誘いでよく海飲みをした。

海はいい。なんせ夜中は人がいない。風は心地よく,静かで,朝が来たことが分かりやすい。

海の朝は美しい。そして少し寒い。寒い時は,コンビニでカッパを買ってきて着ると良い。


私の彼氏はクソ真面目な割に大胆なところのある人間。

暑くて寝苦しい夜は,コンビニに「スイカを買いに行こう」と誘ってくれる。勿論行く,

夜中にスイカなんか売っているだろうかと思いながら100円ローソンに行くが,案の定ない。

「バナナしかないね…」としょんぼりする彼氏の手を引いて2件目のコンビニへ。3件目まで探して,あきらめてアイスを買って帰る。

彼氏がスイカバーを食べながら「チョコレートって18度くらいにならないとチョコの味がしないらしいから,この種のチョコはチョコじゃない,チョコ味の何かでもいいんだよ…」と言っているのを聞きながら食べるラムネアイスは甘い。


目を出して以来ぐんぐん伸びる庭のミョウガで,この夏3匹目になる蝉の羽化が始まった。それを眺めながら,自分の勉強を進めたり進めなかったりして,なぜか高校受験のため必死に勉強した夏を思い出す。

あの時塾で一緒だったユイチャンは元気にしているだろうか。

随分古い記憶だが,あの夏も私にとって輝く夏の1つだった。ユイチャンとお金ないね勉強いやだねと言いながら。ドリンクバーとフライドポテトで粘ったジョイフルの時間は私にとってはまだ宝物だよ。

ユイチャンは忘れてしまったかもしれないけど。


楽しい記憶が残りにくい私にとって,夏は夏と言うだけで楽しい記憶が次々出てくる夢のようなコンテンツだ。

ずっと夏でいいのにと思うがそんなことはない。

季節に頼っていないで,私も人生の夏を早く始めないといけないのだろう。

今までのぬるい生き方を壊して。

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