鼻血戦記
単純接触効果の理論に基づくと、鼻血は私の大親友ということになる。
世の中の人はそんなに鼻血がでないという事実に気づいたのは大学2年生くらいの時だった。
部活の先輩の顔面に何かがぶつかって鼻血が出た。あー、鼻血出てんなぁ。ドンマイ。と、特に気にも留めてなかったら、先輩はみるみる取り乱し始めて半泣きになってパニックであわあわしている。
鼻血で??
「人生で2回目の鼻血でびっくりしちゃった。」
鼻血が???
鼻血って週1回は出ますよね。
うちの兄も週3回は出てますよ。
鼻をかんだら鼻血はでますよね?顔洗ったら鼻血は出ますよね?朝、鼻血の気配で起きることありますよね?
いいですか、落ち着いて聞いて下さい。鼻血は毎週出るもんじゃないんです。
鼻血が出るなら焼しめればいいじゃない
鼻粘膜焼灼術というものがある。
簡単にいうと鼻の中の表面の皮膚と血管を焼きゴテで焼き固めて鼻血を出にくくするというもの。普通の人にとって鼻血が出ることは週1のイベントじゃないと知って調べたら出てきた。
簡単な焼灼術ならクリニックでできることもあるけど、場合によっては大きい病院に紹介状を持って行かないといけない処置らしい。
病院をハシゴしてまで何とかしたいわけではなかったから学生時代は放置していたが、社会人2年目の冬に週5で鼻血が出るようになって真剣に受診を考えた。というか1日3回くらい出たこともあるから週9回とかだったかもしれない。
冬の圧倒的乾燥と出血を繰り返すごとに弱くなっていく鼻粘膜、鼻水が鼻クソになって固まり剥がれ血が出るの無限ループにはまっていた。
ついに鼻栓をしながら職場に出勤した日、あまりに情けない面に受診を決意した。
社会人2年目の冬、勇み足で焼灼してくれそうなクリニックに行った。
主訴ははっきり簡潔に言った方が好感度はきっと高い。
「鼻を焼いてほしくて。週4-5で鼻血が出ます。」
シンプルで分かりやすい完璧な主訴。診察が終わったらすぐに焼いてくれることでしょう。
「血管が太すぎる。焼いても焼いてもキリがないからおすすめしないよ。鼻炎もあるし点鼻薬だけ出しとくね。」
ぴえん…。
焼いたら治ると思ってたのに、そもそも焼けないなんて思ってなかった。
でも点鼻薬したら鼻血も鼻水もなくなって鼻の通りが驚くほど良くなった。もしかして、鼻炎だった。
ぴえん。
鼻、燃ゆ。
鼻焼灼作戦が門前払いされて数年後の今年の冬。
まーー出るわ出るわ。死ぬほど鼻血が出る。祭りかなんかか??鼻栓して出勤が恥ずかしいとかじゃなく、普通に職場で出血する。
私の職場は病院だ。病院にとって血液というのは排泄物と同じくらい汚いもの(感染性廃棄物)として扱われている。全国どの病院でも血液などが付いたゴミは専用のゴミ箱に捨てないといけない決まりになっている。
家では何も気にせずゴミ箱に捨てる鼻血ティッシュが、職場にいると簡単に捨てられなくなのだ。自分の鼻から感染性廃棄物が出ているから。
四半世紀以上鼻血と付き合ってきたけど、流石にもう付き合いきれないのでもう一度耳鼻科に行って焼いてもらえないか打診することにした。
前回断られたしダメ元だったけど、今回受信したクリニックではなんと焼いてもらえるらしい。旬の問題だったかもしれない。
麻酔入りのガーゼをしこたま鼻に詰め込まれる。麻酔入りの鼻水が滴り落ちてくるのでペロペロしたら舌べろが麻痺した。
ごっつい焼きゴテで熱々に焼くと思っていたら細長い金属の綿棒が出てきた。電気メスと同じ原理で電気でバチバチに焼くらしい。15分くらい麻酔を染みこませたからか、痛みはちょっとパチッとするくらい。これは楽勝、なんだもっと早くやいてもらいに行けばよかった。
安心したのも束の間、ジュジュジュッと音がして激痛!!
鼻のすぐ出口が死ぬほど痛い。スプーンいっぱいのワサビを食べて死ぬほどツーンとするやつを物理的にした痛さ。鼻毛を抜いたら思ったより痛かったやつの60倍くらいの痛みがずっと続いてる感じの痛さ。
めっちゃ痛い!めっちゃ痛い!!
ていうか
や、や、焼肉のにおい~~~~~!!!!
医「ん?あれ、もしかして痛い?麻酔効いてないかも。」
せ、せんせ~!!早く言ってよ!!
結局麻酔がちゃんと効いてなかったらしくもう一度麻酔タイムを挟んで再チャレンジすることになった。麻酔鼻水が唇について唇も麻痺した。
2回目も多少痛みはマシだったけど、結局鼻の出口が痛い。麻酔ガーゼが当たりにくい場所だし仕方がないと言えば仕方がないかもしれない。鼻血の出ない冬を思い描いて痛みに耐えた。
鼻毛サバンナ
無事に鼻が焼しめられたらその後も大変だった。
焼しめたところがカサブタになるので鼻を触れないのだ。詳しく言うとカサブタがあるから鼻クソ気分で触って取りたくなるのに触ってはならないのだ。鼻腔全周に鼻クソがこびりついている感覚が1~2週間は続く。あまりにも耐えがたい。
さらに困ることがある。
焼しめたところはいわば火傷の状態になるのだけれど、火傷をすると焼けて傷ついたところを治すために体液が集まってくる。
するとどうか。
死ぬほど鼻水が出る。
そしてカサブタを守るため鼻はかめない。さらっさらの鼻水が永遠に出てくる。
出てきた鼻水がカサブタに付く。
鼻水がカサブタの上で固まる。
カサブタの上に鼻クソがたまる。
とても辛い。鼻がどんどん詰まっていく。
しかも焼灼した加減で鼻毛がほとんどなくなっているのだ。
かわいそうに、まばらになった姿はあまりにもサバンナ。鼻毛は粉塵やらほこりやらをキャッチしてくれる役割もあるのだけれど、サバンナにそれは期待できない。すべての塵が鼻粘膜に直接付くので火傷の鼻水が落ち着いても無限に鼻水と鼻クソが生成される。
鼻を、鼻をほじらせてほしい。
苦肉の策で濡らしたティッシュでなんとか表層をぬぐって鼻くそを優しく取り去る鼻開通の儀を1日数回やることになった。なんだこれ。
圧倒的止血
鼻粘膜焼灼をして半年くらい経った。
1か月もたつ頃にはいつの間にかカサブタもなくなっていた。鼻毛は多少生えたもののサバンナのままだ。
実は我慢できなくて何度か鼻をほじったし鼻開通の儀で何度か出血したものの、今はほとんど鼻血が出なくなった。鼻をかんでも顔を洗っても出血しない。地獄みたいな1か月を過ぎたらちゃんと出なくなった。時々鼻をかむのが怖くて鼻開通の儀をすることはあるけど。
これまでの鼻血ライフが嘘のようになくなった。圧倒的止血、ノン鼻血ライフに乾杯。
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