ひと夏の冒険を見届けた話

はい、ご存知の通り、僕のヒーローアカデミアTHE MOVIE WORLD HEROE'S MISSIONを見てきました。

制作発表の日からはや9ヶ月(本当にあっという間だった)、文字通り心を踊らせて、文字通り指折り数えながら待ってきました。二十数年生きてきた人生でこんなに映画を待ち望んだ日々はなかった。

そしてついに来た公開日の感想としては............いやあね、素晴らしいの一言に尽きますよね。いや実際には尽きないからこのnoteを書くに至ったんだけど。

これは本当にものすごい映画を目撃してしまったということで、感動を文字に書き起こしてみようと思います。本作に対するまず第一の感想は、

・脚本がとにかく良い

良いっていうか私の好きポイントが盛り沢山に詰め込まれている。好きと好きが掛け算でプルスウルトラしている。

そもそも、言うまでもなく作画は100分間ずっとプルスウルトラしていたし、カメラワークがかっこよすぎる。流石の一言に尽きるんですけれども、今回はそれ以上に脚本がぶっ刺さったということで、脚本の話をメインにしていきたいと思います。一個人としての妄想を挟まず、純粋に、脚本の話をしていきます。

一人のヒロアカオタクとしての戯言です。

*多大なネタバレを含みますので鑑賞後の閲覧を推奨。


ヒロアカ初めましての方にもわかりやすい。

今作は完全に、ここが狙いどころだと感じました。初めましての方でもスッと入っていける内容になってる。これすごい。デク・轟・爆豪についてほとんど何も知らなくても、今作を見るに当たってはほぼ問題がないです。極端に言えば「ヒロアカの世界には“個性”という異能力があって、ヒーローという職業が台頭していて〜〜」とかそういう最低限だけ抑えておけば大丈夫。

その要因としては、

・OFAの秘密、AFOとの関係について省いている

・主要な登場人物を絞っている

以上の点が大きいと思います。

現在(2021年8月)でもターニングポイントとなっている、OFAとAFOの話。それらをほぼ100%省いていることで、原作を知らない方が混乱を起こしにくくなってますね。思い切ったなと感じました。

セリフの多いキャラをほぼ四人に絞っているのも、感情移入しやすくてよかったのではないかと思います。ファンとしてはもちろん、ヒーローズライジングでのクラス全員大活躍は無茶苦茶に熱くて大好きですが、あくまで今作は新規層へのアピールと配慮に長けた作品ですね。スッキリとまとまりがよくなっている印象を受けました。

そしてさらに、吉沢亮さんというブランディングにより、原作ファンではない層を呼び込みやすくなっているということ。公開前から吉沢亮さんを中心とした宣伝が多く、テレビ、雑誌、ネット記事等でWHMの文字を見る頻度が高かったように思います。4月に東京で原画展が開催されていた頃から、日テレ系列を中心にヒロアカ×吉沢亮の宣伝がありましたね。

社会的に強い影響力を持つ芸能人をキャスティングしたことと、脚本の意図がしっかりガッチリマッチしているように思えて、一貫した姿勢が商法として秀逸ですね。

要するに、決してオタク向けということはなく、全年代対象の夏映画でした。夏にぴったりな爽やかな映画でした。子どもに自信を持ってオススメできる映画であり、それこそ夏休みに家族で見てほしい映画。

少年と少年が出会い冒険をともにし、お互いをインスパイアして成長していく......というボーイミーツボーイである点が、夏に相応しい所以であります。(私がブロマンス好きなだけかもしれませんが)

そしてそれだけではなく

原作を知らない方にとってわかりやすいと書きましたが、もちろんそれだけではありませんでした。テレビシリーズ、単行本、本誌を追っている我々にとっても物足りないなんてことはなく、笑えて泣けて喜べて(?)さらには考えさせられるシーンがいくつもあったと思います。

例えばデクのヒーロー性とか、フレクト・ターンという存在についてですね。デクに関しては、一度は自分を裏切ったロディのことを身を挺してまで助けるという相変わらずのイカれっぷりを見せてくれたわけです。「まーたこの子は......」といった気持ち。

どうしても助けたいって思っちゃうんだ......!

またロディ・ソウルはこう言います。

それで怪我したら浮かばれねえだろ。

大変ごもっともな意見のわけですが、残念ながらびっくりするくらい少しも全く響いていませんでした。笑っちゃいました。底知れぬヒーロー性にひたすら感心する傍ら、できればもう少し自分の身体を大切にしてほしいな......とまた思うなどします。「己が命を軽んじるヒーローにはなってほしくない」としたイレイザーの気持ちを、ね。

また原作ファンとしてしみじみ感じたのは、今作のメインを張った三人の関係性ですね。8月6日の金曜ロードショーで放送された一作目「二人の英雄」では、まだまだ薄い紙切れみたいなペラペラの関係性だったりします(ペラペラではないか?)。また二作目「ヒーローズ:ライジング」での関係性(特に幼なじみ二人)からも変化が見えます。

特に爆豪からしてみれば二人は友達ではないし、そこは変わっていません。がしかし、インターンをも経た今、当たり前のように隣に立つことができ、これまで以上の円滑な会話が可能となっています。お互いのやろうとしていることが言葉無くして通じていたり、一瞬デクと爆豪が全く同じ考えをしている描写があったり、入学から流れた歳月の重さと、それぞれの変化を身にしみて感じました。

また、最終盤でのデク→フレクトへの連続パンチ(BGM: Go straight!)は、USJでのオールマイトの連続パンチの踏襲でしたね。三作目にして「憧れ」への原点回帰、ここでまた泣きます。引いてはOFAそのものの成長とともにデク自身が着々と憧れの人に近づいていることを示し、本誌の流れとも繋がってきます。

フレクト・ターンについては後述します。

始まり方と終わり方

今作は、冒頭でロディ・ソウルが飛行機を見上げるシーンがあり、ラストにも同じようなシーンがあります。ここがとても好きでした。

そのままで考えると、後者はデクたちヒーローチームのオセオンからの帰国を表しているのですけれども、それだけではないというところ。それはもちろん見た方ならわかっている通り、ロディの夢がパイロットであるということと掛けていますね。

ここが秀逸なポイントだと思っています。夢を諦めていた少年が、ラストではその夢をもう一度胸に抱いて歩き出すという意味で。

そもそもロディの夢は、前作の活真くんのようにヒーローでも、あるいは警察でも医者でも教師でもミュージシャンでも、なんだってよかったんです。だけどそこでパイロットが選ばれていることで、「デクたちが飛行機に乗って来る/帰る」という事実と掛け合わせたシーンになっています。え、すごくないですか......?

ロディ・ソウルについて

これは見た方が100人中100人仰っていますが、オリキャラが完全に成功していました。完全にここがプルスウルトラ。

個性とキャラクター性の噛み合い方がこれ以上ないくらいに素晴らしくて、ぐうの音も出ないどころの話ではない。そしてそのキャラ性が勝負の決め手になっている。上映終了後にロディ・ソウルをフルネームで呼びたくなること間違いなし。キャラ性と脚本が綺麗に噛み合っているだけでなく、キャラ性と個性の相性のおかげで、二回目を見たくなる工夫が上手いですね。丁寧に編み出されたキャラクターだなという印象を受けます。

さらに、デクにとっては初めての悪友という点が注目ですね。雄英に入ってからのデクが親しくなった人間はほとんどヒーロー候補生か、プロのヒーローです。無賃乗車なんてことは、轟はもちろん爆豪だって絶対にしないでしょう。中学までの思い返してみたってろくな友人関係を築いてこなかったデクにとって、バスの上に乗る、車を勝手に借りる等、友達と一緒に悪事(?)に加担するという、文字通りの刺激的な夏になったのではないかと思いました(時間軸は冬ですが)。我々にとってもそんなふうなデクは新鮮でした。

加えて吉沢亮さんの演技のおかげでロディの存在がさらに大成功を収めてます。上手すぎる(それ以外に何も言えない)。まったく違和感なく溶け込んじゃってるので、キャラが息をしていてすごい。ボーイミーツボーイが成功しているのは吉沢さんのお芝居あってこそでした。この映画は吉沢亮さんのおかげで箔がついている、といっても過言ではないはずです。

特に好きなのはイデオトリガーボムを止めた後で傷だらけのデクと笑い合っているシーン、それからラストの空港での

......二度と来んな。

ですね。もう一度言いますがボーイミーツボーイ。「ひと夏の限定された出会い〜〜」みたいなものが好きな私のような方には間違いなく刺さる。刺さらないわけがない。これから好きな俳優を聞かれたときは迷わず吉沢亮さんのお名前を挙げようと思ってます。

また、物語として最終的に世界を救う決め手となったのが、ヒーローたちではなくロディ・ソウルという一小市民であるという点において、前二作とは異なりました。

「誰もが特別でヒーローになれる」

「一度諦めた夢でももう一度追っていい」

みたいなメッセージを感じました。この場合のヒーローは職業的なものではなく、メンタリティという意味でのそれです。後者はフレクトへの「お前は諦めたんだ」に対する救いにも思えてきます。

そしてロディがどうして変われたのかといえば、デクに触発されたからです。ロディの「家族だけは救けたい」に対して「全部を救けたい」と譲らないデクのヒーロー性に、動かされたからです。この点について考えるとき、「緑谷出久に心を動かされたロディ・ソウル」と、「これまでヒロアカという作品から山ほどの刺激と生きる力をもらってきた私自身」がダブるんですね。だから私は、WHMを見てこんなにも感動したのだと思います。

エンパシーは今夏のエモソングNo.1ですね.........。

フレクト・ターンについて

個性終末論って、結局のところどうなんでしょうね。

作中ではデク、そして爆豪が真っ向から「根拠のない理論」と否定しています。でも、「個性をコントロールできない」という点において、身近な存在で言えばエリちゃんがそれに近いし、OFAだってもう後世の誰にも扱えなくなってしまったという点では似たようなものです。

今作のヴィランであるフレクト・ターンには背景があります。多く語られてはいませんが、少し想像すれば、いかに過酷な人生であったかが窺えます。

緑谷出久に出会えないまま大人になったエリちゃん、と言っても過言ではないですね。フレクトはエリちゃんかもしれない、とそう考えれば、原作のコンセプトとの近さを感じます。ヒロアカでは、誰もが一歩間違えばヴィランだったかも知れないとう表裏一体、誰かが誰かのifであるという対比構造が多い。

お前は諦めたんだ。

デクにしては厳しい言葉を投げかけているのは、強大すぎる力を備えたOFAに悩まされながらも、その大きさに耐える器になるべく努力を重ねてきた当事者であるからかもしれません。あるいは、フレクトと同じように疎まれやすい個性を持ちながらもなりたい自分を目指そうとする、心操人使や物間寧人を知っているからかもしれません。現在進行形で個性との付き合い方を模索するエリちゃんを見ているからかもしれません。

ただ、これは本編だと他のヴィランにも同様に言えることですが、「同じ状況でも乗り越えられる人がいるんだからお前は甘えである」と簡単に突っぱねて良いものでもなないんですよねきっと。

言うまでもなく、実際にヴィラン連合の面々のうち多くが社会構造の犠牲者であります。間瀬垣小学校の子どもたちにしてみても、現実に個性が複雑に進化し続けているのは間違いなく、社会から孤立する人々はさらに増加しそうな勢いですね。ではこの社会はどう変わっていけばいいのか。元々のヒロアカ社会ではヒーローよる対症療法(出てきた悪の芽を片っ端から潰す)がメインですが、デクがエリちゃん(あるいは轟焦凍)にしたような“根治療法”(ヴィランを生まないための関わり)が求められてくるはずです。が、どういう形でそれが実践されるのか、そもそもそれは可能なのか、今後の展開に注目です。

また、文字通りぶつかり合うことで結果的にフレクトまでも救ってしまうことに成功したデクさん、光のパワーがものすごいですね。フレクトの皮膚が最後に肌色になっていたのが印象的でした。デクが対峙するヴィランはこれまで「救われる」みたいな描写が意外と多くなくて、新鮮でしたね。(ジェントル、レディ・ナガンがそうかな......)


予告の使い方

先ほど、ロディのキャラ性が物語の勝負の決め手となっていると書きました。そこで予告映像での

諦め時だぜ、ヒーロー。

この台詞、またデクの

僕たちは、諦めない言葉を知っている!

正反対を向いているかに思えた二つの言葉から、勝手にクライマックスを想像していました。しかし蓋を開けるとどうでしょう。この二つの台詞、同じ方向を向いていたのでした。

上記のロディの台詞が実は「諦めるな、立ってくれ」の意だと気づいたとき、予告映像を思い出して静かに震えました。ロディ・ソウルのキャラ性を知っているのと知っていないのとでは全く違ったものに思えてくる。宣伝として上手すぎる......(贔屓目かもしれないが)と。


アニメ5期終盤への繋ぎも果たす

オマケみたいな感想ですが、「超常」の発端である光る赤子に、ここで改めて意識を向けさせるという手法がまたよく考えられているなと感じました。8月21日よりテレビシリーズは新章に突入するわけですが、そちらでやや重要となってくる「個性の原点」。本作を見ることにより「ああ個性ってそういえばこういう始まりだったな」と思い出させること、その結果「異能解放軍」の思想を理解する上でも役に立つのだろうと思います。先述した通り、原点回帰の意味合いの強い映画である気がしてきますね。

公開のタイミング、引いては5期においてインターン編と通称「ヴィランアカデミア」の順番を入れ替えたことが、ここでも意味を発揮してくるのですね。ヒロアカを丸ごと楽しんでもらうための工夫が惜しみない......。すごい......。


まとめ

長くなりましたがまとめです。

・脚本のまとまりが良い

・前知識が少なくても大丈夫

・でも知っていればより楽しめる

・とにかくすごいオリキャラ

・これぞ夏の映画

・5期終盤へのバトン

自分がこんなに幸せで良いのかと、この映画を見てまた思いました。この時代に生まれてこられて、リアルタイムで最高潮の本誌を追いつつ、大スクリーンと高品質の音響でこんなにも素敵な作品を鑑賞することができるということ、全然普通のことじゃないです。さらにこのご時世、いつ公開が取り消されてもおかしくない状況でした。感謝してもしきれんですね。

今作が一人でも多くの方の元に届くことを願っています。ヒロアカに携わる全ての方々に感謝を述べつつ、レビューを終わりにしたいと思います。

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