母乳配達員になった話②
18:42 病院到着。
気が動転しながらも急いで時間外の窓口に行き、通されたのはNICUと呼ばれる新生児集中治療室だった。
長男の妊娠中に予習しまくったコウノドリの舞台になっている、"あのNICU"に緊急搬送されたの?うちの子が?
要領を得られなかった妻の電話から、ようやく事態の深刻さを肌で感じ始めた。漫画の中で読んだ様々なケースが頭をめぐる。
どうなってるんだ?3時間前に感動の対面を果たしたのに、なんでこんなことになってるの?
NICUの看護師さんに家族控室へ通され、三男の到着を待つことに。予定では30分後に搬送されてくるとのこと。ストレッチャーで運ばれてくる三男の名前を呼びかける心の準備をしていた。
1時間経っても誰も来ない。
どうした…?なにかあったのか…。
1時間半経っても音沙汰ない。
イメージしてたドラマチックな搬送シーンはないことを1人で静かに悟った。すごい無駄な覚悟だった。
2時間経った。
心配すぎて心がやばい。義母が無事に保育園のお迎えが完了した連絡をくれた。長男と次男は突然の20時過ぎお迎えでも大丈夫だったみたいだ。よかった。
各所への連絡で携帯の電池が無くなりそう。
2時間半経った。
一旦、車に充電器を取りに戻り、冷静になる。
いまの状況としては、産院から大学病院に緊急搬送され、NICUで治療が開始された。呼吸に関連する原因を特定するためにきっとレントゲンなどの検査を行っているんだろう。プロの現場で自分ができることはない。心配しすぎたところで何も好転しない。それよりも、明日以降の産後の妻と2人の息子たちのケアこそが、自分にしかできないことだ。そのためにも気を強く持たなければ。
など、いつまで続くかわからない待機時間のおかげで1周回って冷静になり始めた。
3時間経ち、
22時を過ぎたころに先生がいらっしゃった。
最悪のケースも想定していたので、状況説明を聞くのが本当に怖かった。
医師からの説明を要約して家族LINEに送った内容がコチラ。
病状:呼吸障害
原因はまだわからない。早期に胎盤の一部が剥がれた影響や、臍の緒が首に軽く巻きついた影響も考えられなくはないがなんとも言えない。
鼻から酸素を送る処置を施したけど、改善せずやや悪化してきているので、口から管を通す処置に進みそう。
新生児の呼吸障害は比較的よくあることだが、口からの処置は重症の部類に入るのでまだまだ予断を許さない状況。
レントゲン等の検査をしてみたかんじ、肺などの先天性の疾患などは今のところ見られない。
▼入院のイメージ
早い子は数日で回復、長引く可能性もあり。長引くといっても、1週間などで現状からの変化は現れるみたい。
回復傾向にむかわず、口から管を通す処置や投薬による合併症などの可能性もあり。
初乳は赤ちゃんにとって非常に良いので、搾乳して明日に持っていくのが◎。
という話だった。最悪ではなかったけど、まったく安堵できない内容だった。
状況説明のあと看護師さんに通され、薄暗いNICUの中で見たのは、管やコードまみれになって少し苦しそうに寝ている三男だった。
見慣れない特殊な病室で無機質な電子音が聞こえるなか、数時間前に感動の対面を果たした我が子との再会シーンは軽く心が折れかけた。
自分の子供なのに触れていいのかもわからない状況に、泣くとも違う、なにかとてつもなくショックな感情がうごめいた。
看護師さんに我が子に触ることの許可を確認して触れた三男はすごく温かく、すごく柔らかかった。よかった。
この時、がんばれ、と思わず口にしてしまったことを帰りの車内で後悔した。もうその姿は十分に頑張ってたのに、なんであんなこと言っちゃったんだろうと反省しながら運転した。
温かく柔らかい三男との面会の終わり際に「早くおうちに帰ろうね」と言おうとした瞬間に涙が溢れた。
代わってあげられるなら、代わってあげたい。
使い古された表現の感情を心の底から感じた。
家に帰ったら日付がかわっていた。
義母から明日以降の動きの提案をもらい、「長男と次男の面倒は義実家で見るから三男と妻のケアに集中しなさい」と冷静に諭された。
妻と三男が入院しているあいだに予定していた長男次男との3人旅行の計画を捨てられずにいたので。親子で楽しみにしてたんだ。
とはいえ、明日から産院に入院している妻のもとへ行き母乳を預かり、三男が入院している大学病院に母乳を届ける日々が待ってる。
義母からのありがたい提案を受け入れ、いつもよりも3時間以上遅れて眠りについた長男と次男を様子を見に寝室へむかった。
スヤスヤ眠ってる。よかった。健康で寝ていてくれて。
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