#19 見ざる言わざる、着飾る 春
背中に感じる熱い視線
振り返ることはしない首
髪の毛を 掬うフリして塞ぐ耳
下駄箱にしまう 靴の間に
挟まるメモを 知っていた
休み時間に喋る彼らが
ざわめく訳を 知っていた
変わらぬ時を求める わたし
変わる日々を求める あなた
わたしは世界の有象無象
されど
あなたの世界の一輪桜
青葉の下で挨拶交わし
揺れた瞳に 気づいてた
リノリウムの廊下を鳴らし
近付く足音 気づいてた
校舎に響くキンコンカン
別れの合図 鳴り響く
はらりとスカート
名残惜しげに席を立つ
ハレの日祝う校庭で
迷える視線に 気づいてた
輝く釦を大事に握り
探すわたしを 知っていた
変わらぬ時を求める わたし
変わる日々を求める あなた
髪の毛に飾る 花びらひとつ
ひとり学舎を後にする
舞い散る桃色
わたしに与える彩と
春の匂いが鼻腔を撫でる
淡い桃色満開の 心が落ちる音がした