舞台俳優と「演劇史」〜その必要性について〜

先日、某SNSにて先輩の講師とメッセージを交わしていました。
話題は「俳優のメイクについて」。
男なのでこの手の話には疎いのですが、思ったことを書きます。

俳優の仕事として役を演じるためにメイクは必要です。
作品の時代性等の「与えられた状況」を、演出家がその時代背景を重視するプランであれば、それに合ったメイクを基本的に役者は考えます(メイクさん等が入る場合は相談しながら決めていきます。)。演出が現代要素を取り入れているのであれば話は別です。

例えば、江戸時代の話なのに、耳にピアスの穴が空いた人は基本的にはいません。異世界からタイムトラベルして来た場合は考えられるかもしれませんが、基本的にはNGです。(そのため、特に女優はピアスを開けることはしないほうがいいと教え子には言い聞かせています。朝ドラや時代劇への出演チャンスを自ら逃してしまう行為です。)

見えるもの全てに意味を持つ舞台(映像もそうだと思います)では、観客側の視点に立つと違和感を覚えてしまいます。

特に若い役者によく見られる状況です。結論として、このような行為に出る役者には演劇史の知識と学習が足りません。加えるなら観察力、想像力も足りません。基本的に役者の仕事は自分を見せることではなく、物語の世界にいる役を見せるのが仕事です。
自分自身を見せたいのであれば、それは役者ではなくアイドルやタレントの仕事だと思っています。
結論として、約2500年前のギリシャ演劇から演劇史を学んでいるなら、今回のような行為には出ないと思っています。演劇史の学びが大事なのは言うまでも有りません。海外での演劇大学では当たり前のように学習しますし、新国立劇場の研究所でも演劇史は必修科目です。

新国立劇場演劇研究所カリキュラム→
https://www.nntt.jac.go.jp/play/training/curriculum/

よく役者の中には演劇の歴史に興味が無い方がいます。苦手であることは仕方有りませんが、興味は持って欲しいと思います。歴史を学ぶことによって今までに自分の引き出しに無かったものが見つかったり、演劇の本質を知ることでより作品への思考力が高められ、自分が演じる役の今質的な要素、立ち位置、役割等への理解が深まり、役作りは確実に役に立ちます。

このように、演劇史を学ぶことは約者にとってはメリットがたくさんあります。

また演劇史を学ばない理由に「役者は心で芝居をするものだ」「知識ばかりあると、演技が説明的になる」などの話をよく聞きます。
ですが、演技講師の立場から言わせてもらうと、それは「役者の怠慢」以外のなにものでもありません。知識や学習をした後に、それをどう現場で、自分の演技に活かすかのか?その掘り下げが甘いとしか言えません。小学生で足し算や引き算を習い、それを普段の生活でも自然と使っていますよね?それと同じです。
大事なのは、学んだものを現場でどのように活かすか。その試行回数が重要になってきます。自然とそのようなマインドセットになっていけば意識しなくても自然と武器になります。

一部の天才的な役者にはそのようなことは分かります。ですが、世の中の役者は天才ばかりではありません。良い演技をして、観客を魅了する役者になるためには天才と同じようなことをしていても敵うはずはありません。
自分の知る限り、多くの観客を魅了する役者は演劇史と演劇的な知見を備えている人は多いです。それだけ、重要なことです。

学ぶことは楽しいこと。それを自分の仕事にどう活かすかは、その本人次第だと思います。

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