はじめて見る景色〜A級リーグ振り返り〜④対局3日目
7R 松浦浩七段
中国四国地方代表の松浦七段はこれまで33期A級に在籍してる"主"である。以前は中山の優勝を阻んだり、初出場の若手の壁になっていた実力者だ。だからこそ勝ちたかったし、力が通用するか楽しみだった。
今回若手の連珠家が多くなったのは嬉しかったが、ベテランの長谷川九段や河村九段と対戦できなかったのは残念だった。松浦さん含めいわゆるレジェンドの方達とは当たれるうちに当たっておき、その強さを体感したかった。
白で耐える展開ばかりだったので、いい加減黒を持ちたいと、松浦さんの斜月提示に多めの題数をぶつけた。目論み通りスワップしてくれ黒になったが、これまた白の先攻をひたすら忍ぶ展開に……。ここまで来ると笑えてきて、(今回はきっとこういう連珠をやる試練なんだな!)と前向きに捉えた。持ち時間の長い対局だと普段よりも相手の狙いをじっくり読むことができ、受けの急所がわかってきた。3日目には自信を持って、楽しみながら受けるようになっていた。この大会中という短期間に少し成長したんだと思う。
初めてわかったのは、私は連珠は受け潰せば勝ちと短絡的に考えていたが、実際は手番がなかなかこなかったり(牧野戦)手番が来ても勝てるスペースがあるかは不明だったり(松浦戦)で、満局になるかもしれないということだった。何故これまで知らなかったかと言えば、私は安定志向より鋭く勝ちに行く(あるいは鋭く負けにいくw)連珠が多く、勝っても負けても短手数で終わることが多かったから。第二Rというものの感覚が疎かった。これからはそういった感覚を身につけたいと打ちながら思った。
松浦さんが一旦黒模様を防いでいたらわからなかったが、攻めを続けたので数手前から狙っていた牽制手がクリーンヒットした。松浦さんに勝てればA級の棋譜といえるのかなと思ってたので、最終盤は優勢を意識しながらもソワソワドキドキで落ち着かず部屋中をぐるぐる巡回していた。勝ちたいという欲はあまり対局中出さない方がいいので、必死に抑えていた。
8R 中山智晴珠王
両目も開いたし、勝手知ったる相手だし、気が抜けてというかほっとして盤の前に座った。中山は開催前から「今回は全敗すると思う。ぴえちゃんは5割は取ると思う」とか「ぴえちゃんに負けそう」とか全く意味のわからない予測をしていて、この日も盤を前にして「はぁ……なんで僕が提示じゃないんだろ……」と泣きそうな声で呟いた。この期に及んでまだ言うか!遊星だって先生の方が詳しいのに!と若干イラッとしたが、何故そんなに私みたいな弱い者にプレッシャーを感じるのか不思議で、後で分析したい現象ではある。
岡部戦と同じ戦型となり、私の方がうろ覚えの、AI最善変化に進んでいった。岡部戦でなぜ受け一方になってしまったのか(=牽制しなかったから)というのを引きずっており、もう一つはこの夏良く打ったこの形で、結局ついに一度も空間に先着できなかったから今度こそ、みたいなのもあった。更には、私は中山と打つときやりがちなのがめちゃくちゃ背伸びしてしまうこと。普通の手では負けてしまうと思うからか、一発当てようとしがちなのか、とんでもない背伸びな手をして負けを早めることがある。本局はまさにそれで、牽制プラス空間先着のつもりで打った手が、呼珠を受けておらずそのまま詰まされて終わった。まぁ、ぴえこあるあるの負け方なのだが、折角先生に教われる機会で本当に勿体ないことをした。
悲しかったのと、中山が最後まで「心臓止まるかと思った><」と泣きごとを言ってたので、「おい、被害者はこっちだぞ!ぴえちゃんの方が負けて悲しい!もっと打ちたかった!」と休憩してる部屋に抗議をしにいった(八つ当たりとも言う)。中山は「ぴえちゃんが悲しかったのは事実だがそれとは関係なく俺が心臓止まりそうなほど消耗したのは事実なのだ」とやたらキリリとした顔で言い返してきたので(ぐぬぬ、やるな)と思った。馴れ合いは良くないと思い、対局が終わるまで中山に話しかけないようにしてたが、久しぶりに雑談して笑って、最終ラウンド前にリラックスすることができた。結局1日につき1局はポカで全く頭を使わないで終わる連珠をしてしまい、悲しかったが、省エネという観点では助かった部分もあったのかもしれない。
9R 玉田陽一六段
玉田六段もA級で打つのを楽しみにしてた一人だ。予選で自分とは明らかに違う深い読みや広い大局観を体感し、強くなってまた玉田先生と対局したい!とその時強く思ったからだ。
中山戦で頭を使わなかった私は、最後ぐらい連珠に浸りたいと思った。そして何を思ったか、全く打ったことない白4をぶつけようと、予定の作戦を放棄することにした。多少負荷をかけて、自分を追い込みたくなったのだ。それと同時に、五目クエストなどで知らない形でもワクワクその場で考えてぶつかっていくあの感じを味わいたかった。きっと玉田さんの方がこの変化詳しいだろうなどと怯えながら打ちたくなかった。私の方が知らない状態にあえてして、連珠を楽しみたかった。
開始前、玉田さんは「ぴえこ先生強いからなぁ」とか「負けそう」みたいなことを言ってきた。中山といい、なぜそんなことを思うのか不思議だった。局面も五珠だけ覚えていっただけなのに、序盤でもう苦しいと感じてしまったらしい。私の方は序盤で弱防があり、打った後(危ない!自由打ちと同じになってしまった)と頭の中でサイレンが鳴っていた。赤レートの自由打ちはどんな鮮やかに決めるのかなと、覚悟してた。でもそのサイレンが良かったのかもしれない。腹を括ってその後は集中でき、受けの急所も捉えて差が詰まっていった。私は不思議だった。玉田先生らしい鋭さが手からあまり感じられなかったのだ。最後まで弱気で、感想戦で序盤で負けたと思ったと話したら初めて有利だったことに気づいたようだ。
最後に勝てて終われたのはとても嬉しく晴れやかな気持ちになれたし、どんなに強くても、実戦は様々な要因が絡みその力が発揮できない時があるんだなと貴重な教訓を得ることができた。
玉田さんだけではなく、今回一番感じたことは実戦で力を発揮する難しさだ。総当たり3日間のリーグでは、自分のペースを保つことができた人が結局上に行くんだと思う。シードの3人ははっきり自分を持っていて、ブレが少なかった。そして勝ち越した牧野さんもそうだ。初日からぐったりしつつも、最後までそのぐったりのまま戦い抜いた。中山も対局姿勢に感心していた。
私はポカも多かったが、そのポカの原因にメンタルのブレで集中が落ちてるのがあることがわかった。これからはなるべくブレ幅を少なくして、平均的な手を出せるようにしたい。最終日にいくにつれて成績や手が安定したことは自分を褒めたい。自分ではわからないが、中山に「堂々としてた」と言われたので、少しは将棋で戦い慣れてる経験が活きてたのかもしれない。
無事に9局戦い抜くことができたのはよかった。準備をし、それをぶつけ、そして実際の現場で教訓を得て、モチベーションが向上し、夢が膨らんだ。これらは対局に目を背けずに向きあったから得られたことだった。一連の出来事で、わたしは初めて棋士になれた気がした。これから連珠棋士として生きていきたい。どこまで行けるかはわからないが、今回の経験が終着点でなく、目指すところへの過程の一つになるようにしたいと今は思っている。
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