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現象について3

祈りについて、あなたは尋ねた。その問いは、絡まる指先と、冷えた煙の間にあった。
祈りはそこにあるものだった。そこかしこにそれはあった。ちょうどあなたと話していた日の、オレンジ・ジュースの溶けた氷のような姿をしていた。
それは常にそこにあった。それは猫足の椅子に腰掛け、両の瞳を見つめ、少し震える指先で私の輪郭をなぞった。そしてそれはあちらにある街灯に視線をやり、物静かな涙を連れて来たのだった。
街灯は照らす。革のブーツ、濡れた頬、埃を被った砂糖瓶、それを追いかける白い鳩、呑気に空駆ける燕。
街灯は照らす。赤い口紅、別の星のあなた、ネイビー・ブルーの傘、浮き出た肋骨。
街灯は照らした。古いレコード、夏の雨、サテンのブラジャー、安ワインの瓶2本。
それは確かにそこにあった。そこにあり、そこにあるべきものであった。けれども、それはもうここには無いのだった。石畳の隙間、掻き分けた灰の山、雨に濡れたベンチのどこを探せども、もう無いのだった。

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