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空間デザインやサインを手掛ける|OKデザイン室 大内かよさんインタビュー

日本を代表するグラフィックデザイナー廣村正彰さんに師事し、その後、OKデザイン室を設立した大内かよさん。これまで手掛けてきた仕事のなかから、特に印象に残っている空間デザインやサインの仕事について語っていただきました。


(プロフィール)
大内かよ
茨城県ひたちなか市出身。武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科卒業。株式会社たき工房を経て、株式会社廣村デザイン事務所に入社、廣村正彰氏に師事。2010年に独立し、OKデザインを立ち上げる。2017年には株式会社OKデザイン室を設立。グラフィックを中心としたデザイン業務、およびデザインに関わるブランディングを行っている。


目指すのは使う人のことを考えたデザイン

___事務所の特徴やスタイルを教えてください。

以前はロゴやパッケージなどの仕事をやっていましたが、独立前に廣村正彰氏に師事していたこともあって、6~7年ぐらい前からは空間の仕事もしています。2020年ぐらいから大きな案件も依頼していただけるようになって、今は圧倒的にサインの仕事が増えている状況です。
パッケージや広告、パブリシティは製作期間が3ヵ月、長くて6ヵ月ぐらいで世の中にリリースされていくと思うのですが、サインの場合は携わる期間が長いと5年ぐらい、短くても1年です。工事着工の前から建物のプランと一緒にサイン計画も立てていくのですが、単純に見た目ではなくて、動線計画に従ってどのようなアイテムが必要かということから設計さんと協働して進めていきます。
2021年に東京オリンピックが1年遅れて開催されたのと、2025年の大阪万博に向けて大きい建物の案件が都市計画と一緒に進んでいたので、2023年はすごく頑張りました(笑)。これから徐々にリリースしていけるかと思います。

空間・設計の業界ではクライアントを「お施主さん」というのですが、弊社はそのお施主さんあるいは設計部から直接ご依頼いただくことが多いので、代理店を挟まずに直接クライアントや設計士の意向を伺うことができます。私達が得意なのは、どうやったらその空間に来た人たちが快適に過ごせるかという視覚情報を新たに提供することです。情報をPRしたいときに出す瞬発力のアイデアももちろん必要ですが、実際にフィジカルに使っていくユーザーのことを想定したデザイン言語、設計やコンセプトを考えるのが、他のグラフィックの仕事とは少し違うかなと感じています。どちらもアイデアを出すということは同じですが。

___空間全体のデザインはもちろんですが、使い心地や分かりやすさを提案されているのですね。

「分かりやすさとはどういうことか?」と設計士の方と一緒に考えることがプロセスの中で一番面白い作業です。設計士の方から「こういう感じにしてください」とオーダーされることもありますが、彼らはすごく専門的な分野の仕事なので迂闊に言語化しないんです。例えばグラフィックの仕事だったら「今回は女性がターゲットなので優しいイメージで」とか「こういう色が好き」とか、マーケティングではターゲット層の好みを組み合わせて提案することができますが、設計士の方はそこまでイメージを持っていない。あるのは施設の目的と意図、設計のコンセプトぐらいです。作家気質な建築家さんだとエモーショナルなストーリーがあったりして取りかかりやすいのですが、そうではないときは本当にロジカルにこういう施設です、みたいな感じの説明だけです。そこに求められるのがその空間にしかない情緒のようなものを視覚デザインで表現することで、私の仕事は多分そのあたりを評価してもらっているのではないかと思います。「やってみてください」とだけ言われて、全然違ったり、すごく喜んでもらえたり、色々ありますけど。

___信頼されていて自由度が高い分、難しいところもありますよね。設計士さんとしては言葉にしてしまうとイメージが固まってしまうので、大内さんのスタイルを表現してほしいという意図もあるのでしょうか。

そうですね。わりと尊重してくださっている感じはあります。私達もただ「素敵でしょ」と説明する訳にはいかず、なぜこうなのかという説明をする必要があります。プロモーションの仕事でもそうですが、一次情報としてデザイナーが「こう考えました」ということが世の中に伝わることはないですよね。多くの人たちに情報が等しく伝わるような言葉を選んでプレゼンすると、みんな安心して他の人におすすめしてくれることが分かってきました。なので、コミュニケーションをとるときに言葉選びを気を付けるようにしています。

スペシャリストに特化したピクトグラム

___最近手がけられたお仕事を教えてください。

個人的に一番大変だったのは清水建設さんのイノベーションセンターで、ピクトグラムからオリジナルで作りました。構造や設計、コンクリート、道路を作ったりするような大規模なゼネコンで、構造の計算や研究、開発をする施設と、そのほか様々な関連施設があるような建物です。基本的には施設社屋なのですが、一部が公開されたり川沿いに公園があったりする場所で、そこのサイン計画を任されました。

既存のピクトグラムではなくオリジナルで作ったのですが、設計や施工、研究、土木建築や日本の街、環境を含めたものづくりに関わるスペシャリストだけが使う施設、という点に注目しました。図面に使うCADというソフトがあるのですが、CADで使うフォントは私たちがイラストレーターで使うアウトライン化された文字のように塗りつぶされていなくて、ラインだけでできています。理由は、読みやすさを最適にするために設計されているからです。私達グラフィックデザイナーは文字や行がまとまりで見たときに美しく見えるように作ると思いますが、CADの文字は一文字一文字が可読しやすい。それと図面データを軽くするために細い罫線を連続的に並べてベタに見える面みたいなのものを疑似的に作っています。それが面白いと思って「CADのフォントを文字詰めしないでそのまま使いましょう。ピクトグラムもCADで作ったふうに作りませんか?この施設を使う人たちは毎日製図を見て、そこに書いてある記号でコミュニケーションを取っているので、その人たちが一番わかりやすい言語を使った方が良いですよね?」と提案したら、設計士の方も賛同してくれました。それと「データでしか見たことのないものがフィジカルに触れられたり、立体になっていたりするという違和感が面白くないですか?」と言ったら、「めっちゃ面白い」と言ってくれました。

___とてもスムーズに進んだ印象ですが、どのような点が大変だったのでしょうか?

気に入ってくださったのですが、その後に「俺たちは空間と記号をこう見るんだ」と細かな部分を話し合いながら一緒に作っていく感覚でした。通常はデザイナーの領分だから任せて…となるのですが、線の太さや角度なども一緒に見てくれました。専門家はそう思うかもしれないけれど、一般ユーザーが見たときにそうとは思わないなど、目線の上げ下げを一緒にできたことは大変でしたが面白かったです。


良いデザインへ導くためのコミュニケーション

他には、サッカーチーム・川崎フロンターレを運営しているFRONTOWNが子どもたちをプロサッカー選手に育てるアカデミーを川崎市の生田に開設したのですが、アカデミーとそこに併設されている公園のサイン計画を任されました。サッカーアカデミーなので基本は白いゴールポストと白いメッシュ、場所によってはアルミにしたりして、オリジナルのピクトグラムで作りました。アルファベットとピクトグラム、数字はオリジナルで作ることが多いですね。


もうひとつは千葉大学の医学系総合研究棟の新しいサインを手がけました。医学なので解剖学と美術という観点からダ・ヴィンチの有名な人体図をモチーフにピクトグラムを作って全校舎内に配しました。

設計士から建物が長細く真ん中にエレベーターを挟んで対称になっていて、且つ白っぽい壁とグレーのビニールタイルの廊下で、どこにいるか分からなくなるので色をつけたいというオーダーがありました。何色にしようかと考えた時に理由をつけた方が長く使えるかと思い、医学なので静脈・動脈、磁石のS極・M極、北極・南極、暖色・寒色といった直感的に認識できる相対する色にしたいと考えて、赤と青を採用しました。

なぜ理由が必要かというと、基準は人それぞれなので色を選ぶにも理由がないとOKがもらえないそうなのです。単純に赤と青がきれいだと思ったのですが、そこに少し理由をつける。ピクトグラムも形がきれいかどうかではなく、ダ・ヴィンチと言うと誰も反対しない。設計士や大学の方々など、デザインを生業にしていない人たちとのコミュニケーションの取り方や説明の仕方をこの仕事から学びました。

とはいえ、理屈から形は全然できていなくて、最初に形ができて「これを何て説明しようか?」とスタッフと話し合いながら考え出すことが多いです。簡単に「いいじゃん、これでOK」とは言えない社会になっていて、それならこちらが良いものを選んでもらえるように近づいていけばいいのかなと思っています。

他には東京文化美容専門学校のサインの仕事で美容とブライダルの二つの学科のロゴを作ったのですが、BとBが合わさってバタフライの形になるようにして、フロアごとに色も分けました。ゾーンを赤とピンクと青に分けて、階層サインにロゴをやや角度をつけて壁から少し浮いてるようにして飛び立つ蝶々のようにしました。

___こういうモチーフがあるだけで空間が楽しく見えますね。

階数だけ分かればいいのであれば数字だけでいいのですが、毎日ここで過ごす人がどうやったら飽きないようになるかを考えるのが楽しいですね。パブリシティのように短い掲載期間で記憶に残るグラフィックを作るのも楽しいのですが、建物は10年、20年と残っていくので、その残っていく仕事に携わりたいと思ったのが廣村さんに師事しようと思ったきっかけで、今こういうかたちでお手伝いできるようになってすごくラッキーだと思っています。


クライアントの想いを汲み取ったアウトプット


___紙媒体やパッケージのお仕事で印象に残っているものはありますか?

ミヨシ油脂さんが昨年作った「すぐに使えるかける本バター」が良く売れてグッドデザイン賞を受賞しました。これは業務用の液状のバターで、冷蔵庫に入れなくてもよい、白く凝固しないものなんです。パンやケーキの仕上げにバターを塗ってツヤを出すのですが、その溶かしバターを作るときの温度管理が難しくてすごく手間がかかるそうで。以前から業界では画期的な商品だと言われていたけれど、あまり認知されていないから名前とパッケージを変えたいという依頼でした。ネーミングはコピーライターさんと一緒に考えてイラストレーターさんにイラストをお願いしてリニューアルしたら、業界だけでなく主婦たちの間でもバズりました。パッケージが変わっただけで中身は変わっていないのですが、ものづくりの点で評価されたようです。

ミヨシ油脂のアートディレクションは以前から担当していて、100周年記念品のパッケージデザインなどいろいろ関わってきました。


___こちらのパッケージでこだわったポイントはありますか?

黄色のオイルなのでパッケージも黄色にして、手に取ってすぐにイメージが湧くようなデザインを心がけました。冊子も、オイルをそのままかけられることを色で表現しました。

このような商品を開発した理由を聞いたら、製造業も小売も人手不足で大変だから、一人体制のパン屋さんの負担をいかに減らして持続的な事業をしてもらうかを、製造業の源に当たる企業も考えなければいけない時代だと仰っていました。

___クライアントさんの想いや商品が開発された背景を打ち合わせで詳しくヒアリングされているのですね。

そのような機会があるクライアントさんと巡り会えると、ミスコミュニケーションからアウトプットが出ることがあまりないので、すごくありがたいなと思います。


蓄積されたリファレンスから抽出


___大内さんはデザインのインスピレーションをどこから得ているのでしょうか。

人が作ったものをたくさん見ています。リファレンスが自分の中に膨大にあると、依頼が来たときにその建物の種類や業態に合う感じのピクトグラムが何となくイメージできます。引き出しが少ないと似たものを作ってしまうので、スタッフにも「とにかくたくさん見てね」と言っています。それを自分の中でカテゴリー分けしています。例えばディテールを作るときの素材として、鉄や木などからインスピレーションを得ることもあります。街を歩いている中で感じたことを蓄積して、そこから自分なりのものを抽出している感じです。

先ほどの清水建設さんのCADのピクトグラムはピクトグラムがCADっぽかったらどんな感じだろうと観察したことが大きいですし、千葉大学のピクトグラムは過去にダ・ヴィンチが作った美術品という膨大なリファレンスの中からヒントを得て、そこから要素を抽出してオマージュのように出す、というやり方でした。若いときより今の方がいろいろ勉強したり、若いときに分からなかったことがやっと分かってきたりして、楽しいと感じています。

___見ているものの対象が幅広いですね。

そうですね。あと美術館によく行きます。若いときは現代美術がかっこよくて面白いなと思いましたけど、今は古典の絵画を見て「何でこうじゃなきゃいけなかったのかな」と考えることが多くて、今後に活きてくると思います。それと、OKデザイン室では視察研修補助制度を設けています。ちょうどインタビュー前には、香港に社員研修旅行に行き、Art Basel香港やM+ミュージアムほかを巡りアートシーンを堪能してきました!ごはんがとっても美味しかったです...!スタッフ皆で良いパフォーマンスをするために、たくさんの経験を積み、見聞を広げていってもらいたいと思っています。


最終目標は美術館のサイン計画

___今後チャレンジしてみたいお仕事はありますか?

美術館のサインをやりたいです。それと、子どもができる前から教育に携わるお仕事をしたいと思っていて、今は具体的に自分の経験を活かせるようになってきたので、保育園や幼稚園、学校などに携われたらいいなと思っています。
美術大学に入ったのも地元にできた美術館を見て「なにこれ面白い!」「なんか不思議」と思ったのがきっかけだったので、美術館に携われたら引退してもいいかなと思っています(笑)。


フィジカルな体験とトライアンドエラー

___最後に、これからデザイナーを目指す若い世代の方にメッセージをお願いします。

例えば言語から着想するアイデアを探すときは、いろいろなリファレンスをすぐに見ることができますよね。検索したり、AIに聞いてみたり、AIに足りないものを作ってもらったりできると思うんですけど、やっぱりフィジカルが大事です。一度、正しい円を手で描いてみるとか、フィジカルな経験の方が世の中を見たときに「これ素敵」と思ったときのフィードバックが体の中で感覚的に違うと思います。造形力がある人は理解力というか飲み込みがものすごく早くできると思うんです。だからゲームとか絵とかで手をたくさん動かしてほしいです。何でもいいから手を使ってやってみると自分が想定してないフィードバックが体に来て面白いですよと伝えたいです。

___貴重なお話をありがとうございました。


取材協力:OK デザイン室、サインプロジェクト撮影:Ooki Jingu (OOKI JINGU Photography)



OKデザイン室さんの作品が掲載されているPIEの書籍


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