2つの連珠指導の場に立ち会った話
今回は対局の話ではなく普及について。11月は2つの指導の場に立ち会うことができた。
一つは囲碁の総本山、日本棋院で開催された企画。これは中国の大学生向けの「日中植林・植樹国際連帯事業」の囲碁交流、連珠交流。囲碁は日中大学生同士の対抗戦、連珠は中村名人、岡部九段、中山八段による多面打ちが行われた。
この日のルールは数年前まで国際ルールだった「題数指定打ち」。と言っても殆どの方は何のことかわからないだろう。ここに来ていた学生達は国際大会に出てるような子もいたが、必ずしもそうではなかった。中には基本的な定石を知らない子もいた。それでも皆んながスラスラとこの開局で打ち切り、立派に熱戦を繰り広げた。
日本のトップ棋士と対局できた喜びで彼らはニコニコしていた。棋譜を取ったり、サインをしてもらったり、写真を撮ったり。綺麗に負かされると「やっちゃった」という苦笑いを浮かべつつどこか嬉しそうだった。「you strong!」という声があちこちで聞かれた。
子どもの頃から囲碁将棋の現場で見てきた、お馴染みの光景だ。会場中に強い棋士への敬意があり、棋士は持つ技術を披露し、彼らはそれを受け取って喜んでいた。連珠そのものが価値があることを分かってる者同士だからこその関係。説明しなくても彼らがスーパースターであることを理解する子達との、幸福な現場だった。
わたしは彼らトップの連珠家は、アマチュアだとか関係なく、囲碁将棋の棋士と等しい「棋士」であると思っている。日本ではまだ価値を感じてくれるほど知名度がない。今日のような学生達に会うことはなかなかないだろう。でもやはり、そうだったよなぁとこの日改めて思った。彼らが連珠の価値を高めてくれ、魅力あるコンテンツにしてくれているのだ。学生達が見せた笑顔は、誰もが引き出せることではなく、彼らが技術を高めてくれたおかげなのだ。
もう一つは小学校で行われた連珠の入門講座。今日初めてルールを知る子達の集まりだ。北名古屋市でもこういった授業をしている、桑名在住でにゃんこならべの作者である福井六段がたまたま都内に来て、先生役になってくれた。
指導対局はレベル1から10まで選べる方式で、子どもはランクアップが楽しく、次々と挑戦していた。敷居は最大限下げて、どこに打ってもいいルール。連珠特有の禁手もこの日は説明しなかった。連珠の奥深さを知らない子達も、五連ができると達成感で大喜びしていた。
まだ価値を知らない不特定多数の人たちへ、競技の面白さを伝えること。これも連珠にとって必要な側面だ。私が得意としていてやりたいのはこっちで、ある意味本当に大変。すでに好きでいてくれてるわけではない子に楽しんでもらうためには色んな工夫が必要だ。でもその分、目が輝いた時の喜びも大きい。
福井六段は「僕は世界ランキングで20位ぐらいです」と自己紹介していて、子ども達からおお〜と言われていた。そう、福井君は実はとても強い。本来は東海地区を引っ張っていく棋士なのに、今は競技をお休みして普及に全力を注いでいる。私も将棋のルールを教える活動を長年していたが、対局との両立は大変。これは忙しい棋士にはさせられないと半ば使命感のように感じてやっていた。これもやはり、誰にでもできることではない。
入口の敷居を下げること、てっぺんの価値を高めること、どちらも競技を普及する上で必要で、これを担う人が揃っているのは幸運なのだ。世界で戦う棋士がいる一方で、にゃんこならべを作る棋士がいるなんて時代は、もう今後訪れないかもしれない。この幸運を無駄にしたくない。
コンテンツは揃っている。あとは伝えるだけだ。
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