ゆうぎり(二次創作③)

江戸では誰もが知る
有名な遊郭にいたゆうぎり

7つの頃に売られてからずっとここで生きてきた
ゆうぎりは、美しさやゆったりとした所作、
頭の良さで、その遊郭では1番人気の遊女だった

ある日、『恋』をした

相手は、素朴で純粋な 呉服屋の跡取り息子

『恋などしてはいけない』と分かりつつも
息のつまる繰り返しの日々に
救いが欲しくなり、気付けば、
「客」から「気を許せる話し相手」になり、
「恋仲」になった
その人から身請けの話が出た時は嬉しかった

嬉しさの余り、「人の心は移り行くもの」だということを忘れてしまっていた

「今、なんとおっしゃいました?」

「すまない、縁談が決まった 本当にすまない、
俺も本当はゆうぎりと一緒にいたいが
俺の立場を考えてくれ!
町で名を知らない者はいない 呉服屋の跡取りが、親父の縁談を断れるわけないだろう?
身請けはなかったことにしてくれ」

景色が回る、凄まじい混乱、
しかし、恋は盲目。苦しげな恋人を見ては、
駄々も捏ねれない

「もう何も いいなんすな 貴方の未来の為、
わっちは身を引きましょう」
「すまない、そしてありがとう」

元恋人は来なくなった
辛かったが、これで全てが終わった
と思っていた
終わったはず だったのだ

ある夜更け、仕事を終えたゆうぎりは
若い衆から受け取った 文の事を思い出した
「誰からでありんしょう」

開くと その差出人の文字に手が震えた
あの人だ
酷い仕打ちを受けても 文字を見るだけで
心が跳ねてしまう

「大切な話がある
明日、夜八ツにあの柳の下で」
それを読み、次の日の夜、
遊郭の規則も忘れ、抜け出した

出会ったあの柳の下に駆け寄ると
愛しい人は疲れた顔で微笑んだ

「お久し振りでー」
「ゆうぎり、すまない」

ゆうぎりの声を遮り、
その人は淡々と喋り始めた

「結婚相手に、以前の遊女通いが知られた
「今は通っていない」と言っても
信用してもらえない
向こうの親御さんも
僕たちの仲を   訝しんでいる٠٠٠
俺は、ゆうぎり一筋だったから、君を殺す

君が死ねば、遊女通いの疑惑は晴れ、
結婚も決まる 店も安泰だ あはははは」

無茶苦茶な理論だった
ゆうぎりはその話を信じたくなかったが
鈍く光る刀を持つあの人を見ては、
もう何も言えない
恐怖で足が動かない

「君がいると僕は幸せになれない」
笑いながら、刀を構える元恋人

そこから記憶が途切れた


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