眠眠無気中年譚
自分は人間だと思っていた
地面に横たわる自分の形をした泥を見つめて
昨日 アパートで寝たはずなのだが、起きると私は自分の形をした泥の前に立っていた
しばらくは ぼけーと泥を見つめていたが
ふと、「あれ…布団がないな…砂か」
顔を上げ 周りを見渡すと辺り一面の砂 砂丘だ
少し先に海がある
「気づかなかった…変だな 風も潮の匂いもしないし感じない」
海の方を見ていると後ろから
「お~い!!」
と私が満面の笑みで かつ全裸で手を振って
こっちに走って来ている
私は私のはずで、あれは確信的直感で私ではない…
はずなのだが、地面の私の形をした泥と
遠くから向かってくる私を見て
私は自分が私なのか分からなくなった
ごく自然に両手を見たが目に映るのは地面
泥の私のみ
両手どころか脚すらも見えない
透明なのである
いよいよ理解が追いつかない
私は一体…あれ?俺って…
しかし
この思考は?
海を見る
目はあるようだし
思考出来ているということは脳があるはずだ
透明な脳が
「これは夢なんだろう」
そう思うとこの状況もまた何てことはない
余裕を取り戻すと色々と面白い
全裸の私の姿をした男
あんな遠くから あんな大声で一体どんな
バカ声してんのか 笑けてくる
何より大事なのは余裕なのだ
海を眺める
私は海は怖い マリアナ海溝等の深さを想像するだけで
とても恐ろしい
まぁ しかしこうして久しぶりに海を見てみたが
すごい迫力だ
神だなんだ信じてはいないが
木星の強大なハリケーンやら
冥王星の時速2100kmの風やらを考えると
地球と太陽・月の関係性は
神の存在そのもののようにも思う
パスカルの賭けとは違うが…いや 同じようなものか
すると突然
「お~い!!」
というクソバカでかい声が背中から
つまり真後ろから鼓膜をつんざく
衝撃的なバカ声で瞬間身体が硬直する
真後ろ、真後ろにあの全裸の私が居る
それもおそらくは1m以内にぴったりと背中に
一体どんな速度してんのか
かなりの距離があったはずだ
まして地面は砂なのに
心臓がバクバクして 呼吸が荒くなる
「何…これは夢か何かだろう」
余裕という強がりとこれを現実としないという頭の堅さと馬鹿さで ようやく後ろを振り向く
目の前には…満面の笑みの私だ
こんな笑顔は鏡でも写真でも見たことがない
「はい!返すね!」
と言って肩を叩かれた
気づくと布団の中だった
「フッ…やっぱり夢じゃないか」
寝付こうとすると…いびきが聴こえる
身体を起こし周りを見渡すと
豆電球に照らされた部屋は広く
私以外の4人の人間が寝ている
ん?…作務衣?
…これって刑務所か もしかして
ドラマで見た光景と同じだ
…これって夢か?
夢から抜け出せなくなってる?
怖くなった
私は怖くなると睡眠に逃避する
…とりあえず寝よう
とにかく寝よう
…出来れば永遠に