水源地で地球の起源を探り、私たちの源へ還る旅「みなかみディープタイムトラベル2022」開催レポート
利根川の最初の一滴を生み出す、群馬県みなかみ町。
東京都心から1時間ちょっとで訪れることができる距離にもかかわらず、
ここには日本を代表する貴重な自然が数多く残されています。
日本百名山の一つである「谷川岳」や、登山家を惹きつけてやまない絶壁「一の倉沢」などは、よく知られたシンボルの一つ。
年間を通して、様々なアウトドアアクティビティが充実しており、全国各地から多くの観光客が訪れます。
地域の大切な資源であり、宝である豊かな自然と上手につきあいながら
まちづくりを展開してきたみなかみ町は、それらの取り組みが評価され、
2017年にユネスコエコパークに登録されました。
そんなみなかみ町に魅了されて、横浜から単身移住をした筆者は
2022年11月12日(土)~14日(月)の3日間、「水と森林と人を育む」この町を舞台に、環境問題に関心をもつ都心の若者を招き、これからの生き方を考える、自己内省プログラムを初開催しました。
こちらのnoteでは、参加者の言葉や実感、みなかみの柔らかで厳しい自然の風景とともに、3日間のプログラムの様子をご報告します。
みなかみディープタイムトラベルとは。
今回のプログラム、「みなかみディープタイムトラベル」という一風変わった?コンセプトのもと、企画設計を行いました。
まずは、こちらの企画趣旨をご紹介したいと思います。
コロナウイルスはもちろん、気候変動や生物多様性の損失など、現代に生きる私たちは日々、さまざまな地球規模の課題に直面しています。
テクノロジーは進化した一方で、人々はスマートフォンの通知に追われ、
注意散漫な短期主義に陥っているともいえます。
スピードを追い求め、目先の利益に走る文化が広まった結果、
これから先の未来(世代)への関心が失われてしまいました。
そんな時代にあって、私たちの時間感覚を、数秒、数日、数か月といったスケールから、数十年、数世紀、数千年というスケールへ拡張することは、
自分の人生の時間を超えて、私たちの行為が引き起こす、長期的な結果へとフォーカスする営みにつながります。
豊かな水質と水量を誇る、みなかみの水は
降り積もった雪や雨が永い年月をかけてゆっくりと壮麗な山々に抱かれ、
いくつもの地層をくぐり抜けることで、貴重な一滴へと生まれ変わります。
それは46億年という長い歴史をかけて紡がれてきた、私たちの生命と同じ。静かに流れ、絶えず動き続けています。
「今、ここ」への囚われから解放され、
「ディープタイム」悠久の時の流れの中で、
この世界を見つめてみると、自分が大きな連鎖の一部であることを想像できるようになります。
深い時間の流れに身を置き、地球の起源をさかのぼっていくこと。
まるで森の奥深くに眠る「オアシス」を発見するように、
私たち一人ひとりを突き動かす「源」に立ち返ること。
そんな体験をお届けできないかと考え、
「みなかみディープタイムトラベル」を考えました。
募集時のHPでは、このような方におすすめをしていました。
様々なタイミングとご縁をいただき、今回は6人の参加者(&町の親子)が集まってくれました。
気候変動をはじめとする環境問題に危機感を覚え、関東や関西などで活動を行う10~20代の若者を中心に、自然の中で自分と向き合いたいという方々です。
紅葉もピークを迎え、冬の訪れを感じ始める頃。
参加者のみなさんが遠方からはるばる、みなかみを訪れました。
1日目<自分のルーツをたどる>
ここからは、プログラム3日間の中身をお伝えしていきます。
11月12日(土)。みなかみの天気はすっきりとした秋晴れ。
新幹線がJR上毛高原駅に到着する9時半頃。
参加者のみなさんをお出迎えに。
全員がほぼはじめまして、の初日。
よそよそしい様子であいさつを交わしつつ、車でお宿の「さなざわ㞢テラス」へ移動します。
荷物をおろしたら、早速、プログラムに入ってゆく前の「種まき」から始めていきます。
目の前に棚田が広がる、宿の敷地にて。
まずは自己紹介として、森の中にあるモノを使って自分を表現する「森の名刺づくり」を行いました。いつもの肩書きを一旦置いて、自分がどういう人間なのかを、自由に表現します。
赤く紅葉したもみじや、土、青々とした葉っぱや木に実る柿と、さまざな自然の恵みを使って私とは何者か?を表現していくみなさん。
「額縁」である、真っ白なキャンバス(名刺板)をどこに置くかも、一人一人多様。作者に案内されて名刺が置かれた場所に行き、本人の説明を聞くのも面白いです。
それぞれが大事にしているもの、切っても切り離せないもの、自らを形作るものが浮かび上がってくる、オープニングとは思えない濃厚な時間でした。
その後は、宿に戻って「役割をおろす時間」。
3日間、じっくりと自分自身に向き合うために
普段、「人間」として生きながら背負っている、さまざまな役割をおろしていきます。
必死に生きているとつい忘れてしまいますが、私たちもれっきとした自然の一部です。
その原点に立ち返るために、あえて普段背負っている役割を紙に書き出す作業を行いました。
思いつくだけ書き出した後、ペアで共有し、おろされた役割はこちらで一旦、預からせていただきました。
ここでようやく、初日のランチタイム。
みなかみに家族で20年以上暮らし、家づくりや蒸留、カフェなどを手仕事で行う、sumika(スミカ)さんのお弁当をいただきました。
「コメ、水、野菜の3つを大切に、身体が喜ぶ料理を、多くの人に届けたい」という想いから
地域の農家さんが農薬を使わずに育てた野菜やお米、自分達で育てた鶏の卵やヤギのミルクなどを中心としたメニューを提供されています。
本日のお品書きはこちら。
・酵素玄米ごはん(しょっぱい梅漬と煮こんぶのせ)
・チンゲン菜のきのこあんかけ
・にんじんのラペ
・厚揚と季節の野菜の煮物
・大根とシソの実のもみ漬
・田村野菜と豆乳マヨネーズ
・塩麹とりのグリルトマトソースがけ
(ベジタリアン向けには、おふのトマトソースがけ)
作り手のわかる素材を使用して作られたお弁当は、口に運ぶたびに思わず顔がほころんでしまいます。
とても美味しかったです。ご馳走さまでした。
午後は、水上温泉街の社会体育館に移動して、身体を動かすセッションに入ります。
その前に、3日間で探求したい問いの共有を行いました。
プログラム当日までに、上記の要素を含んだ問いを考えてきてほしいとお願いをしていましたが、
みなさん、悩みながらも誠実に考えきてくださり、それぞれが渾身の問いを発表してくれました。
ちなみに、私が出した問いは、
でした。問いの背景については、別のnoteで詳しくお話したいと思います。
どの問いも、その生を生きてきた本人にしかわからない、切実さに溢れています。
さて。
午前中のワークを経て、お互いの輪郭がぼんやりと見えてきたところで、いよいよ本題のコンテンツに入ってきます。
初日の目玉は、「ムーブメント・メディスン」です。
ムーブメント・メディスンとは、
身体から生まれる自然な動きを通して私たちに備わる叡智を引き出し、生きる力を育てるワークです。
芸術性・科学性・セラピー・シャーマニズムの特性を融合させた、現代を生きる人間のメディスン(薬・癒し)となるダンスと言われています。
3日間それぞれでテーマを設けている今回。
1日目は「自分のルーツをたどる」とし、
自分はなぜ今ここにいるのか?
どこからやってきた存在なのか?何者なのか?
をさぐるべく、ムーブメント・メディスンの力を借ります。
自分の「源」に立ち返るためには、表層的な部分でやりとりをしていても、お互いのありのままを見つめることはできません。
普段の取り繕いや恥や恐れを捨てて、
自分をゆっくりと解放し、外に開いていくためには、左脳的に思考するより、身体の感覚を頼りにするダンスが有効だと思いました。
導いてくださる講師は、ムーブメント・メディスン公認ティーチャーの宮田恵さん。
日本で初めてこのダンスを教え始めた方です。
みなかみにほど近い、群馬県渋川市在住の恵さん。ひょんなことからご縁をいただき、ディープタイムトラベルのコンセプトに共感して、ご参加いただけることになりました。
主催者含め、全員が初体験のダンス。
戸惑いの表情を浮かべながらも、恵さんの言葉にあわせて手や足、身体が求めるままに、動いていきます。
はじめはぎこちなく、どこか周りの目線を気にしている様子だった参加者も次第に心を解放し、身体に身を委ねるようにして、舞い始めます。
一人から始まったダンスが、やがて隣りの誰かと呼応し、
時間をかけて集合体にうつろいでいきます。
少しずつ、自分と他者の境界が曖昧になっていき、
私が私でありながら、私たちになっていく感覚。
これはおそらく、踊ってみなければわからない境地なのかもしれませんが、
「踊る瞑想」と言われる所以はこういうことか、と静かに納得するような心地です。
最後は、タケティーナと呼ばれるリズムプロセスへ。
全員でサークルになり、足のステップ、手拍子、コールアンドレスポンスでリズムを刻んでいきます。昔々、火を囲んで部族で踊っていたときのように、リズムの源につながっていきます。
冷たい体育館の床を、裸足で蹴り上げながら、
声を重ねながら、今ここにある瞬間そのものをみんなでお祝いする。
じんわり、躍動感のある時間が流れていました。
ほんの数時間前とは似ても似つかない表情で、
身体中の筋肉がほぐれた様子の参加者たち。
荷物をまとめて外に出ると、すっかり日も暮れていました。
真っ暗な夜道を通って宿に戻ってから、夕食を食べ、
ダンスの感想を共有しました。
「全身に根っこが生えているような感覚だった」
「身体は外に外に向かっていくのに、心はうちにうちに向かっていく。
身体と心の波は違っているんだと気づいた」
「私たちはみんなリズムで生きているんだと気づくことができた」
この身体が家である。
恵さんの最後の一言が印象的でした。
世界に一つしかない、この身体を大切にするために、その声を聴く。
型のあるダンスでは味わえない、
考えて動くことから、身体に委ねて動かされるという体験は、
ムーブメント・メディスンならではだと思います。
時計を見ると、気付けば22時をまわっていました。
初日は遠方からの移動もあり、皆さんぐったり疲れた様子。
2日目<地球の起源をたどる>
一夜明け、天気はくもり。
朝のチェックインでは、
「寝る前にスマホを見ないで眠れた」
「自分のリズムで起きれていなかったけど、今日は頭のだるさなく起きれた」
「心地いい筋肉痛がする」などのコメントをいただきました。
気持ち新たに、2日目はディープタイムウォークからスタート。
本日のテーマは「地球の起源をたどる」です。
ディープタイムウォークとは、地球46億年の歴史を4.6kmに置き換えて、自然の中を歩くというもので、
イギリスにある、エコロジーを実践的に学ぶ大学院大学「シューマッハ・カレッジ」にて、生態学者のステファン・ハーディングらが開発し、「生命の巡礼の旅」とも言われています。
移住前にシューマッハ・カレッジを訪れ、ステファン教授のディープタイムウォークを直に体験した筆者は、これこそ気候危機の時代に体感すべき、生きた学びだと直感しました。
地球がどのように誕生し、私たちがなぜ今ここにいるのか、体感的に知ることができる貴重なプロセスを、日本の若者にもぜひ知ってほしい。
そう思い、移住先でもディープタイムウォークをやれないかとリサーチを重ねてきました。
町の9割が森林であり、利根川の源流域にもあたるみなかみ町は、ディープタイムウォークを行うのに、まさにうってつけな場所です。
この日はみなかみ町のお隣、沼田市在住の親子一組が参加してくれました。
地元の中学校で技術を教えながら、環境問題に取り組み、どこへ行くにも移動は自転車で!というガッツがすごいお父さんと、その娘さん(小学2年生)です。
最年長と最年少が加わり、一段と賑やかな雰囲気に包まれながら、宿を出発。
宿がある一帯は、大峰山と呼ばれる山のふもとにあたるため、
適度に自然と触れ合いながら、歩くことができます。
始まりの合図は、みんなで横一列に並び、ジャンプでタイムスリップするところから。
46億年前、地球が誕生する前の地点に遡りました。ここから、4.6kmを歩いていきますが、1歩進むごとに50万年の年月が流れていきます。
1メートルは100万年、1ミリは1000年の換算です。
「ビックバン」で知られるすべての始まりから、最初の1kmほどは、月や地球の大気、地殻が作られていきます。
その後、地球上での初めての生命が誕生します。私たちの遠い祖先です。
やがて、いくつかのプロセスを経て、単細胞生物から多細胞生物が生まれる瞬間が訪れますが、ここは寸劇を通じて学んでいきます。
そして、最後の500mほどで、カンブリア期、地上植物の進化、陸上動物の進化、両性類、爬虫類、恐竜時代、鳥類・哺乳類時代と、いろいろなイベントが一気に起こります。
ものすごい進化と多様性が目まぐるしいスピードで流れていきますが、人類が誕生するのはディープタイムウォークが終わる直前で、一歩もないほどの距離です。
現在の地球の状況を大きく変えたと言われる、産業革命は1ミリのわずか5分の1、0.2ミリしかありません。
4.6kmという距離そのものは、ゆっくり歩いていけばそこまでハードではないですが、進化が生まれた各地点で立ち止まりながら話をしていくと、ゆうに3時間はかかります。
しかしそのタイムスパンと、自分の足で歩いてきた距離が、まさに生命の歴史の長さ、ディープタイムを実感させてくれます。
それまでの自然の長い進化と奇跡の積み重ねを、気候変動という、最後の数ミリに満たない時間で破壊しようとしていることに、ショックを覚えずにはいられません。参加者のみなさんはそれぞれの心境を語ってくれました。
「最後の0.2ミリは絶望しそうになるけれど、やることをやるだけでいいのかもしれないと思った。たとえ1歩進んだらなくなってしまう人生でも」
「地球にしてみれば私の人生は点でしかない。逆にふっきれた」
「なぜ生きるのか?という自らの問いに対して、無理に生きようとせず、46億年前から紡がれてきたリズムにのっかるだけでいいように思えた」
「長い歴史の中で月ができて、海ができて46億年かけて築かれてきた地球のプロセスが私の中にも取り込まれていることがわかった。 私たちの中にも地球が息づいている。 人間が地球に生きていて、太陽光、植物、動物、そして化石燃料など様々なエネルギーを取り込んで、文明を発展してきた。まるでどこまでも膨れ上がり続けるカオナシのように。 その結果、自分たちの生存自体が危ぶまれるようになっている。 視座を転換して今度は自分たちが地球にとってのエネルギーになるにはどのような生き方をすればいいのか考えてみたい」
ちなみにこちら↑の感想をくれた方は、整体師をやられており、生態学の知識と知恵が大変豊富で、ディープタイムウォークを盛り上げてくれました。
道の駅たくみの里でのランチを挟み、午後は赤谷湖の近くムタコ沢エリアにて、生物多様性復元「赤谷プロジェクト」のセッションへ。
ディープタイムウォークで地球46億年というスケールの歴史に触れた後は、
私たちの目の前に広がる、”今ここ”にある、みなかみ町の自然に目を向けていきます。
フィールドは、谷川連峰の西部と新潟県の県境に広がる、約1万ヘクタールの国有林「赤谷の森」です。
ここでは地域住民、自然保護協会、林野庁という立場の異なる3者が協働して、生物多様性の復元と持続的な地域づくりを進めています。
全国的にも珍しい取り組みとして知られていますが、その背景には、1990年代の巨大開発計画がありました。
当時、大手不動産業者によるスキー場建設計画と、国のダム建設計画が持ち上がっていましが、住民から反対の声が上がり、温泉宿の主人たちが「お客さんに豊かな森林やおいしい水を残したい」という思いで行動を起こしたそうです。
反対運動にはNGOの日本自然保護協会も合流し、二つの開発計画は、2000年に撤退を余儀なくされました。
全国で初めて、国有林を地域と共同管理する取り組みが生まれるきっかけは、ここから始まったのです。
赤谷の森エリアの一つ、ムタコ沢を歩きながら、日本自然保護協会のみなかみ町駐在職員、武田裕希子さんのお話を聞きます。
武田さんも、一年ほど前にみなかみ町へ移住した方で、
筆者が大学時代に行っていた環境活動を通じて、共通の知人がいたことが判明し、お互いの活動の重なり合いをいい形で活かすことができないか、話してきました。
そのため、みなかみ町で人間と自然とのつながりを取り戻す、という
今回のプログラムを行うにあたって、真っ先に協力を依頼しました。
午後はあいにくの雨でしたが、しっとりとした香りが広がる森は、より五感を刺激してくれます。
林道を歩きながら、湧き水に触れてみたり、耳に手を当てて川の音を聞いてみたり。
子どもの頃に戻ったような純粋な感性で、みなさん感嘆の声をあげています。
時間の流れを忘れて歩き続けていくと、突きあたりに2方向にわかれる分岐点が見えてきました。
ここは、例の開発計画の面影を残す場所だといいます。
当時、工事に向けて2車線の道路が整備されたそうですが、今や中央線は雑草で見えなくなっていました。
実際に現場を見てみると、また強く心に湧き上がってくるものがあります。
赤谷の森に棲む、クマタカの子育てができなくなること、
村の大事な水源が損なわれることを危惧し、地域の方々が声をあげたことで守られた、赤谷の森と生物多様性。
改めて、これだけ豊かな自然が今も残されていることに、手を合わせたくなる気持ちになりました。
終始、武田さんの生物愛に溢れた説明に、参加者も身を乗り出して耳を傾けていました。
宿に戻ってからは、温泉に入って冷えた身体を温めます。
みなかみ18湯の一つ、 “真沢温泉”は美肌効果が高く、美人の湯と呼ばれているそうです。日中は、温泉に浸かりながら、美しい棚田を一望できます。
お風呂上りは、旬の炊き込みご飯と、利根川でとれた川魚をいただきました。
気付けば、明日は最終日。
みなさん、この日の夜は、何やら遅くまで語り合っていたようです。
3日目<自分の源に還る>
あっという間の3日間。
すっかり打ち解けた様子のみなさんは、和やかに談笑しながら、共有スペースに集まってきました。
最終日の朝は、心のこもった朝食から。
「食でみんなとつながりたい!」という想いをこめて、
みなかみ町で出張販売や助っ人料理人をされている、
「Yujuカンパニー」さんのケータリングをいただきます。
「Yuju」はサンスクリット語で、「つなぐ、結び付ける」という語源をもつそうです。
代表の中澤祐子さんが、宿の厨房で直々に調理してくだり、
新鮮な食材が彩り豊かに盛りつけられたプレートをありがたく、いただきました。
もみじが添えられた、ホットドックは熱々でとてもジューシーでした。
朝から豪華でヘルシーな食事をいただいたところで、
若干急ぎ目で、本日の目的地へ向かいます。
最終日は、「自分の源へ還る」がテーマです。
1日目、2日目と、踊って、歩いて、散策して、
たくさん発散・吸収してきたものをまといながら、
3日目は再び「自分自身」へと還っていきます。
場所は、みなかみ町藤原地区上ノ原。
全国でも国土面積の1%に満たない、水源と森と草原が共存するエリアです。
この地もかつてダムやリゾート建設の波にのまれ、開発の手が及びましたが、結果的にその対象から外され、管理されないままに荒れ果てた山林原野が広がっていったそうです。
そこに、首都圏の都市住民と藤原の地域住民、町役場が連携し、 40年間放置されていたかつての入会地、コモンズを再生させる取り組みが始まりました。
その中心にいるのが、地元の団体「森林塾青水」です。
メンバーの一人であり、現在は地域おこし協力隊として林業に携わりながら、リトリートとよばれる活動を行う柳沼翔子さんに、セッションのコーチをお願いしました。
柳沼さんも、武田さんと同じく先輩移住者の一人で、
筆者が初めてみなかみを訪れたときから、人と自然の再生というキーワードで活動されている姿勢に共鳴するものを感じていました。
ご自身も、会社員時代に多忙でうつ状態になったことから、コーチングをならい始め、その経験の中で、人や組織が解放されていくプロセスに自然があること、
自分らしく生きていくことが、社会や地球の持続可能性に繋がると気が付き、みなかみでリトリートを行うようになったそうです。
ちなみに、リトリートとは、語源の退去・撤退・隠れ家などから派生したことばで、日常から離れて心身をリセットし調える時間・過ごし方と言われています。
みなかみの水源郷 藤原の自然の中で、五感や身体感覚をめいいっぱいに使いながら、本来の自分に戻っていきます。
標高の高さからも、この季節はかなり冷え込むエリアですが、
日中は陽が照っており、大の字になって寝そべってみると、とても気持ちがよく。
柳沼さんリードのもと、まずは呼吸と瞑想から始めていきます。
この自然、大地がつくりだしてくれた酸素を吸い込み、ゆっくりと吐き出していきます。
少しずつ感覚をひらいたところで、上ノ原を散策。
森林塾青水の方々が野焼きや茅刈りを行い、再生されてきた茅場の背後には、「ゆるぶの森」があります。
原生林のような巨樹は無いですが、樹齢100年に満たないミズナラなどの樹木が多く生存し、様々な生き物が暮らす、多様性豊かな森です。
豪雪地帯として知られる藤原は、多い時には2~3メートルの雪が降り積もります。
そのため、雪の重みで木の根本が屈折している「根曲がり」が至るところに見られました。
森の奥深くに入ると、ぽっかりと開けたところに、泉が湧き出ています。
ここは「柞の泉」。
年間を通して水温が8~15度に保たれています。
クマが木登りするときに残した爪痕や、クロモジの香りを嗅ぎながら、
ぐるっと一周して、瞑想をした場所に戻ってきました。
ここからは、森でひとりの時間を過ごします。
柳沼さんのリトリートで、いつも設けられている大事なひとときです。
十分に感覚が開いた状態でのひとりの時間は、自身の内側での対話が繰り広げられるとか。
お昼ご飯のおにぎりをもって、心の赴くままに三々五々、散っていきます。
おにぎりは、谷川岳の麓のおにぎりや「futamimi(ふたみみ)」さんから、まいたけおにぎりと、季節の梅とおかかまぶしにぎりをいただきました。
お水とお米にこだわって丁寧に結ばれたおにぎりは、この上ない贅沢です。
1時間。
静けさに包まれた上ノ原。
それぞれ、どんな時間を過ごしたのでしょうか。
焚火を囲んで、振り返りを行いつつ、
3日間全体のクロージングに入っていきます。
ひとりの時間を過ごしている間は、
頭で何かを考えようとするのではなく、
ただぼうっと、目の前で揺れ動くものを見つめていた。
そんな方が多かったようです。
静かにそよいでいるススキを見ていると、
心がほどけて、自然と湧き上がってくるものがあるのだと思います。
上ノ原の自然は優しいですよね。
柳沼さんにそう伝えると、それは人の手が入っているからだとおっしゃっていました。
ススキは、半自然なんです、と。
少しずつ、日が傾いていく中、
初日に”おろした”役割を、みなさんの手元に戻していきます。
3日間を経て、普段の役割に還ると、
役割を背負って生きているいつもの自分にも感謝の気持ちがわいてきます。
それから、参加者一人ひとりに3日間で感じたこと、
初めに設定した問いは、それぞれどのように耕されたのか、お話していただきました。
みなさんの口から紡がれる言葉が、あまりに屈託のないもので
時間を忘れて聞きいってしまいました。
全てをお伝えすることはできませんでしたが、
このプログラムに集った6名は、時間さえあれば本当によく喋る方々で、
終始、プログラムが押していましたが(笑)
お互いの存在が呼応しあっている場面を何度も見かけました。
心の内にあるものを言葉に出して、伝え、受け取ろうとする姿勢があったからこそ、3日間の学びや気づきもこれだけ濃いものになったのかもしれません。
生きていれば、ままならないことがたくさんあり、
情け容赦ない現実に押し潰されて、
自分や他者を蔑ろにしてしまうことも少なくありません。
その結果、生命のサイクルがちゃんと機能しなくなり、
ある種の症状として、気候変動が起きているのだと思います。
人間の心の危機につながっている問題。
だからこそ、意識的に立ち止まる時間が必要なのだと思います。
「Let's Nature Lead Away」
最後に感想を話してくれた方が、残していた言葉です。
とてもシンプルな言葉だけど、導かれるままに生きていきたいと。
大きな宇宙の中の、小さな宇宙である私たち。
ばらばらのように見えても、全ては相互につながりあっている。
自分の中に眠る、生命の声に耳を傾けることができたら、
いつもより少しだけ、深い呼吸ができるかもしれません。
「JR新幹線とき」という文明の力に乗せられて、
それぞれの地へ帰っていったみなさん。
これからの旅路はどんなものになるのでしょうか。
プログラム中の写真は、みなかみ町で「ゲストハウス&コワーキングほとり」のオーナーをされており、今回、運営スタッフとしてもご協力いただいた田宮幸子さんに撮影いただきました。
素敵な写真をありがとうございました!
※参加者の方目線で書かれたレポートも、ぜひご一読ください~