盆のハイツ
お盆の連休に入ると都会のハイツの灯りが消える。一人暮らしの若者たちが郷里へ帰省するのだろう。それでハイツの各部屋が消灯するのである。この光景に僕は巣を思う。とりわけ蜂の巣。箱が並ぶ巣、人間の巣である。ああ、帰省しているんだなと思いながら、僕はこれらのうちの一室に帰る。というのも、仕事の休みを自由に取得できるため、連休をずらしているのである。ハイツが消灯するのは毎年のことである。ポツポツと灯りが残ることもあるが、僕の部屋以外すべて留守ということもある。そしてふと布団に入ってから思う。この建物には自分ひとりなのだと。すると、じんわりとした恐怖感が広がりはじめるのである。盆ということもあり一層である。そんな盆だが、今この瞬間もこのハイツには僕ひとりである。同じような人も少なくはないだろう。そんな夜に気になるのは、部屋のピシッという音ではない。これは温度や湿度、風による応力などいくらでも原因はある。しかし、階下や階上、隣りの物音は非常に不気味である。なんだ、いるのか、と思い、コンビニへの行きがけに何気なく窓を見ると消灯していて恐怖する。就寝だろうと思ってみるが、やはりその後何日も消灯したままなのである。