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言葉が喚起する / エッセイ
昨夜は祝日前ということもあって繁華街には人が溢れかえっていた。まだ遅くはない時間にも関わらず、酔いの赤ら顔をパンパンにしてシャシャシャ(勝俣や蛇ではない)と仲間と笑っている。黒いトレーナーを着た男が道端にしゃがみ込み、そこにどこからともなく明るい髪の女がやって来て隣に落ち着いた。あっちからもこっちからも人が湧いてきては錯綜している。どぎついネオンにアルコールと食い物が混じり合って軒を連ねて口をあけている。
この夜、私はポンコツと出会うことになるのだが、そのエピソードについては、こちらに書いているのでよければお読みいただきたい。
繁華街の夜となれば居酒屋の客引きがそこらにいるのは当たり前である。彼らは自分が勤める飲食店の人間として客引きをしているのではない。彼らはいくつかの店舗を持ち駒に客に誘いかける。客引きを請け負っている会社があり、そこに雇われているのが彼らということである。
ヒット率が悪いのだろう。よって次第に一回一回がぞんざいになり、振り向きざま、ついでのように声をかけてくる。むこうがぞんざいであるがゆえにこちらも手軽にあしらってしまえる。
しかし、昨夜のとある客引きには妙な気にさせられた。妙な気というのは羞恥である。何も恥ずかしいことはしていない。私は無言で通り過ぎただけである。客引きは女性である。直視してはいないが、二十代前半ほどで白いブラウスにピンクのスカート、ツインテール(ポニーテルもそうだが、女性は頭部を馬の尻に例えられて平気なのだろうか、と考えたが、男の七三などは割合いであり、もはや生き物でもない)に、頭にはこれまたピンクのウサギの耳が付いていたように思う。直視はしていないが。その客引きの女性は私の通り過ぎざまにこう言った。
「興味ないですかぁ~? えへ」
私は無言で通り過ぎた。そして先ほどかけられた言葉を脳内再生した。
「興味ないですかぁ~? えへ」
興味?
興味だと?
興味があるのかないのかを聞いているのか?
君の風貌から予想されるサービスに?
興味があるかどうかと、
私は聞かれたのか?
私の中で興味が芽生えたかと?
はたまた、もともとその嗜好が私にあって、それにマッチしたかと?
興味ないですかぁ~? えへ
興味あるかどうかを聞かれている。
こういうことに興味ある人かどうかを聞かれている。
私は思った。
「どうですか?」とか「入りませんか?」とか「一杯いかがですか?」とか、つまり、『行動』しませんか? などの勧誘なら何も感じはしなかっただろう。
しかし、「興味ないですかぁ~?」は非常にいけない。
恥ずかしい。
客観的に。
つまり他人の目に映るその光景として。
勧誘する言葉の表現パターンの一つとしてそれを使ったのだろう。けれど言葉には受け手にそれに応じた感情を喚起させる力がある。今回の場合、それは『羞恥』であった。二十歳過ぎの麗しい乙女が四十歳の疲れたオッサンに少女趣味風に「興味ないですかぁ~? えへ」は世界が違うのである。その差は、森下仁丹とサンリオピューロランドぐらい違う。言葉は使いようである。