【開催報告】#ピルコンルーム no.41「きちんと知りたい #エイズ の今」
ピルコンのnoteを開いていただき、ありがとうございます!ピルコン学生インターンのゆいです。
このnoteでは、ピルコンが主催するユース世代向けオンラインイベント「#ピルコンルーム」のレポートをお届けします😊ぜひ最後まで読んでいただけると嬉しいです!
💡オンラインイベント「#ピルコンルーム」って?
NPO法人ピルコンが主催するオンラインイベント「#ピルコンルーム」。大学生や若手社会人などのユース世代を対象に、身近な性をテーマに安心して語り合いたい方向けに定期開催しているイベントです。
ピルコンでは、11月19日(火)19時半より、 #ピルコンルーム no.41「きちんと知りたい#エイズの今」を開催しました!
ゲストにはコミュニティセンターakta代表の岩橋恒太さんをお招きしました。aktaは新宿2丁目にあるHIV予防啓発や陽性者支援を行うコミュニティセンターで、HIV/AIDS(エイズ)をはじめとするセクシュアルヘルスの情報を発信し、オープンスペースも設けられています。
ゲストトークでは、HIV/AIDSの今をテーマにお話しいただきました。1990年代半ばまではHIV/AIDSでたくさんの方が亡くなり、かつては怖い病気・死の病気などのイメージがありましたが、状況はこの数年間で大きく変わってきています。その最新情報をお話しいただき、エイズで亡くなった人たちやその周りの人たちに思いを馳せる12月1日の世界エイズデーに向けて、知識をアップデートしました!
TALK1 コミュニティセンターaktaとは?
まずは、岩橋さんからaktaの活動についてご紹介いただきました。
コミュニティセンターaktaは、アジア最大級のLGBTQ+エリアとして知られる新宿二丁目を拠点に、主に男性と性行為をする男性(MSM)に向けた性の健康の啓発活動を行っています。
※MSM・・・ ”Men who have Sex with Men”の略称で、男性とセックスする男性を意味します。この言葉は、自らをゲイ、あるいはバイセクシュアル男性だと自認していない人にも、性の健康に関する情報やサービスが行き渡るように、セクシュアリティではなく行為に着目されています。
中でも、HIV/AIDSの問題は重大で、日本に残された課題を解決するために
AIDS関連の差別・偏見ゼロ:コミュニティと社会全体のスティグマをなくす
AIDS発症者をゼロ:HIV検査の実施体制と選択肢の強化
HIV新規感染者をゼロ:HIV感染予防に対する啓発の推進とPrEP・選択肢の拡充
という3つのゼロを目標に活動しています。
また、aktaの施設は、下のようにいろいろな形で利用できます。
フリースペース 展覧会/イベント/学習会/見学会、待ち合わせ
情報提供 HIV/AIDSの検査や予防、医療やサポートの情報、性感染症(性病)やセクシュアルヘルスの情報、店やイベント/街のMAP、セクシュアリティの情報
相談対応
他にも、デリバリーボーイズという、新宿二丁目のBARやクラブにコンドームを配達するプロジェクトも行っています。そして、コミュニティでどのような情報が求められているのかを、専門機関に伝えたり、反対に専門機関からの情報をコミュニティに共有したりしています。
このように、aktaはLGBTQ+コミュニティとHIV関連機関、行政・研究機関の架け橋となることで、コミュニティ連携と性の健康増進の啓発のハブとして機能しているそうです。
TALK2 HIVの流行状況
💡HIVとAIDSの違い
HIVは、HIVに感染している人の体液(母乳、腟分泌液、精液、血液)が自分の粘膜や傷口に直接触れることによって感染する可能性があります。感染後、全く治療しないとウイルス量が増加し、免疫力は低下します。一定の免疫があれば発症しないような病気にかかってしまうほど免疫が下がっている状態をエイズ発症と言います。
早期に感染がわかれば、免疫が下がる前の状態を維持できる治療方法があります。しかし、一度免疫が低下すると回復させるのに時間がかかり、障害が残ったり、亡くなってしまったりします。そのため、HIVの早期検査・早期治療が重要だといわれています。
💡日本の流行状況
新規HIV感染者/新規エイズ患者報告数は、2013年をピークに減少しており、現在は両者を合計しても1000人未満です。
ただし、検査が遅れたために、感染がわかった時点でエイズを発症している患者の割合は30%と先進国のなかでも高く、その割合が長らく変わっていない点は大きな課題です。
💡感染経路
HIV/AIDSの感染経路別の報告では、HIV/AIDSを合わせて「同性間の性的接触」が約70%を占め、日本では特に「男性間の性的接触」が感染経路として多く見られます。
感染経路は、感染告知時に担当者が聴取し、受検者がその場で答えるため、実際の感染経路と異なる場合があります。というのも、初めて会った人に、自分のセクシュアリティについてなかなかオープンにできないため、「異性間の性的接触」や「不明」との回答の中でも実際の感染経路は「同性間の性的接触」だった場合があるのです。
国籍別では、同性間(男性)のHIV感染報告は、日本国籍を持つ人の場合、減少している一方で、外国国籍では増加し2023年に過去最多を記録しています。そして、厚生労働省が発表している数字では、トランスジェンダーの数は正確に把握されていません。このような外国国籍やトランスジェンダーなどの社会的マイノリティの置かれている状況は、HIVの問題においても、きちんと捉えなければならないという課題が残されています。
TALK3 アップデートしよう、HIVの最新情報
💡治療技術の進歩
HIVの治療は飛躍的な進歩を遂げ、適切な時期に治療を始めることで、以前よりも平均余命を延ばすことができるようになっています。日本では1997年から新たな治療方法が導入されて以降、徐々に治療薬の服用量が減り、現在では、経過良好の患者は2ヶ月に1回の注射のみ、世界では6ヶ月に一度の注射のみで治療も行えるようになっています。完治までには至りませんが、適切に治療を行えば、仕事や学業も問題なく続けられる人も多くなりました。治療費は、サポートがなければ1ヶ月に約20万円かかりますが、日本の場合、健康保険や障害者手帳の取得によって、平均すると月に5千円から1万円で治療を受けられます。また、通院頻度についても、経過が安定し3ヶ月に1回程度で通院するケースが多く、就労する方も年々多くなっている状況です。このように、治療の方法が改善されただけでなく、治療を受け続けるための金銭的な支援制度も充実しているそうです。
💡U=U
このように治療技術が進歩したことで、HIVが完治しなくても、抗ウイルス薬を服用すると、血液中でウイルスを検知できないほど抑制できるようになりました。このように検出できない程度までウイルスが減り、この状態が6カ月以上持続した場合、予防のない性交渉があったとしても、相手を感染させるほどのウイルス量がないため、感染は起きません。このことは、U=U(Undetectable = Untransmittable)と表され、「検出限界以下なら感染は起こらない」と科学的根拠をもって言えるようになりました。
ただし、日本での課題もあります。「検査」→「治療」→「検出限界以下へのウイルスの抑制」のそれぞれの段階で、90%ずつ達成すれば、エイズ流行の終息を期待できるといわれていますが、日本の場合は、検査する人が少ないことが問題になっています。
また、HIVの感染予防については、コンドームの使用やPrEPの服用といったバイオメディカルな予防方法の他に、構造的、行動学的な方法も考えられ、これらを組み合わせるコンビネーション予防が推奨されています。
構造的な面では、例えば、社会における差別・偏見などから、医療機関に対するカミングアウトに躊躇いを感じれば、安心して医療にアクセスすることができません。行動学的な面では、包括的性教育の充実などが求められます。このように、医療の面だけではなく、社会構造や行動学の面からも合わせて取り組まなければ、HIV/AIDSの問題は解決できないため、複数の分野から予防の選択肢を増やすことが重要なのです。
💡PrEP
そこで、予防のキーになるのは、PrEP(曝露前予防服薬)です。PrEPは、HIVに感染していない人が、事前に服薬しておくことで予防できるもので、米国の疾病予防管理センターが2014年、PrEP推奨ガイドラインを発表しました。初期はHIV感染リスクがある人が対象でしたが、現在、すべての性的にアクティブな青年・成人、注射薬物使用する人に推奨されています。日本では、2024年8月に薬事承認されました。
PrEPは、性別やセクシュアリティに関係なくHIV予防ができるもので、MSM(男性と性行為する男性)での研究では、99%の予防効果がありました。使用方法については、定期的な検査とともに、毎日、あるいは性交渉の前後に服用しますが、性別によって異なることに注意が必要です。
しかし、PrEPの使用を巡っては、いくつかの課題があります。その一つが、高額な点です。PrEPは検査とセットで服用する薬ですが、病院で検査・処方をしてもらうと、多くは1ヶ月目は約13,000円、2ヶ月目からは約8,000円かかります。一方で、処方前の検査を受けずに、インターネットで自己輸入する人も少なくありません。2022年では、MSMのなかでPrEPを使用している人は10%ほどですが、検査が不定期だったり、検査を受けられる場所がわからず、受けたことがなかったりする人が半数近くいるそうです。
これらの課題を解決するために、aktaを始めとする多くの団体によって、さまざまな取り組みが行われています。
まずは、これから5年間のエイズ対策をまとめる「エイズ予防指針」へのアドボカシー活動において、PrEP利用者の調査・課題解明を働きかけています。
さらに、収入に関わらずPrEPを利用できる環境づくりのために、ぷれいす東京、akta、カラフル@はーと、ピルコン、#なんでないのプロジェクトの5団体を中心に「HIV予防薬を日本でも当たり前の選択肢に‼︎」という署名活動を実施して、厚生労働省や製薬メーカーに対して、安心・安全にPrEPへアクセスできる環境を求めています。
岩橋さんは、PrEPが、性別やセクシュアリティに関係なく、誰もが安心・安全に使えるように、横の広がりをぜひ皆さんと一緒につくっていけたらと、おっしゃっていました✨
Q&Aタイム
当日は、事前に参加者から頂いた質問を取り上げた後、お時間の許す限り、リアルタイムでZOOMのチャットに寄せられた質問も取り上げました!ここでは、質問と回答の一部を共有します✨
Q.HIVに感染した場合にどのような生活を送ることになるのか。また死亡率はどの程度高まるのか。
A.治療はすごく良くなっているので、感染がわかった最初はとても不安な気持ちを持つことが多いと思うんですけれども、状態が落ち着いてくると大体3ヶ月に一度の頻度で病院に通う方たちが多いです。昔のイメージのように、体の状態が悪くなって治療しても良くならずに亡くなってしまうという事は、今は考えなくていい時代になっています。
ただ、HIV陽性の人たちは老化が少し早いんですね。人によっては、感染してない人よりも10年ほど老化が早いと言われているので、癌や生活習慣病の影響を受けて体を悪くしてしまう人がいます。
それから、差別や偏見に関連するところで、HIVはただ病気を持っているというだけでなく、なかなか周囲から理解してもらいにくい病気でもあるので、社会的なプレッシャーを感じている人たちもたくさんいます。そうすると、メンタルヘルスの問題によって、HIVに関連した病気では亡くならないけれども、残念ながら自殺をしてしまう人たちもいらっしゃいます。
エイズそのもので亡くなる時代ではなくなりましたが、生活習慣病や癌などの問題や、あるいはメンタルヘルスの問題の方が、今はどちらかというとフォーカスされるようになってきたという状況です。
Q.HIV/AIDSに関して学生に伝えたいこと(知っておいてほしいこと)は?学生に教える際に工夫できることは?
A.学生と話をしてて思うのは、そもそもHIVのことをあんまり知らなかったり、社会の中で関心を持たれていなかったりするなと思っています。まずはどんな病気なのか、予防方法とか、治療が良くなっていることを知ってもらって、HIVってあんまり聞かなくなったけどこんな状況なんだよ、と身近な人と一緒に話してもらえるとすごくいいなと思っています。
日本でHIV陽性がわかっている人たちは、年間に1,000人位です。今までに日本全国で陽性がわかった人はこの40年間の累積で35,000人ぐらいなんですね。数としてはそんなに多くはないかもしれないけれども、身近なカミングアウトを受けて、私自身がかつて意外な多さにびっくりしたという経験もあります。実はHIV陽性の人たちとすでに一緒に生きてるかもしれない。そういったところも少し考えてもらえるといいなと思っています。
Q. PrEPはアメリカで使用が始まったのが2014年、日本で承認されたのが今年ですが、日本でPrEPが承認されるまで時間がかかった背景はなんですか?
A. PrEPの承認に向けて日本で動き出したのは2015年からなので、9年かかっています。その間に2020年から新型コロナウイルス感染症の流行があったので、新たな薬事承認の話が全面的にストップしてしまった2、3年間があるんですけども、それにしたってすごく時間が経ってしまったと思います。この背景には2つあると思っていて、1つはそもそも日本の医療政策の中で予防に関して国が薬事承認をする、あるいは政策の中に載せるのがすごく時間がかかり、ものによっては承認の議論自体が全然進まないということが大きなところかなと思います。
もう一つは、もしかしたら低用量ピルなどの性の健康に関連する所とも近いものがあると思うのですが、性に関わるところはなかなか国民のコンセンサスが取れないとメディアや政府からも言われます。例えば、PrEPはHIV感染の予防方法ですが、「コンドームをつければ済む話だし、そもそも性交渉しなければいいじゃないか」「そんなリスクのあることをするのか」と言われてしまいます。ただ、問題は、まず予防薬に十分な費用対効果があることが一つ。もう一つは、相手に依存せずに予防できることです。例えば自分が受け手の立場だったとしたら、相手にコンドームをつけてとお願いするんじゃなくて、しっかり自分で薬を飲んでおくことで、主体的に予防を行うことができます。しかし、なかなかコンセンサスが得られず話が進まない、と言われてしまったところが、承認に時間がかかってしまった背景だったかなと思います。
沢山の質問・コメントを届けてくださった皆さま、本当にありがとうございました🙌
ディスカッション
ゲストトーク・Q&Aの後は、参加者やピルコンフェローでディスカッションを行いました。各グループで簡単に自己紹介をした後、「ゲストトークを聞いて、印象に残ったこと」「もし友達から『HIVに感染したかもしれない』と相談されたら」というテーマで、20分ほど話し合いました。
参加された方には医療従事者の方が多く、活発な意見交換が行われました🙌
ディスカッションのなかで、共有された意見・コメントの一部を紹介させていただきます。
#ピルコンルームの後は、任意で参加できる交流会「ほうかごピルコン」を開催しました。岩橋さんも参加してくださり、Q&Aやディスカッションで取り上げきれなかった部分についてさらに交流することができました。また是非集まりましょう〜
ご参加いただいた皆さま、本当にありがとうございました!
参加者の声
みなさまから寄せられた感想を一部抜粋してご紹介します!
アンケートにご協力頂いたみなさま、本当にありがとうございました。またお会いできることを心より楽しみにしております。
最後まで読んでいただきありがとうございました!ピルコンルームでは、性について安心して語り合いたい、一緒に考える仲間がほしいユース世代のご参加をお待ちしております(ちなみに、ピルコンのイベント告知はinstagram等各種SNSやPeatixで通知を受け取ることができますよ👀リンクは本記事の最後に記載しています)。
ぜひ、次回のイベントでお会いしましょう!
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それでは次回もお楽しみに〜
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この記事を書いた人⇒ゆい
青山学院大学総合文化政策学部3年。ピルコンのイベントチームの学生インターンとして活動しています。趣味はクィア映画を見ること👭🏻