米国向けプロダクトの開発体制構築 Part 1 - 開発拠点決め
スタートアップが米国展開する際、まずどのような体制でプロダクト開発を進めるかを決める必要があります。開発コストやスピード、プロダクトのクオリティに大きく影響する、最初にして最も重要なところとなります。
本記事では、日本で開発する場合と米国で開発する場合のそれぞれのメリット・デメリット、さらに米国に開発拠点を置くことになった場合のオフィスの設立場所に対する考え方について書いてみようと思います。
日米のどちらで開発すべきか
まず、開発体制の選択肢として、米国で開発する、日本で開発する、日米のハイブリッドで開発するの3つが基本線として考えられます。
米国で開発する
米国で開発する場合、現地の文化や生活習慣を自ら体験しているメンバーで開発できることがメリットとなります。ユーザの生活習慣に密に関わるプロダクトであるほど、プロダクトメンバーが現地にいてその文化に浸っていることは、米国で通用するプロダクトを開発する上で重要となります。また、現地にセールスメンバーがいる場合は、どのような顧客にプロダクトを売っているのかを間近で見て理解できることもメリットとなります。
デメリットとしては、何といっても人件費の高さが挙げられます。日本と米国では2倍以上、場所によっては3倍以上の物価差があり、日本で採用するよりも人件費が圧倒的に高くなります。特にお金が潤沢にないスタートアップにとって、これは非常に高いハードルとなります。
日本で開発する
日本で開発するメリットとして、日本のメンバーとのコミュニケーションの取りやすさがあります。スタートアップの米国展開では、日本ですでにローンチされているプロダクトを米国に持ち込む場合が多く、日本の他のメンバーと密に連携しながら働くことになります。その際、彼らと同じタイムゾーンにいることでコミュニケーションが取りやすくなります。また、米国で採用する場合と比べて人件費を抑えられますし、米国拠点の設立や維持のコストもかかりません。
デメリットとしては、英語を話せるエンジニアが日本に少ないことが挙げられます。いたとしても、そのような人材の多くはGoogle、Amazonなどのグローバル企業に属していて給与相場が高く、スタートアップの給与レンジと一致しないという場合が多いです。また、現地の文化を生で体験しないままプロダクト開発をおこなうと、米国で通用しないプロダクトが完成するリスクが高まります。
言語や単位など、基本的なローカライズをするだけで十分通用する可能性のあるプロダクトの場合は、この開発体制は有力な選択肢となるでしょう。
日米のハイブリッドで開発する
日米にまたがる開発体制にすることで、日本で開発する場合・米国で開発する場合のそれぞれのいいとこ取りをすることができます。一部のメンバーが米国にいて現地の事情を理解しつつ、他のメンバーは日本にいることで日本のメンバーと円滑に連携することができます。
この開発体制の大きなデメリットとして時差があります。Slackなど、非同期コミュニケーションを取れる環境は整ってきているとはいえ、メンバーが複数拠点に分散していると、同一拠点で開発するよりもどうしてもコミュニケーションコストは大きくなり、開発スピードが低下することは避けられません。ここは組織の理解が必要な部分となります。
--
これらのどの体制にするかを決める際に重要なポイントとして、プロダクトの性質と米国へのコミットメント具合があります。
まず、プロダクトの性質に関しては、ローカライズの必要性が高いプロダクトであるほど米国拠点での開発の重要性は大きいです。ローカライズの必要性の高さに対する考え方は以下にまとめているので参照してください。
また、米国へのコミットメント具合に関しては、会社として覚悟を決めて大きくコミットするのであれば米国拠点で開発体制を構築するのがよいと思いますし、米国を日本に次ぐ +α の収益チャネルとして考えている程度であれば日本で開発するのが低コストだと思います。
米国オフィスはどこに設立すべきか
次は、上記の検討の結果として米国に開発拠点を作ることになった場合に出てくる論点である、オフィスの設立場所についてです。自分が重要だと思うポイントとして時差、人件費、顧客の3つがあります。
時差
米国にはタイムゾーンが4つあり、どこのタイムゾーンに属するかで日本とのコミュニケーションの難易度が変わってきます。最もコミュニケーションが取りやすいのは日本と近い西海岸であり、日本の朝が米国の夕方なので業務時間が一部被り、ミーティングがしやすいです。逆に最もコミュニケーションが難しいのは東海岸であり、日本とほぼ正反対なので、日本のメンバーか米国のメンバーのどちらかのワークライフバランスが犠牲となります。
人件費
米国内でも場所によって給与レンジに大きな差があります。例えば、ベイエリア(シリコンバレー)やシアトルはテック企業が集結しており、全米の中でもトップを争うレベルの給与レンジの高さです。また、特に都市部では年々物価が高騰していることにも考慮が必要です。日本とは異なり、物価の変動に応じて毎年給与調整をおこなう企業が多いです。
顧客
ベイエリアにはテック企業が集結していたり、ニューヨークにはメディアや金融機関が集結していたり、中西部には製造業が集結していたりと、場所によって傾向が異なります。また、人種・民族などのデモグラフィックも地域によって大きな差があります。米国は広いため、自分たちのターゲットとする顧客がどこにいるのかを理解した上で拠点を決めることが重要です。
--
↓ Part 2 では、実際に開発体制を構築する際に遭遇するチャレンジである採用や就労ビザについて書いています。