彗星戦決勝で考えていたこと
先日行われた第59期彗星戦決勝リーグ、幸運にも優勝できました。「あすなろ杯」という級位者戦で優勝した時以来で、有段者戦になってからは初めてです。世界レーティング対象の公式戦での優勝という意味でも初めてでした。四段以下限定の小規模な棋戦ですが、優勝というのは嬉しいものです。当たり前ですが自分にこの先何回チャンスがあるかなんてわかりません。素直に喜び、大切な思い出としたいです。
今回のテーマ
私はこの夏の世界選手権(WT)まで提示珠型(先手からする戦型選択)を残月にしていました。深い理由はなく、序盤で悩まないように予め善悪度外視で一本化する、という理由でした。実際WTを経て残月提示には色々思うところがありました。
2年後は違う武器を作りたい。刺激的な海外の大会を終えて、国内棋戦や日々の勉強へのモチベーションが下がっている中、自分を発奮させる為にも何か新しいことを始めなければと思いました。同じことをしていては、2年後に向けてのスタートが切れない気がしていました。
という訳で今回のテーマは別の珠型を提示すること。この先のもっと重要な大会、例えば年明けの珠王戦を見据えて感触を掴むには、絶好の場になるでしょう。
ただ直前まで五目クエストでどうしても五段に昇段したく、そのチャレンジに忙殺していて具体的な準備がまるで出来なかった。結局前夜に、やろうと思ってた珠型ではなく、花月にすることを思い立ちました。直近の五目クエストで一番練習していた形だったからです。
花月を練習していたのは理由があり、序盤の速度感覚が独特で、花月特有の考え方を知らないとマズいと思ったからです。将棋に例えるなら相横歩取りみたいなもので、矢倉みたいに守りは金銀三枚攻めは飛角銀桂みたいな、まぁ銀はこっちに進むでしょうみたいな、一般的なセオリーが通用しない。皆んながいつもやるわけでないけど居飛車をやるなら避けられない必修項目。花月って多分そんな感じなのです。
やってみたらまぁ勝てない。強い人とやると白からバンバン攻め合われて大変にしんどい。それ故に面白い形でした。この夏意識してた、速度感覚を鍛えるというテーマにも合致しています。今回たとえ負けても大局観を知ることができるという意味でも決めました。
これはよく思うのですが、対局中はとにかく不安で、自分が正しい道を進んでるかなんてわからず、誰も背中を押してくれない。これをやってみよう!という根拠のないインスピレーションも、意外と力になると思います。勇気を出して、自分で自分の背中を押す体験ができたのはとても良かったです。
描いていたこと
局面をふんわり振り返ります。3局とも似たような展望と不安を抱えていました。
1R芝野龍之介初段(龍ちゃん)戦。練習していなかった5を選ばれました。これは必勝が解明されてますが、当然手順は知らず、一から方針を考えなくてはなりません。
7としたのは勇気が要る手でした。黒の模様は右上で狭く、白は4が発展性のある石で手番を取ったら幾らでも厳しい好点が下辺の青部分に展開できます。黒は白からの攻め合いを警戒しながら手番を続けたい。
この7からの数手は、白にも楽しみが大いにあるけど、黒も黒で主張がある、そういう選択をしたつもりです。一旦おさめて、危ないところはないように緩やかに安心を取るという展開は、強い主張とは両立しないでしょう。この夏のテーマが斬り合いだったので、あえて主張を残した上で戦う選択をしました。
2R牧野光則1級戦も全く似たような展開でした。手番を取られたら、むしろ白の方に発展性が高い局面です。上辺の危険を放置して一旦下辺に主張を作りました。攻め切れない場合は上辺にうまく雪崩れ込もうという意思で。
構想通りに手番を持ちながら上辺に引っ越せる目処がつきました。この21は、下辺だけで勝てると思って打ってた訳ではありません。白に剣先を止めさせる一手を強要して、赤印に展開し、攻めながら白の空間を消していこうと考えていました。実戦はこの後点線の場所に白が止め、下辺だけで追い詰めが発生しました。
3R藤川四段戦は、白に攻め合われやすい進行になりました。5が離れてるので、白は手番を握りやすく、直近の2-12の連をただ止めても上辺に好点が沢山あります。受け一方では危険なのでどこかで黒の主張をしなくては、というのがここで考えていたことです。
なので13と三を引いてから15と連を止めました。16は上に展開しづらいだろうと。下に来てくれる分には、発展性が少ないので少し安心です。実際は白に勝ちがあったかもしれませんが、本譜の展開は構想通りで、全部白の攻めを潰して手番を握って下辺に35と先着できました。最初にあった黒の主張である下辺の模様を活かすことができました。
こんな感じで3局ともが、相手の空間を意識しながらどうやって黒の主張を残していくか、という戦い方でした。自分のことも相手のことも意識するという、連珠らしい対話ができたと思います。少なくともWTではこうではなかったです。相手が何をやってくるか読み取ることもできず、ただ漫然と局面についていくのに必死でした。今回手の善し悪しはともかく、自分なりに構想を描きながらできたのは収穫でした。
地に足ついた希望を持つということ
今回の決勝メンバーは、誰が勝ってもおかしくなかった。前日に牧野さんも「実力が拮抗してるから全勝も全敗もありうる」と言ってました。龍ちゃんや牧野さんとは直近で体感的に負け越してる気がします。内容も自分より強いと思っています。藤川さんも当然ですが実力者です。
自分の中では冷静に考えて、1勝を目標にした方がいいと思ってました。3人に対して、勝つ確率が40%よりの40%〜60%ぐらいだと。
こういうことって、意外と珍しいんです。実力が全員同じの大会ってそうはない。大概誰かが抜けてます。勝たなくてはならない相手と対する時のプレッシャーや、勝てる可能性がワンチャン5%〜10%という高望みとは、全く別の心理状態でした。
局面的にも、嫌なところもあるが自分にも主張がある、という希望が程々にある展開でした。対局中は、自分に主張が残っていること、勝つ可能性が何割かあるということを冷静に思い出すことで、負ける恐怖や、浮き足立つこと、勝ち急ごうとすること、色んなメンタルの波を乗り越えました。このメンバーだからこそ稀有な体験ができたと思います。
今回は囲碁棋士の芝野龍之介二段と将棋棋士の牧野光則五段が参加するという注目点もあり、ねこまど将棋チャンネルで生配信をしていただきました。とても見やすい画期的な放映で、連珠界の未来がまた開けた気がします。
芝野初段vs牧野1級 https://youtu.be/vWDfP-Ih4LU
藤田二段 vs 芝野初段 https://youtu.be/KwWRKrzj_tM
藤川四段 vs 芝野初段 https://youtu.be/rGzUqtaXv9Y
表彰式 https://youtu.be/JRVQb6Kpzwk
他にも現場には観戦に訪れた方々が何人もいました。とりわけ普段そんなに連珠の大会に足を運ばない高山弦大さんが来てくれたのは驚きました。あすなろ杯決勝を戦った相手で、勝手に連珠では同期生と思っていたので、もしかしてそんな気持ちで来てくれてたのかなと思うとすごく嬉しかったです。発信してくださった皆さん、観戦してくださった皆さん本当にありがとうございました。
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