郷土史や地理的なものも資源であるが、最も重要な資源は人
町内会館の中に絵本などが蔵書されている本棚があり、ふらっと立ち寄ってみる。
最上段は大人向けの地元の書籍が並んでいるようだったからなんとなく手に取ってみた。
すると開かずにはいられない二冊が存在していることに気づく。
「神事とイベントのはざまで」
「東雲町の今昔」
神事とイベントのはざまで
副題に−直江津祇園祭調査報告−とある。
本書は龍谷大学社会学部社会学科の2017年度「社会調査実習」の報告書であった。
滋賀の大学生が指導教授と共に直江津を訪れ(どうやら附船屋に宿をとったようだ)、文献調査やインタビュー調査を行い、地方都市の人口減少と地域の祭りとの関係について様々な角度でアプローチしたレポート集のようなつくりになっている。
冒頭の指導教官が記した直江津祇園祭のあらましは、地元の人間でも理解の薄い歴史的背景なども丁寧に描かれており、これだけでも一読の価値がある。
その後は、いくつものトピックで構成されており、学生がまとめたものという雰囲気いっぱいのものから、文献を引きながら丁寧に考察がなされているものもあった。
学生のパートに共通するのは現地関係者の声が反映されている部分が多いということで、授業の一環とはいえ、第三者がインタビュアーになるからこそ引き出せたのだろうと感じる本音も見え隠れする。
この一冊で、直江津祇園祭が概観でき、そこに関わる人たちの息遣いを感じることができる良書である。(しかも発刊から10年と経っていない)
そんな本書がなんとなしに町内会館の本棚の一角に入っているのがまたおもしろい。
東雲町の今昔
直江津駅南からすぐのところに位置する、東雲町で唯一の寺院である徳泉寺の住職、田浪氏が25年ほど前に記した一冊。
驚くべきことに、一町内だけにスポットライトを当て、その歴史をまとめたものになっている。
町内の変遷や、町名の由来、産業や町内会組織に至るまで、当時の町内のあらゆる情報が網羅されている。
今であれば地域のポータルサイトになるくらいの情報量であり、それをほとんど一人で編纂したというのだから驚くべき行動力と実現力である。
本書をログとして、これを更新するような形で記録を積み重ねることができれば有益な資料となってゆくのだろうと感じる。
地域資源で大きなものは
こうして形に残ったものを見ると、凄まじいエネルギーを感じずにはいられない。
そして、そのエネルギーの存在した地に今の私たちが生活していることが感じられるようでどこかその事実と現実が乖離しているような気もする。
地域の魅力を掘る、という文脈になると郷土史、地理的特徴、産業などにばかり注目してしまいがちだが、人々の営みを動かしているのはつまるところ人である。
地域の魅力を魅力たらしめている人そのものが資源であると考えられれば、「おらんとこは何もないから」なんて卑下することもないと思うのだが。