逆噴射小説大賞2024のライナーノーツ

一次・二次選考を突破した作品が発表されたので書く。私の作品は二作とも見当らなかったが(たぶん字下げをしていなかったからだろう)、そんなことはどうでもよい。正直なところ、書いていた頃の記憶がだいぶ危ういので、書けるうちに書いてしまおうと思った次第である。


一作目:探偵は眠れない

30分くらいで書いた。ここではっきり書いてしまうと、いわゆる「パルプ小説」というものを読んだことがない(ラブクラフトなどはパルプ雑誌に小説を発表していたらしいが、ラブクラフトの諸作をパルプ小説として読む人がいるだろうか?)ため、パルプ小説の序盤を書いてくださいといわれて困ってしまった。数分悩んだ末たどり着いた結論は、万人受けやエンタメ性を度外視して、自分が書いていて楽しいものを書くことにした。そして一気に書いて出来上がったのがこの作品だ。

当時(というか現在進行形で)、ラテンアメリカ文学にはまっていたことや、一文が必要以上に長ったらしい小説が好きだったことが諸に影響している。改行は一度だけ、セリフなはずなのに鍵かっこもなく、世界観の説明も皆無。さすがにこんな作品が選考を通過するわけはないが、理路整然とした「説明」や、筋の通りすぎた「会話」にどうしても違和感を覚えてしまう私は、これくらい混乱する書き方の方が書きやすいし、読みやすい(読みやすさとは、一文の短さとか、優しい語彙とかだけの話では決してない、というのが私の考えだ)。この作品はまさに私の好みが凝縮した結晶なのであり、個人的にはかなり気に入っている。

二作目:夜話

これも30分くらいで書いた。どうも一つの作品に長時間かけるのが苦手らしく、時間が経つにつれ、未完成な作品への興味が薄れてしまうようだ。

一作目以上にラテンアメリカ文学からの影響が強く、「語り」を意識した作品になっていると思っている。私は当時これを実家で書いていたのだが、ちょうど机の端の方に数年前に札幌旅行をしたときに買ったオルゴールが置いてあったのをみて、これが静かに鳴りながら誰かが語り続ける物語を発想したのがこの作品の始まりである。

一作目もそうなのだが、この作品も続きのあとはまったく予定されていない。なぜなら、それをしたらいずれ終わってしまうと思ったからだ。私はこのコンテストで終わらない物語を書きたかった。いくらでも引き延ばせるし、いくらだって改変できる、そんな物語、シェヘラザードが王に語り聞かせた『千一夜物語』のようなものを書きたいという意識が間違いなくこの作品にはあって、だから登場人物に語り手と聞き手を用意したのである。結果的に、この800文字だけでは何の物語も始まらず、登場人物の説明も、世界観の説明もなく、全体的に杳とした空気感があるのは否めないが(むしろそういうものになることを願ったのである)、説明をして世界が出来上がってしまうのも嫌だった。だからこういうものになったのである。これも一作目と負けず劣らずお気に入りだ。

謝辞

選考こそ通過しなかったが、noteの方でいくつか嬉しいお言葉を頂けたのは大変救われた。この場で、自著を紹介いただいた方に感謝したい。(敬称略)

お望月さん

『夜話』をまさかまさかの「優勝してほしい部門」のトップに選んでいただけて、とても驚いた。紹介文に書かれている「どこか中南米的なマジックリアリズムの香りが立っている」という分析は見事に当たっており、やはりその時の著者の状況・状態は作品にも色濃く反映されるのだなあ、と思ったりもした。個人的に、多くの人に読まれ評価されなくても、誰か一人に愛される作品を書きたいと思っているので、ここに書かれている言葉を頂けたことは、創作者冥利に尽きる。ありがとうございました。

大橋ちよ

『探偵は眠れない』を紹介いただいた。「ひとりが一方的に喋っている文章」「話がいったり来たりして、なかなか核心に迫らない感じ」というのは、普段私が読む小説によくある特徴の一つな気がする。そういうものを好きだと言ってくださることに私としては共感を抱かざるを得ない。ご紹介いただきありがとうございました。

復路鴉

私の脳内を覗き込まれているのではないかというぐらい、図星なことしか書かれていなくて笑ってしまった。『失われた時を求めて』は、ラテンアメリカ文学を読むよりずいぶん前に読了したきり、結局再読したいと思ったまま時が過ぎ去っていたのだが、改めてこのように紹介いただいたことで記憶の底に沈んでいた記憶が蘇ったように思われた。この作品以外でもいくつかの作品に「スキ」をしてくださったのは嬉しかった(Xの方もフォローいただけて嬉しかった)。ありがとうございました。

以上、乱文失礼、またいつか


2024年12月25日 

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