情報は熱力学エネルギー???
複雑系とレジリエンスについて勉強をしていていると、どうしても “情報”の定義をしっかり理解する必要があります。
・軍隊アリはどうやって組織化するのか?
・ホタルはどうして同時に発光するのか?
・経済市場はどうして相互に支えあうのか?
このように、無秩序からなぜ突然秩序が現れるのか?
エントロピーに逆らう自己組織化がどのように生まれるのか?について、いまの科学では完璧に説明できないらしいのですが、こうした謎を紐解くいくつかのカギの一つが“情報”だということはわかっているそうです。
情報っていったい何?
1871年に物理学会を震撼させる難問が発表されました。
イギリスの理論物理学者ジェームス・クラーク・マクスウェルが、物理の法則の中でも不動の地位を治めていた、あの「熱力学エネルギー第二の法則」、俗にいう「エントロピー増大の法則」について、この法則には限界があると言いだしたのです。
彼が問いかけた難問は、後に “マクスウェルの悪魔”と呼ばれ、60年もの間、
多くの物理学者を悩ませることになりました。現在では一応決着はしたと言われていますが、いまだに、その悪魔は完全に死んでいるわけではないと主張する科学者がいるくらい厄介な問題なのです。
「熱力学エネルギー第二の法則」
マクスウェルが投げかけた問いを説明する前に、「エントロピー増大の法則」について解説しておく必要があります。
(理系の方は飛ばしていただいて構いません。)
熱力学でいうエネルギーとは、「仕事を行う潜在能力」のことで、
「仕事」とは、物に加えられた力の量と、力が加えられた方向へ
その物が動く距離の積と定義されています。
例えば、倉庫にあるカートを10メートル離れたトラックまで押して移動するとき、押す人のエネルギー(仕事)がカートの車輪を回す力に変換されて前に進みます。カートに加えられた力の量×カートが動いた距離=エネルギー(仕事)となります。
この時、すべてのエネルギー(仕事)がカートを前に進ませるために消費されるわけではありません。押す人の体から発せられる熱に変換されたり、カートの車輪の摩擦熱に変換されるなど損失するエネルギー(仕事)があります。
冷蔵庫も電気エネルギーが圧縮ポンプを動かす仕事をして、冷たい冷気を作ります。この場合もポンプの熱や、冷蔵庫の背面から熱が出ます。このように、冷たい空気を作る等のエネルギー(仕事)に使われないエネルギーのことをエントロピーといいます。
なので、冷蔵庫の電源を切ると、仕事をして作った冷気は、部屋の温度(最大値)になるまで、エントロピーが増大し続けます。これが熱エネルギー第二の法則“エントロピー増大の法則”です。
また、逃げた冷気が電気に変換されて冷蔵庫のポンプを動かすエネルギーに戻ることはありません。
熱力学エネルギー第二の法則では、時間が逆戻りすることが無いのです。
なんとなくお判りいただけましたか?
それでは、マクスウェルが投じた悪魔の問題に戻りましょう。
”マクスウェルの悪魔”
熱力学によれば、エントロピーを減少させるためには仕事が行われないといけません。
マクスウェルは、蝶番が付いたドアがはめ込まれた壁で2つの区画に分けられた箱があり、その箱の中には、ドアを開け閉めできる小さな悪魔がいると仮定しました。右の区画から速度の速い空気の分子が近づいてきたらドアを開け、左の区画に通し、遅い分子が近づいてきたらドアを閉めます。逆に、左の区画から速い分子が近づいてきたらドアを閉め、遅い分子が近づいてきたら右の区画に通すようにドアを開けます。
一定の時間、開け閉めを繰り返すことで右の区画には遅い分子、左の区画には速い分子だけに秩序立った状態になります。エントロピーが減少したわです。
さて、この小さい悪魔はいったいどんな仕事をしたのでしょうか?
確かにドアを開け閉めはしましたが、マクスウェルによると、このドアは無視できるほどのエネルギーで開け閉めができるととのこと。(実際にそのような引き戸を設計した科学者がいます。)
架空の話では?と普通の人は思いますが、物理学者にとっては大問題なのです。なにせ、物理の法則の中でも不動の地位を治めていた、あの「熱力学エネルギー第二の法則」がひょっとしたら不変の法則では無いかもしれないのですから。
以降、 60年間、多くの物理学者がこの悪魔を倒そうと奮闘することになります。続く…