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オペラ『椿姫』での思い出
昔の話だけど、12月がくると思い出すことがある。
あるツテで、オペラ『椿姫』にエキストラ中のエキストラで一度だけ出させてもらったことがあった。
私が出たのは、第一幕冒頭の『乾杯の歌』のシーンだ。
同じ歌詞を繰り返し歌うとはいえ、イタリア語の歌詞はとても覚えにくかった記憶がある。
他のエキストラの人にまぎれて一人で歌うのかなと思っていた。
けれど、そこは貴族の社交界場。私の傍らには大人の男性がいた。
男性にエスコートされながら、ワイン片手に歌わないといけないのだが、
着なれない19世紀頃のドレスを着て
歌詞は覚えないといけないし
男性と微笑みあいながら歌わないといけないし
ワインこぼしそうになるし
とにかく、初めての経験に緊張しまくりだった。
軽いリハーサルの時に、私をエスコートする男性から注意というかアドバイスをいただいた。
たぶん、私の顔が緊張で能面だったからだろう
「緊張するだろうけど、楽しもうね」
バリトンボイスの、耳に心地いいその声は、少しだけ緊張をほどいてくれた。もちろん完全には無理だったけれど。
いざ、本番。
リハーサルでは動くことはなかったのに(その場で少し揺れてるくらい)
どうやら軽いお芝居をしないといけなかった。
エキストラの方々が、移動しながら、周囲の人と手の中のグラスを合わせるような仕草をしていた。
げ、どうしよ
そう思っていたが、お相手の男性が軽く腰に手を添えてくれて、うまく誘導してくれた。
当時、『歌う』=『芝居』を結び付けられなかったが、ただ歌うだけでなく、表情でお芝居を完璧にこなしていくオペラ歌手にも感動した。
本番が終わり、私のお相手役をしてくれた男性とお礼を兼ねて少しだけ話をした。
どうやらミュージカルの劇団の方だった。
どうりで歌も上手いはずだ、と思った。
時間にしたら、たいしたことはない時間だったかもしれないが、とてもいい経験をしたなと思う。
オペラは、ピンからキリまでのチケット料金があるが、
オペラ歌手やその周りの方の『表情』を見ながらの鑑賞は、少しばかり高めのお金を出しても、十分にその価値はあると思う。
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