#29 わたしはいつしか歴史であった
教室の机の上で
ぴらりと広げた教科書は
睡魔に負けた痕跡とともに
ページの端が折れていた
黒板に書かれた年号を
ぼーっと眺めながら書き写す
延々と続く
わたしの知らない世界の話
桜とともに
歳を重ねる
皺一つ無かった手のひらは
いつのまにか刻まれた時を映してる
あの教室のあの日から
時計の針は何百回も
同じ回転を繰り返すのに
わたしは針が進むたび
過去という積み木を積んでいた
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折れ線のない真新しい教科書を
ぴらりとめくる
わたしの知っている世界が既に
そこにはあった
黒板に綴る年号を
懐かしい手触りで書きながら
つい昨日のことを話すように
思わず語り出してしまう
振り向くと
春の気配にあてられて
微睡むかつてのわたしがいた