流れる水を見ていた〜彗星戦振り返り〜
彗星戦は関東の低段棋戦である。伸び盛りの若手とベテランの有段者の構図になったり、高段棋戦にはなかなかない、誰が優勝するかわからない楽しさがある棋戦だと思う。去年も素晴らしいメンバーだったが、今年は全員が若手。私にとっても全員が公式戦初手合いというとてもフレッシュなメンバーとなった。更に予選参加者が増え9年ぶりに6名決勝となったのも良かった。
注目を集めてたのが長副紘樹三段。元A級棋士で8年間のブランクを経て今年復帰した。ずっと中山珠王から「天才」とか「ナガソエのいない連珠界で名人をとっても…」のようなことを聞いていたので、にわかな私にとっても伝説の人となっていた。突然の復帰は漫画のような展開だなとワクワクしている。
長副さんは名人を争うかどうかの人なので、低段戦で当たれる機会はもう少ないだろう。それどころか公式戦で当たれることも幸運になるかもしれない。だからこの機会に多くのことを吸収したかったし、持てる力を出し切りたかった。しかし。
棋譜の上でも惨敗だったが、実際の体感はそれ以上だった。わたしは未知の局面を前に何が大事なポイントなのか、何が必要なのか石の気持ちを必死に読み取ろうとして、でもさっぱりわからず、方針が定まらないままフワフワと並べていた。長副さんはすぐに着手する。そのどれも急がず、慌てず、殊更目の覚めるような手ではなく、ただ、やられてみたら普通の手、そしてこちらが困る手だった。中山が連珠という大自然に身を任せたい、とよく話していたが、まるでそんな感じの、流れる水のように自然な手だった。水が上から下に流れていくだけで、自分を追い詰めていく。自分がやろうとしてる不自然な構想は、何も力任せに抑え込む必要はないのだ。ただこのような自然な流れをぶつければ簡単に破綻するのだ。いつにもまして自分の手がギクシャクとしていくのを感じていた。まるで連珠をしてるように感じなかった。A級リーグの時は、ミス以外は相手の手に呼応してると、対話ができてる感触がある場面だってあった。でも今日の自分はそうではなく、殆ど時間を使わないで繰り出していく長副さんの手を茫然と見てるような感じだった。
作戦云々の次元ではなく、自分がいかに連珠を理解してないかよくわかった。そしてこんな感じで才能に圧倒されてショックを受けたのは久しぶり、芝野龍之介君と初めて対局した時以来だなと思った。
あの時もショックだったけど、それ以上に龍之介くんがいたからわたしは努力できたし強くなれた。龍ちゃんに感謝の気持ちしかない。しかし大した努力をしていたかと言われたら、そうではなかった。この二度目のショックは、神様が本当の意味での努力をそろそろしなさいと言ってるのかなと思った。自分には何も才能がなく、まだ石の声すら聞こえていないのだから。
お告げ、を受けられるのは幸運なことである。見上げられる人、遠くにある美しいもの、それがあるから頑張れるのだ。もちろん長副さんだけでなく、今日の仲間は全員素晴らしく戦っていた。わたしはまがいものの鎧で誤魔化しただけだったけど。
今度は布の服でもいいから、これが自分だと堂々と戦いたいなぁ。いつの日にできるようになるかわからないけど、その日を目指したい。
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