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A(必勝)の勝ちかた

珠王戦の対阪本戦ではモノの資料にA(必勝)と明記されている手が選ばれた。現在の競技ルールで黒は5手目を複数箇所候補を出し、白がその中から好きなものを選んでスタートする。だいたいの場合、白は最も弱いところを選ぶのが理に叶っている。冒頭の図は青が平衡、赤がAで私は青の進行をやるつもりでここまで誘導していた。ところが赤になった。こういうことは試合ではままあり、青が来ると思っているから、むしろ何の準備もしてなかったりする。

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さぁ困った。この3手目の形は「彗星」という珠型で、そのままやれば黒必敗の形だ。なぜなら、2手目の白で止まっているところにわざわざ3手目を打っていて、効率が悪い。6と連を止めつつ連を作るような手は効率良く、現状黒の3は戦場から遠く離れてしまっていて白に手番がある。この3の石を働かせないと、黒に勝てる未来は無い。

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私は仕方なく短慮で7を打った。そこで8と連を二つ同時に作る最も強い手がきた。クラ型と呼ばれる曲がり形で、破壊力がある。来た瞬間マズい、と思った。3が絡み合ってなく戦力落ちしてる中でこの8を通してしまっては、Aの訳がないと。つまり、このような強い手に対し、連を止めて防戦に回るようではもう白に手番を持たれたままこっちには来ないだろう。この手を許してはいけない。こういった直感が働いたのは、これまでの経験、積んできた棋理からで手順丸暗記の知識ではない。

①一直線に詰みに向かう順

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まず9から三を連打していく。9で出来る連でもう一つ三が引くことができ、上に引くと白に三で受けられ手番を取られる(以降は単に取られる、とする)。下に引けば白の連を止められる。どちらがいいだろうか。

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通常は12,14,18と白に取り続けられるので捨てる順だったが、この場合はこれでいけると踏んで上から引く順を決行した。18で止められ後手を引いても、最終図が黒から四追いを残すフクミ手の形になっており実質先手だからだ。白がフクミを受けに回れば、手番を継続させる第二弾の攻めを生み出すことはできるだろう。なぜなら17は懸案だった3と繋げられ、また白石が全く無い方向に向かっている。ここで白がどう受けるのかは完全に全てを読み切れなかったが、こういう場合攻めを生み出し続けられるというのもまた経験から確信できてたので踏み込んだ。本来は全部読めてた方がいいのだろうが。

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本譜は20で3との連携を断ったが、21が継続のフクミ手。白に三が引ける箇所が複数あるので、それを許さない速度で攻め続けるのが肝心だ。この手は受けがなく9から一直線で詰みにすることができた。

②一旦収めて相手は何もないでしょ?と言う順

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この譜を見せた時に中山珠王から「東京オープンでやったことがある。その時11と下に引いてから13で全勝ちを読み切った」と言われた。この図をよく見ると白に何も無く、13と3の石に繋げて左辺が黒しかない。とても筋がいい勝ち方だ。

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たとえば白が14と強く来ても構わず17まで引いて外止めできない。黒からはあちこちでフクミ手が生まれるので一手一手。私はこの日、一旦収めてから主張する順が全く盲点に入っていた。おそらくAという先入観が直線的に勝つイメージを作ってしまったんだろう。Aの勝ちパターンにも色々あり、この順もむしろ直線的な勝ち方だ。なのに11で白の連を止める(白の勢力に向かっていき、黒の勢力に12の石が入る)のが心理的にやりづらかった。

③牽制する順

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更に食事の席で中村名人に教わったのがこの手。6手目で連を作られたのに対し、その連を直接止めるのではなく、自分の攻め筋を作って間接的に「当たるように」止める順だ。連珠では牽制と言う。

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つまり白は8から三を連打していくと、11で三が当たり、12でトビ三で取られても、更に13でミセ手が当たる。ここで一旦白は受けなくてはならず、3と連携して勢力絶大になっている黒は手番を継続したまま攻め倒せるというわけだ。牽制もまた、盲点になっていた。離れた3を活かす本筋な順だ。

今回これを取り上げたのは、Aの勝ち方が色々パターンがあるのは珍しく思ったからだ。Aは難解なものが多く、一手間違えれば白必勝になってしまう狭く細い筋のものも沢山ある。書籍「連珠必勝法」を読み丸暗記してる方は特にそんなイメージ無いだろうか。本局の図は牽制や手番の取り方など棋理を理解していれば必ずしも知っていなくても考えて見つけられる。逆に言えばAだからと先入観で見ずにちゃんと連珠と向き合わないと見つけられないぞという教訓にもなった。

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