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症例検討~症状があったら薬を処方すればいい?~

 80 歳 男性。発熱と排尿困難を主訴に来院。
現病歴: 3 日前から排尿困難を自覚。本日から悪寒戦慄を伴う発熱が出 現したため救急外来を受診。
既往歴:高血圧症、糖尿病、脂質異常症、うつ病、蕁麻疹に対して、アンジオ テンシン変換酵素〈ACE〉阻害薬、DPP-4 阻害薬、スタチン、三環系抗うつ薬、ヒスタミン H1 受容体拮抗薬を内服している。
生活歴:65 歳までは会社員、現在は無職、人暮らし。70 歳ま で喫煙 10 本/日を 50 年間、飲酒は機会飲酒。ネコ飼育。
家族歴:父が脳梗塞、母が糖尿病。
現 症:意識清明。身長 170 cm、体重 72 kg。体温 38.8 ℃。脈拍 112/分、 整。血圧 136/60 mmHg。呼吸数 26/分。SpO2 98 %(room air)。眼瞼結膜と眼球結膜とに異常を認めない。甲状腺腫と頸部リンパ節とを触知しない。心音と呼吸音とに異常を認めない。下腹部が膨隆しているが、圧痛を認めない。肝・脾は触知しない。左の肋骨脊柱角に叩打痛を認める。直腸指診で 4 cm 大の前立腺を触知し、圧痛を認めない。
検査所見:尿所見:蛋白 1 +、糖 1 +、潜血(-)、沈渣に赤血球 1~4/HPF、白血球 100 以上/HPF を認める。血液所見:赤血球 461 万、Hb 14.9 g/dL、Ht 44 %、白血球 14,300(桿状核好中球 2 %、分葉核好中球 90 %、好酸球 1 %、好塩基球 1 %、単球 3 %、リンパ球 3 %)、血小板 12 万、PT-INR 1.18(基準 0.9~1.1)。血液生化学所見:総蛋白 6.6 g/dL、アルブミン 3.9 g/dL、総ビリルビン 1.5 mg/dL、 直接ビリルビン 0.4 mg/dL、AST 13 U/L、ALT 15 U/L、LD 219 U/L(基準 124~ 222)、ALP 79 U/L(基準 38~113)、γ-GT 30 U/L(基準 13~64)、CK 76 U/L(基準 59~248)、尿素窒素 26 mg/dL、クレアチニン 1.3 mg/dL、尿酸 4.7 mg/dL、血糖 120 mg/dL、HbA1c 7.0 %(基準 4.9~6.0)、総コレステロール 197 mg/dL、トリグリセリド 226 mg/dL、HDLコレステロール 69 mg/dL、LDLコレステロール 83 mg/dL、Na 138 mEq/L、K 4.5 mEq/L、Cl 105 mEq/L。CRP 14 mg/dL。
胸部X線写真で心胸郭比 51 %、両側肺野に浸潤影を認めない。腹部超音波検査で膀胱内に大量の尿が貯留している所見を認めるが水腎症は認めない。

第118回 医師国家試験 F問題 67~69

<考察>

● 問題では、E.Coli 感染による発熱に対してセファゾリン点滴を投与し、三環系抗うつ薬とヒスタミン H1 受容体拮抗薬の副作用による排尿困難に気付いていた。
● 実際の現場では、病院の時間外救急や、開業医では、症状が専門領域ではないことも多く、発熱→アセトアミノフェン頓服、排尿困難→α1遮断薬の処方追加→低血圧によるふらつき→アメジニウム処方追加→めまい→アデホス®・ベタヒスチン処方追加 といったように、症状に対して対症療法の薬剤がどんどん増えてポリファーマシーとなり、根本の治療が行われない症例もある。
薬を処方するだけが治療ではない。


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